第十一話 春夏秋冬 9
結局、クウは約束を守った。大雪崩が起こった直後は怒りと興奮に身を任せて洞穴の外に飛び出そうとしたが、クウは思いと留まった。アマトのことを思ったのだ。命を賭けて自分を逃そうとしてくれたのだ。ドクロになるような苦痛の中で日々を生きて、それでも世界を救おうとしているのだ。えぐり取られたイドの苦痛はどれだけだろうか?日々、後を追ってくる死の影はどれほど濃いのだろうか?クウは思った。
(……僕が苦しんでいたその何百倍をアマトは生きていたんだ。)
そうだ。その通りだった。クウは確かに苦しくて何度も死にかけたが、髑髏になるほどの苦痛では無かった。包帯だらけではあったが、それでも普通のファンブルの範疇を超えなかった。でも、アマトは明らかに違った。イドを抉られて、熱に浮かされ、日々、痩せ細っていくのだ。でもアマトは何も呪わなかった。見捨てなかった。世界を、多様性を信じて旅を続けたのだ。そうだ。アマトは信念を貫いたのだ。
(……クウ。お前にも出来ることがある。我慢する事だ。)
アマトの言葉が蘇る。そうだ。
(……僕が邪魔をするわけにはいかない。)
クウは痛感した。彼の人生を無に返すことはできないのだ、と。そして、クウはアマトの言いつけを守り、丸一日が過ぎるまで、洞穴でじっとしていた。




