第二十一話 セアカ。
今回も、舞闘会は熱狂に包まれている。次から次へと試合が行われ、勝者と敗者に仕分けされていく。泣き、笑って、怒号や歓声が渦を巻いている。観客席ではお弁当やお酒、お菓子が販売され、皆はしゃいでいる。司会進行役のアヒルモルフのシャウトが、マイクの前でがなり立てている。いよいよ、幼生の試合が始まるのだ。
「残念だ!非常に残念だけど、そろそろ夏の舞闘会も終わる。だが……だが!その前に!いつも三人だけで試合しているエイラ達よ!」
シャウトの言葉に会場がざわつく。シャウトはその様子を満足そうに見回してから、宣言した。
「今回のエイラの試合は、大喝破様のご提案で、暁との乱戦とする!!」
わっ!と会場が沸いた。成体よりも強いと噂される腕白達の実力が見られるのだ。最後の子達は街のアイドル的な立ち位置にいて多くの街人から愛されている一方で、妬まれてもいる。会場はクウ達への声援と暁達への声援で割れた。シャウトは続けて三対三の団体戦とし、先に3人とも倒れたチームの負けであることを発表する。暁の参加者は自分達で選出する事も伝えられた。
「よし!面白くなってきたぞ!」
ロイは大喜びで、腕を振り回し始めた。ハクもその気だ。目を輝かせて鼻息も荒い。クウだけは先程のセアカとのやり取りのせいでどうも乗り気じゃない。
「昏とだったら良いのに。」
セアカと試合をしたくないクウが呟いた。ロイが返す。
「まあ、今回は暁で我慢しておこうぜ。」
「物足りないか?調子に乗るなと言ったはずだ。」
セアカの声だった。背後の暗がりに8つの赤い瞳が浮かぶ。ゆっくりと毒蜘蛛のモルフが姿を現す。より人型に近い、人化状態だった。ポケットに手を突っ込んで、ぬっ、と立っている。そこに気弱なセアカは居なかった。第七階層、第八階層の王者の顔だった。冷酷な毒蜘蛛がそこにいた。
「秒殺してやるよ。」
セアカは宣言した。試合は勝ち負けの他に決着までの時間も記録となる。記録は分単位で行われる為、1分以内の決着はゼロと記録され、これを舞闘者達は秒殺と呼んでいた。
「セアカ。これはエイラとの試合だ。殺し合いではない事を忘れるな。互いの成長が目的だ。」
先ほどの乱戦の疲れを微塵も見せずに、今回の舞闘会のサポート役であるグワイガは言った。セアカが正しくあるように、歪まないようにと思ってそう、発言した。でも、セアカの耳にはクウの擁護にしか聞こえなかった。
「もう、良いんですよ。グワイガさん。狩猟隊も抜けます。でも、試合は好きにさせて貰いますよ。」
何かが、ぐさりとグワイガの心に刺さった。狩猟隊を辞めるようにセアカに勧めたのは、間違いだったのだろうか?セアカは歪んでしまったのだろうか?健やかに育って欲しい。只、それだけなのに……。クウ達は勿論、セアカでさえ判って居なかったが、成体にも迷いはあるのだ。悩みがあり、答えを持たない。中身は子供と変わらない。皆、弱いのだ。グワイガは何も返せず、セアカは去った。
「あいつ、きらーい。」
何も知らないハクはセアカの背中に舌を突き出す。ロイは、一歩下がって、ハクをクウをそして、グワイガとセアカを見ていた。ロイはいつか父の跡を継ぎ、街の統治者になりたいと思っていた。この小さくて重要なコミュニティをその視線で見ていた。心に留めて置くべき危険なしこりが、ここにはあった。控え室の外では、シャウトが叫び観客を煽っている。舞闘場は日の光に溢れて……でも、控え室までは届かない。だから、たぶん、そう。
……ここは余計に暗い。




