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「天恵」 ~零の鍵の世界~  作者: ゆうわ
第七章 霧城の決戦。
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第七話 霧街に隠されたモノ 3。



 「おーいいねぇ。次の舞闘者はジャジャか?あいつの蛇のウィードゥーで動けなくなったモルフが逆らうことも出来ずに死んでいくのを見るのがサイコーに好きなんだよねぇ。」


 評議場の中段に議席を大きく刳り抜いて巨大なソファが設えてあった。そこには黒く痩せたラスがにたにた笑いを浮かべて座っていた。得体の知れない緑色のどろりとした酒を飲み干して、杯を投げ捨てる。次の酒を要求しながら、丸々と太った芋虫の燻製を頬張った。クリーミーでジュウシーな体液が溢れてラスの美しい顎を汚す。

 カチャカチャと顎を鳴らしながら、ラスの取り巻きの竈馬モルフの死虎シトラは主人の機嫌を取る。黄色と黒の縞模様が不吉で不気味だった。


 「ラス様、ご希望の取り合わせがあれば直ぐにブッキングいたしますので、なんなりと。」


 甲虫の無表情な顔からは想像も付かないほど甲高く滑稽な声が響く。ラスはシトラの声を聞く度に不快に感じたが、その不快さがこのくだらない闘技場に相応しく、そういった意味では気に入っていた。


 「誰でも良いんだよねぇ……と・に・か・く!喜んで殺したい奴と絶対死にたくない奴の舞闘が見たいねぇ。どんどんだ!もっと、もっとだ!」


 シトラは黄色と黒の不気味な縞模様が入った体表に闘技場の不気味な松明の明かりを反射させながら部下に命じる。


 「ラス様がご所望だ。霧街のルールに馴染めなかった“異形”の舞闘者達を呼んでこい。報酬はどれだけでも出すし、どれだけ殺しても構わないと伝えろ!行け!」


 シトラの側で待機していた、モグラモルフのデイドはにちゃにちゃと返事をして去って行った。デイドは優秀で残酷なモルフだった。直ぐに新たな“異形”を連れてくるだろう。彼らは霧街のお上品な暮らしに慣れることが出来なかった成体クラだった。下品で残酷な性質の者達だった。彼らは四牙シガの厳しい監視の目を躱して、街を出て、荒野に暮らしている。六角金剛は黙認しているが、彼らの集団の中では随分と以前から残酷なことが行われていた。決して語ることが出来ない残酷なことが、長く長く行われていた。六角金剛達はそれを知りながら、彼らの滅びを願って、無視してやりたいようにさせていたのだ。彼らは、ただのモルフとして生まれたが、その残酷な性質に……その恐ろしい行いに……より、少しずつ外観が変わり、霧街のモルフとは全く異なる外観を獲得していた。彼らは何もかもを食い荒らし、吸収していくのだ。


 「ラス様、次の舞闘はジャジャが率いる毒蛇モルフのチームと“異形”のオクトーです。きっと素晴らしい舞闘になりますよ。」


 ラスはにやりと笑い、芋虫の燻製を大きく頬張った。背中を丸め、肘と膝をくっつけてお行儀悪く、咀嚼する。体液が滴るのも構わずに目も見開き、舞踏場を凝視した。舞踏場にはジャジャの他に毒を使いこなす蛇と虫のモルフが10名出ていた。対するオクトーはその寝床から引き摺り出されてくる所だった。舞踏場の周囲には油が巻かれて火が放たれている。二つあるそれぞれの出入り口には鉄柵が設けられており、一度、舞踏場に上がったモルフは対戦相手を殺すまで再び柵の外に出る事は叶わない。そして遂に“異形”オクトーが舞踏場に姿を現した。


 「こりゃまたひでぇな。」


 言い終わると供にラスは爆笑した。ラスはオクトーの姿を見る度に新しい狂気を感じた。それが興味深く、面白かったのだ。


 (モルフのくせに狂うのか?図々しい。紛い物(シミラー)のくせに。)


 元は象のモルフであったオクトーはその残酷な魂が姿に反映されて、異形と成り果てていた。どの生き物とも違う外観で、全ての生き物の内臓をより合わせたような姿をしていた。彼は異形リジェクの支配者である七忌シチキの一人で、異形リジェクの中でも別格の舞闘力を誇っていた。オクトーの複数ある口が一斉に開き、雄叫びを上げた。闘技場が揺らぐ。大きな耳がはためいた途端、その見かけによらない素早さで、蛇モルフ達に襲いかかり次々と押しつぶし、引き裂き、飲み込んだ。それは地上で行われる舞闘とは全く異なるものだった。ただの惨劇。そこには清浄な感情の全てが存在しなかった。ただの苦痛。単なる呪い。そこには殺意しかなく、駆け引きさえも存在しない。血と泥に溺れて骨を削るような不気味な狂気だけが存在していた。オクトーは身体の半分以上を失い、毒に溶かされながら、戦い切った。最後まで抵抗したジャジャを咀嚼して飲み込んだ。終舞の銅鑼が鳴らされて、オクトーは元いた穴蔵に去って行った。殺す対象が居なければ舞踏場に立つ意味は無い。オクトーは、ずるり、ずるりと去って行った。

 ラスの顔からは笑いが消えていた。気に入らなかった。舞踏場を濃厚に包んだ血色の殺気が。あれではまるで……まるで、そう。


 (……まるでヒトじゃねぇか。)


 ラスはこの旅の始まりに決意していた。それは認めないと。どのような調査結果が出るとしても、それだけは認めるつもりはなかった。

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