第十三話 霧街に隠されたモノ 9。
「まぁ、とにかく歓迎するぜ。見ろよ。俺の秘密基地。」
ラスはするりと地下に降り、ロイがその後に続こうとした。だが、そこへ渦翁が駆け込んで来た。
「ここにいたか!二人とも直ぐ来てくれ!烏頭鬼が全軍で侵攻を始めた。」
ロイは安堵し、ラスは疑問混じりに舌打ちをした。
(折角のショーが台無しだねぇ。誰だよ勝手してんのはさぁ……まぁいいや。まだ1週間くらいは死なないだろ、ハクは。)
渦翁にしては珍しく混乱し、興奮していた。二人を霧城の最上階のいびつな部屋から、誰も居ない金剛議場に連れ出した。渦翁は念鏡と念珠をせわしなく使い怒鳴り、関係者を集めた。が、
「渦翁様、すみませんが、誰も渦翁様にそのような連絡を行っておりません。」
「ふざけるな!貴様!私の狂言だとでも言うのか!」
始めて聞く渦翁の怒鳴り声が金剛議場に響き、急に呼び出された面々は萎縮して震え上がった。渦翁の怒鳴り声は一文字が遅れて現れるまで続いた。一文字は渦翁の角の巻き具合を見て全てを悟った。霧街の命運は尽きようとしているのだ。全てを理解しながらも、一文字は自分の役目を忘れなかった。怒鳴り続ける渦翁を一文字が説得して、その場は収まった。当然、渦翁の名声は大きく損なわれた。興奮しているはずの渦翁の顔色は悪く、一文字には、渦翁が憔悴している様に感じられた。それだけの何かが起こっているのだ。
――そして、もう一つ。この騒ぎの間にラスのいびつな部屋が何者かに襲われて破壊された上に火を放たれ、消し炭となった。




