第九話 霧街に隠されたモノ 5。
「いい湯だねぇ。相変わらず。」
のんびりと呟いたラスは、霧城の最上階にある大浴場で露天風呂に浸かっていた。風呂に入れないロイは一通りの外殻を外した状態で、湯船の横にある岩に腰掛けていた。当然、ロイは地下大評議場の舞闘の事は知らない。評議場内の狂ったモルフ達の存在も。ロイだけではない。六角金剛達も知らなかった。戦で街の内部に気を配っている場合ではなかったし、評議場の変化は僅か一晩で発生していたのだ。評議場の外見の変化に異常の兆しを感じ取っていた彼等はしかし、特別な対応を行うことは無かった。何千人の異形を一晩で、評議場に移すことが出来るなどとは考えていなかった為、何か悪さを働いていてもたかだか二十名ほどの異形の行いだと高をくくっていたのた。このような身近で外の戦場より救いがたい凶行が行われていることを想像していなかったのだ。フラウと手を組む素振りを見せながら、フラウの心の内部に浸透して、ラスは評議会を掌握した。そのまま本拠地を奪い、無法者を霧街の周辺部から引き込んでいた。彼の超常能力で。
ラスはしたい様にしていた。無数に居るラスの影が厳重に見張り、異常を拒絶する霧街らしい清らかさを持ったモルフ達に知られないようにしていたのだ。大評議場を出入りする狂ったモルフ達もそれを口外する事はなかった。この狂気の舞闘は、ラスが現れる遙か以前から、荒れ地にて密かに行われており、徐々にその規模を拡大してきたのだ。その過程で秘密を守れない者は排除されてきた。今、舞闘場に出入りする者は、行いを完全に理解している、狂気の賢者達なのだ。街人達は評議場が荒くれもの達を隔離している施設になったのだとしか感じていなかった。非常に大胆な行いだったが、ラスとロイが帰還して一週間のこの時点では、まだ誰にも気付かれる気配は無かった。
狂気の大評議場のことを知らないロイだったがそれでも充分、彼の顔色は優れなかった。戦には負け続け、霧街内部は六角金剛とラスに割れて、胆月も死んだ。ロイは、霧街に帰ってから、ずっと考えていた。
(ラスは何者なのだろうか。)
と。大浴場は湯の煙に包まれ静かで平和だった。外では、一瞬一瞬で多くのモルフ達が死んでいるというのに。ロイの決心を見透かすかのようにラスは告げる。薄く振り返って、目の端でロイを睨む。
「……この後、俺の部屋に来いよ。面白いモノ見せてやるぜぇ……。」




