第十二話 春夏秋冬 10
ぽろり、と小さな雪の塊が崖に落ちた。ぽろり、ぽろり。次々と雪が落ちて、小さな穴が現れた。そして、包帯だらけのクウが現れた。好奇心と警戒心が完全に一体となった表情を浮かべていた。或いは、希望と絶望。クウは周囲を見渡す。元気なアマトが居てくれたらなと言う気持ちと、へらへら笑いのラスが居ても構わないと言う気持ちが完全に均衡を保っていた。そして、世界は単純で公平だった。
――誰も居なかった。
だた、雪が落ちてはげ上がった山肌が露出して、奇妙な狂乱を表現していた。春の始まりを予感させる、澄んだ空気に包まれた山々はしかし、地肌を雪で隠すこと無く夏を想わせる風貌を晒している。だが、雪の下から現れた樹木は、当然葉を茂らせておらず、秋のさみしさを湛えていた。その一方である部分には雪の塊が残り、冬を主張している。乾いた大地の隣では雪解け水に潤んでいる土が存在していた。春であり、夏であり、秋も冬もあった。希望も絶望も、ラスもアマトもその気配を残していた。
……だが、結局は、灰色だった。
雪崩が過ぎたリツザンは、定義を気にすることの無い世界がただ世界として広がっているだけだった。クウは理解して雪穴から抜け出した。荷物を引きずり出して、黙って歩き出す……顔を上げて。




