第二話 目覚め。
呼ぶ声が聞こえる。
誰が?ああ。そっか。世界が呼んでいるんだ。僕を。応えなくちゃ。
目覚める時、いつも思う。瞳を閉じる前の自分は本当に存在していたのかって。その記憶は本物なのかって。僕は今、生まれたんじゃないかって。
「クウ!おきて!来たよ!」
かわいい幼馴染みの声が降ってきた。そしてそれを合図に、瞼が世界を押し上げていく。それはまるで世界が生まれるその瞬間に立ち会うかのようで。光が溢れている。風が踊っている。世界は温もりに満ちている。幼馴染みは自分をのぞき込んでいた。彼女の背後には抜けた空が拡がっていた。雲、一つない。いいね。何かが始まりそうだ。遠くで小さな鳥が鳴いた。
「おはよ。メニューは何?」
クウはハクに笑いかける。ハクも笑い返す。
「山亀の串焼きでござい!」
テンポのいいハクの返しに、笑い声を上げながら、クウは飛び起きた。大して周囲を確認もせず、走り出す。その先にもう一人幼馴染みが待っている。
「遅いぞクウ!大人達に先を越されるぞ!」
子供にしては身体の大きなロイが待っている。崖の切っ先で。
「先に行くぞ!」
ロイは何のためらいも無く、崖から飛び降りる。クウも続き、ハクも飛び込んだ。三人の笑い声が晴天に響いた。眼下は遙か五百メートル。広い広い樹海が待ち構えている。空は遥か高く抜けて。
さぁ。物語が始まる。