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「天恵」 ~零の鍵の世界~  作者: ゆうわ
第六章 リツザン。
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第十九話 一乃越7。




 直ぐにクウは走ることが出来なくなった。大渓谷の上は嵐の様な突風が吹き荒れていた。雲龍の背中に生える雲のような体毛を掴んで慎重に渡っていた。とても慎重に少しずつ進むクウだったが、時折、叩き付けるような突風に身体を持ってかれそうになる。風に巻き上げられて岩山に叩き付けられれば命は無い。例え死ななくても旅を続けられる状態では無くなるだろう。クウは余り強く毛をひっぱるのは申し訳なかったが、それ以外に頼る物もなく、全力で雲龍の毛を掴んでいた。一乃越いちのこしの風は強く、雲龍の身体を上へ下へと揺らし、クウを攫おうと荒れた。だが、クウは類い希な忍耐力と集中力を発揮して、最も風の強い中央部を渡りきり、あれほど遠く、到達が不可能と思えた対岸を目前とした。後、二十メートルもない。クウは最後に雲龍にお礼を言おうと振り返り――自分が足を滑らしたことに気付いた。身体は既に空中に投げ出されていた。最後の最後で油断してしまったのだ。お礼は渡りきってからでも良かった。でも、クウは調子に乗って途中で振り返ってしまったのだ。慢心だ。


 (――ああ。大変だ!)


 クウは必死に対応を考えたが、何も思いつかない。当然だ。今、何か手を打てるのであれば、最初から何も悩むことは無い。空を飛べないから、この大渓谷に絶望したのだ。一瞬の無重力状態を過ぎてクウは谷底の引力に捕らわれて、急激に落下する。クウは、大渓谷の底にある大岩に叩き付けられて破裂して絶命する事は無かった。雲龍の尾がクウを捉えて対岸に投げたのだ。帰りの為に引っ張ってきたロープは今の騒ぎで谷底に落としてしまったが、当面の目標は達した。対岸に渡りきったのだ。無様に転げながらも、クウは遂に対岸に達したことを喜ばずには居られなかった。ガッツポーズをして大きな声で笑った。雲龍は――クウが先程までいた――対岸に身体を引き上げ始めていた。クウはその後ろ姿を見つめながら大きな声で叫んだ。


 「ありがとう!旅が終わったら友達になろうね!あんまり霧街に近づいちゃだめだよ!みんな君のこと捕まえようと必死だから!またね!!」


 雲龍は振り返りもせずに山のうねりの中へ消えて行った。姿が見えなくなった辺りで、盛大な咆哮が響き渡った。それは、クウには友達が送るエールに聞こえた。



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