第三十六話 岩戸7。
そして、彼は眼を開いた。足下を見つめる。何もなかった。そこにあったのはだたの空中で、クウの足は何もない虚空を踏みしめていた。また、大きな雲がクウの周囲に流れ、見ることの出来ない道を浮かび上がらせる。彼は今度こそ、見た。見えない道が存在していることを。包帯に埋もれたその奥でクウの瞳が輝き、熱を帯びた。山雲を千切るように吹き荒ぶ風がクウの包帯をたなびかせた。世界に覆い被さるミストが彼のゴールを微かに浮かび上がらせる。その瞬間、彼の意識は消えかかっていた。世界は霞んで、全てが時の闇に沈み始めていた。だが……。
全てが流れ去るその瞬間に、霧は岩戸を浮かび上がらせた。間隔がとても長くなっていたクウの瞬きは、でも、それでも、その瞬間を見逃さなかった。彼の決意と欲望が呼び寄せた一瞬だったのかも知れない。ともあれ、彼はそれを目撃し――魂気を爆発させて、走り出した。霧に覆われた高い山の頂。眼にみえない稜線を死神のような風貌のクウが、四つん這いで駆け抜ける。クウには見えていた。不可視の岩戸が。彼は駆け抜けて、岩戸に飛び込んだ。
六角金剛でさえ打ち砕くことが出来ない、通り過ぎることが出来ない大喝破の岩戸にクウは挑んだ。そして……。
オーロウ!!




