第十九話 おにぎり。
「何じゃ!腹でも空いたか?腑抜けとるぞ、クウ。」
試合が始まって暫くが経ち、何も知らない黒丸が観戦に飽きて、控え室にやってきた。セアカが去ってから随分と時間が経ったようにクウには感じられた。黒丸は大きな包みを下げている。そろそろクウ達、幼生の試合の時間だ。
「うん。そうかも。」
セアカのことは言わずにクウは黒丸に話を合わせた。リュックから、家で作って来たおにぎりを取り出した。ポットに入ったお茶も取り出す。クウがお昼ご飯を食べ始めたのを見たハクは、クウの隣にペタンと座って自分もお弁当を食べ始める。
「あー。また、おにぎりだけ食べてる。おかずも食べなきゃ駄目だよ。あたしのお弁当分けてあげるよ。はんぶんこして食べよ?」
無邪気で愛らしい笑顔でハクは言った。クウはえへへ、と複雑な表情で笑う。
「僕、おにぎり大好きだから。」
確かにクウはおにぎりが大好きだが、これはうそ。裕福なハクは理解していなかったが、クウは貧乏だった。滅んでしまった隣国エズの最後の生き残りだったクウとその兄は、霧街で自活して生きることを選び、貧しい生活を送っていた。彼らは、街外れ……裏町とキリマチの間……のボロ小屋に住んでいた。その兄もファンブルして居なくなり今はクウ一人で生計を立てている。街人の色々な雑務を行ってはお小遣いを貰ったり、狩りや畑仕事をして何とか暮らしているのだ。漬物やお米は街から支給されるので何とかなるが、おかずは毎日食べられるものじゃなかった。お嬢様育ちのハクやロイは知らないのだ。貧乏がどんなものであるのか。いつも、ハクはクウに色々分けてくれるが、クウだって物乞いではない。小さいけど自尊心があるのだ。いつも貰う訳にはいかない。二人の様子を見ていた黒丸は喉に何かつっかえるのを感じながらも、何とか大人の言葉を発した。
「ロイ!こっちに来い。皆で早弁じゃ。妻がおまえ達の分まで作ってしもうた。うまかないがくうてくれ。」
食いしん坊のロイが喜んで現れて、物凄い勢いで食べ始めた。ハクも黒丸もわしわし食べ始めるのを見てようやく、クウも食べることが出来た。久しぶりの料理だ。クウは胃袋と供に胸が温かくなるのを感じた。クウは思った。
(ほんと、久しぶり。美味しくって、とっても幸せ!)