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「天恵」 ~零の鍵の世界~  作者: ゆうわ
第六章 リツザン。
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第二十一話 進軍。




 どおん!どおん!どおん!


 戦太鼓に合わせて、烏頭鬼の軍勢が足を踏みならし、大地を揺るがした。


 「どう見る?」


 霧城の金剛議場の大窓から、かつては平和だった水紋の国を見渡しながら、胆月は渦翁に問うた。烏頭鬼の軍勢は今や三十万を越えていた。体制の整った彼らは、野営地から進軍を開始して、今やジズ川の対岸に集結していた。鳴り響く戦太鼓と立ち上る狼煙を眼前にして、渦翁は深呼吸の様なため息を付きながら、返した。


 「烏頭鬼共は、ジズ川を渡る事は出来ない。但し、無傷では。奴らに我々と同等の知能があり、獣程の愛情も無いとすれば、こちらに到達するだろう。十万程の兵士を犠牲にすれば橋を築かなくともこちらまで渡りきることが可能だろう。仲間の屍の上を行軍するのであればな。」


 彼らの背後から他人事のような引き笑いが近づいてくる。はらり、はらりと黒い羽が周囲に舞い落ちる。


 「面白いよね奴ら。んで?どうする。奴らはぜっっっっったいに、こっちに来るぜぇ?なぁ、どうする。んで?どうする?んでんでんでんでんでんで?」


 何が面白いのか渦翁には理解出来なかったが言いながらラスは爆笑した。先日、リツザンに向かって以来、ラスは最高に機嫌が良かった。渦翁はそれが不吉でならなかった。

 「あたしの立てた作戦で充分に時間を稼げた筈ですが……まだ、なにも根本的な対策が見つかっていないのですか?舞闘しか能がないなら、そのように振る舞えば良いのでは無いですか?」


 シロブンチョウモルフのフラウは他人事のように六角金剛を非難する。渦翁は聞こえなかったふりをして、取り合わない。対岸では戦塵が舞い上がり、戦太鼓は鳴り響き侵略者の哄笑は続く。同胞の胆月はラスやフラウへの怒りを隠そうともせずにこの場を去った。ロイは六角金剛に対する不信を払えず、彼等の前に現れないし、ハクは地下牢に繋がれたままだ。一文字は混乱の中にある霧街を裏から支えるのに精一杯で、根本的な対応を行えずにいる。あの裏町ナカス最後の日にクウを突き放して置いてきた。それは小さな希望の灯火となるはずだ。渦翁はあの時判断した。ラスは想定外を嫌って……恐れて?……いると。想定外の練術を嫌い、想定外のファンブルを嫌っている。神々《アドミニオン》が定めた範疇について渦翁は知るよしも無かったが、そこからはみ出す存在をラスは嫌悪しているのだ。であれば、ラスの近くに居ればクウに害が及ぶかも知れないし、嫌悪する理由次第だが、最後の瞬間にラスに対抗する切り札になる可能性もあった。渦翁はその小さな希望が今どこで何をしているのか把握できていなかったが彼等であれば、この滅びに向かって進む世界の方向性を定めるような行動を起こしているだろうと信じていた。彼等がどの様な波紋を起こし、それがどんな波に育つとしてもそれまで霧街を護り続けなくてはいけない。霧街が滅んでしまっては世界が存続する意味は無いのだ。渦翁は何か得体の知れない重圧を感じて、急に心細くなった。彼はそれが泣き言だと知りつつも、想わずには居られなかった。


 ……黒丸。せめてお前が居てくれたならな。


 でも声は……届かない。


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