第七話 春夏秋冬5。
巨大な牛の身体にヒトの顔と手を持つその神獣は凶兆の使いと呼ばれ、大きな災いが起こる時、それを告げるために現れると言う。虹目が現れ、世界が神を失う前にも現れたとの言い伝えがある。それは凶兆を伝えると供にそれ自体も凶事であり、聞く者の魂を削り、死に追いやると言う。アマトはそれに初めて相対したが、噂に違わぬ魂気でやり過ごす事は出来ず、凶事を聞くことも出来ずに、練術を行使した。
(凶事を聞き届けたかったが……まさか霧街の近くで練術を使うはめになるとは。)
アマトは先ほどの凶事の叫びからまだ立ち直れないクウを癒やした後――彼はぐっすり寝ている――彼の脇で全を組み周囲を探っていた。アマトの強大な魂気で練術を行使すれば、広範囲の練術者にその事実を知らしめることになる。アマトはその存在を知られぬように旅を続けていた。アマトを付け狙う存在に気づかれぬように、アマトが探す相手に悟られぬように。アマトは全を組み精神を研ぎ澄まして、何かを察しようと魂の手を広げる。そしてその外周にざらつく悪気を感じた。
(――甘くは無いか。)
アマトは直ぐにクウをたたき起こし、腕を掴み走り出す。
「もう少し先に深い洞穴がある。そこに避難する。ラスだ。ラスが近づいて来ている。」




