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「天恵」 ~零の鍵の世界~  作者: ゆうわ
第一章 斜陽。
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第二十話 十爪。 




 この零の鍵の世界では、年四回行われる舞闘会に勝つことは重要な意味を持っていた。東方大陸に位置する、この水紋の国の霧街も当然例外では無い。この世界では舞闘で勝ち上がった者が支配者となるのだ。舞闘会で強さを示す事ができれば、権威……賞与と役職と名誉……が与えられる。舞闘に勝てば、闘いの階層ステージがあがり、アカツキからコンコンから隈取クマドリへとより強い組織リーグに所属することが出来る。昏以上であれば、キリマチから与えられる仕事で裕福に暮らすことができる。例えばロイの父親、一文字は昏のチャンピオンを経て隈取となり、今の六角金剛の地位を与えられている。彼は、キリマチを敵対種クリーチャーから守る事に関するすべての権限を与えられている。ハクの父親はキリマチの医療を総括し、また、霧宮の責任者である宮司を務めている。彼らは、舞闘会に参加しないその他のモルフ達の何十倍もの収入を街から得ていて、基本的に住居も霧城の中にある屋敷が与えられている。だから、観客も選手も夢中になるのだ。舞闘会はただの競技会ではないのだ。今も正に権限の割り振りが決定されようとしていた。街の外敵を倒すことを目的として編成されている狩猟隊の中核となる十爪じゅっそうの十人の隊長達による乱戦バトルロワイヤルが開催されていた。現在の十爪の長は六角金剛蛙王角の黒丸が兼務しているが……組織編成上、本来であれば黒丸は狩猟隊全体の隊長であるべきで十爪の詳細を直接管理するべきではないのだ……この乱戦の勝者が、十爪の長となるのだ。熱狂する観客を煽り、燃え上がらせるため、舞闘会の進行役を務めるアヒルモルフのシャウトが叫び続けている。


 「さぁさぁさぁさぁ!十爪の乱戦もいよいよ大詰めだ!ヤマアラシモルフのランが仕掛けた真っ正面からの力勝負に応じたグズリモルフの凶攻ググロとサソリモルフの黒盾ネスタ、グワイガをライバル視するヒクイドリモルフの鉄紺のブルーネ、相性最悪の白角のシムーと黒鬣のバーリ!それぞれが全力を出し合う中、十爪の――ちょっと多いが――紅三点!ミグラモルフのフエナの背に乗るゼンザンコウモルフのドゥータ、オオアリクイモルフのコファーガが共同戦線を張り、十爪唯一の飛行能力を生かしてフエナの背から馬鹿な男共が力尽きる瞬間を狙って――いたのもつかの間!」


 黒鬣のバーリ……クロライオンモルフ……の真術、黒獅子王バステトが発する死病の覇気により、十爪全員の動きが鈍った瞬間に全てが起こった。単純な打撃の優劣を競っていたランとググロとネスタはバーリの死病の覇気をまともに受けてしまい、その場に倒れこんだ。普通のモルフであれば即死する凶悪な悪気だったが、彼等、十爪の隊長達にはそこまでの効力はない。それでもその瞬間を猛禽類特有の抜け目の無さで見抜いて、フエナは舞闘場上空から急降下し、超高温の炎を吐く。一瞬で舞闘場の男共は燃え上がり、次々と舞闘場から落下し、失格となる。僅かその一瞬で舞闘場に残れたのは白角のシムー……シロサイモルフ……と黒鬣のバーリだけだった。オオアリクイモルフのコファーガはフエナの背から飛び降りながら笑う。


 「ししししし。作戦勝ちね、おにーさん方。」


 彼女は長い舌と爪を振るいシムーとバーリに迫る。バーリは素早く回避したがシムーは逃げずにコファーガに向かい突進する。シムーの巨大な角の打撃を喰らえばどんなモルフでも場外に吹き飛んでしまう。が、その巨大な角をゼンザンコウモルフのドゥータが削り取ろうと真技を発動させる。


 真技 鱗下マニス!!


 小さく愛らしいドゥータの拳が、体高三メートルを越えるシムーよりも大きくなる。ドゥータの拳はブレード状の鱗が無数に生えていて、触れるモノ何もかもを削って、ミンチにする。シムーの角も例外では無かった。だが、シムーは笑う。


 真技 リノ・シーム


 シムーは削られていく自身の大角から強力な破壊光線ビームを発してドゥータを仕留めようとする。しかし、ドゥータもまた、先の先を読んでいる。シムーの破壊光線を除けようともせず、ドゥータは微笑む。


 「きききき君の練術のげんは知ってるから。から。」


 ドゥータは真術を発動させる。


 真術 無音スムシア


 ドゥータの練術でシムーの破壊光線ビームが打ち消される。小柄なドゥータはぴょんと跳ねて、巨大なシムーの額にぽとり着地した。


 「すむすむスムシア。すべすべ全ての振動を止めるの――じゃ。」


 言うと供にドゥータは強力な鱗下マニスをシムーに打ち込んで彼を打ちのめした。ミグラモルフのフエナは豪奢なドレスのような炎を身に纏い翻し、低空を旋回しながら叫んだ。


 「さぁ!計画通り、男達はイジェクトされたわ。ここからは十爪の長の座を賭けたあたし達の舞闘だから!」


 「ししししし。そうだね。恨みっこなしだから。」


 「あたあたあたしが勝つから。」


 それぞれがぞれぞれの言葉で最後の決戦の決意を述べたところで、彼女たちの上空から声が掛かる。


 真技 十爪ジュッソウ!!


 グワイガの真技だ。彼はフエナが降下したタイミングで逆に上空に跳躍していた。当然、フエナの炎もコファーガの鎌鼬もグワイガを捉えることは出来なかった。グワイガの強力な魂気マイトを纏った脚技が無防備な彼女たちの上空から炸裂して、舞闘場は十字に切断される。彼の真技は、舞闘場ごと皆を吹き飛ばした。その瞬間に舞闘判定が下されて、シャウトが叫ぶ。


 「決まったぁ!!グワイガの十爪が止めだ!十爪に憧れてその名前を自身の練術に付け、それを鍛え、研ぎ澄まし!昇華させたのだ!その信念!ああ!遂に彼の信念が結実した――勝者!グワイガァァァアアアッ!!」


 シャウトの絶叫で、十爪の長を決める舞闘は決着した。轟音と粉塵を上げて崩れ去る闘技場の瓦礫の頂きにグワイガは着地する。グワイガは自慢の脚を高く頭上に突き出してから下ろし、深く礼をした。それは舞闘を閲覧する帝に贈るのでも、応援してくれた観客に贈るのでもなかった。彼は、この一瞬で消えてしまう、舞闘そのものに頭を垂れたのだ。


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