第四十八話 称名池9。
大喝破は心が虚無に飲み込まれそうになるのを必死に堪えて、意識を称名池の洞窟に戻した。巨大な双眸だけを動かし、クウを見た。
「ワシは霧街に向かう。お前は望むように行動すれば良い。ファンブルのお前は街には居場所は無いじゃろうし、戦争も当面続くじゃろう。ここで暮らすも良いし、昔、夢想していたように、世界に旅立つのも良かろうて。お前は自由じゃ。」
霧街に向かう直前、大喝破はふと、自身の醜さを痛感した。こんな幼いファンブルを絶望させてどうしようと言うのだ。それで何が変わるわけでもない。ただの嫌がらせだ。大喝破は最後に呟いた。それは、言い訳代わりの罪滅ぼしだった。
「クウよ。お前はただのファンブルではない。極めて高い魂気に身体が耐えきれなかった為に輪廻転回を止めたのだ。もし、お前の身体がお前の魂気に耐えられるほど強く成長したのであれば……前例はないが……可能性はある。お前はただ、早すぎたのだ。あのまま輪廻転回を続ければ周囲を飲み込む魂の大爆発が起こったじゃろう。じゃが、今ならどうかの……命を賭ける覚悟があるのであれば、或いは。」
始めて聞かされるその情報にクウは、身体が硬直するのを感じた。まだ可能性が?命を賭ける?大喝破に問いかけようとするクウを余所に大喝破はその巨大な顔を背けて、行動を起こした。
――彼岸。
彼の言葉が称名池に響くと供に滝壺は大渦に飲み込まれ、竜巻が起こった。クウは身近な岩にしがみついて突然の嵐を乗り切った。だが、それを出来ない可憐な生き物たち……リドや蝶や水辺の小さな生き物……は、洞穴直上へと吸い上げられて、その解放部より、吐き出されて散り散りとなった。突然の嵐の中、クウは大喝破のその残酷な行いに悲しみ、終末への絶望を更に大きくさせた。でも、大喝破の残した言葉がクウの瘡蓋に覆われたイドを震わせていた。堅い瘡蓋に覆われていた彼のイドには、亀裂が出来ていた。三乃越での虹目との戦いで出来た、深い亀裂が。大喝破の言葉が、クウの心を揺らす。
……命を賭ける覚悟があるのであれば、或いは。




