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「天恵」 ~零の鍵の世界~  作者: ゆうわ
第五章 不屈。
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第十二話 旅立ち2。




 「ここでお別れじゃ、クウ。」


 クウは真っ直ぐ黒丸を見つめ返した。彼は覚悟を決めていた。この僅かな時間の中で水紋の国の異常さを実感し、なんとしても手を打たないといけないと理解したのだ。日は沈んでいた。初夏の遅い太陽でさえ既に、眠りについていた。温い風が、霧宮を包む。彼らはトリイの真下にいた。そこは神々の通り道。三界の狭間。黒丸の水鏡キーンの術に守られたまま、クウと黒丸は対峙していた。ヤハクは既にウカミに引き渡してここには二人っきりだった。


 「儂は霧街に戻る。現状からして儂が生き残っていると考える者は霧街にはおらんじゃろう。儂は皆のことを見守り霧街が最後の舵を着る瞬間に必要があれば、正しく舵を切る。それまでは死人として霧街を彷徨う。クウ。お前はここを離れろ。お前は最後の子じゃ。死んではならん。可能性を残せ。裏町ナカスと供に行動できたら良かったのじゃが、もう仕方の無い事じゃ。クウ。街を離れて生き延びるのじゃ。霧街の為に何かするのであれば、時期を見て実行してほしい。頼めるな?クウ。」


 「わかんないよ。」


 クウは笑う。黒丸もつられて。そうじゃな。そうじゃ。わしがこいつを好きなのは、こいつかこいつであるからじゃ。きっとわしは本質を踏み外しておる。クウが理解出来ないのはそこに理由がある――黒丸は大きく息を吸う。霧宮のトリイの下。神々の境界、外と内の狭間、昼と夜、過去と未来。完全なる一瞬がそこにあった。全てを繋ぎ、押し流していく一瞬が存在していた。黒丸は自身がまだ幼生エイラだった頃の乾いた風を感じた。光は鋭く、音はクリアに響く。


 「すまんかった。そうじゃな。好きにしろ。お前がやるべきと想うところを行え。儂はお前を信じておる。ありとあらゆるその一瞬にお前が判断して行動してくれればよい。何を保証するわけでは無い。ただ、もし今、霧街を救うのであれば大渇破様の力が要る。クウ。今、行動するのであれば、大喝破様に会いに行け。儂等ではたどり着けん。大渇破様は死期を悟り、もう、随分と前に大戸の奥へとお隠れになった。あの大戸を抜ける可能性があるのはお前しかおらんのじゃ。道は厳しい、死ぬかもしれん。じゃが、頼めるか?クウ。」


 「うん!がんばるよ、僕は!」


 クウは素直に元気よく頷く。黒丸は笑う。クウは出来るとは言わなかった。黒丸は頑張るのでは無くやるのだ――などとは言わなかった。そこには全ての正しさが存在していた。押し付けや放棄は存在しない。理解と協働だけが――性や年齢の別も無い、愛情だけが、存在していた。


 「そうか。わしはわしの仕事がある。ついてはいけんが、三乃越を越えられるような強い道連れを探しておこう……。」


 何もかもをクウに押し付けているようで、黒丸は居心地が悪く、こんなことを言えた義理では無いと想いもしたが、それでも、必要な事だと考え、クウに告げる。


 「なぁ……クウ。忘れるな。わしはお前を信じている。それだけじゃ。」


 「うん!僕も僕を信じてるよ。」


 切迫した黒丸は涙を流す寸前だったが、クウの一言で救われた。黒丸は一瞬ぽかんとして、そして、二人は豪快に笑った。霧街はラスと評議会に分断されて、裏町ナカスは消失した。烏頭鬼は進軍の準備を進めて、逐鹿は不明のまま。世界は絶望に沈もうとしている。でも?だがクウは笑う。黒丸は更に輪をかけて。


 「死ぬかも知れんぞ。」


 「黒丸さんも同じだよ。」


 「そうか。」


 「そうだよ。」


 「で、やるか?」


 「勿論。」


 「何故じゃ。選択肢は無数じゃ。全てに可能性は残る。」


 「だからだよ。僕は僕の選ぶところを進むんだ。可能性のパーセンテージの話じゃ無いんだ。世界の多様性は素敵だよね。僕はその一部として恥ずかしくない様に生きたい。望まない同調なんてしない。死と同じ選択肢であっても僕らしいのであれば掴みたいんだ。ねぇ。今、僕は世界に存在して居るのかな?誰かに望まれているのかな?僕は生きていて良いのかな?ねぇ、どうかな。」


 どこかで繰り返した会話。クウは変わらない。黒丸も変わらず言葉に詰まる。クウは笑う。断言する。


 「僕が望まれない世界でも望まれる世界でも、僕は受け入れたいんだ。それが多様性なんだと思う。モルフの、ファンブルの本質なんだ。違うかな?その他の動物たちが選択した特殊化と対極にある多様化。全てを受け入れることで僕たちは存在してる。それこそが僕たちを僕たちとして存在させて居るんだと思う。可能性は存在しているんだ、輝いているんだ。諦めない!そこから世界が始まると想うんだ!」


 黒丸は抱きしめた。クウを。クウは喜びながらも苦しくて藻掻く。そして物語は進む。クウはリツザンに進み、黒丸が霧街に潜り込んだ。何が正義で何が悪?誰が何の答えを望んでいる?主人公は誰だ?愚問。皆、自分だけの物語の主人公なのだ。くだらない?ばからしい?いや、でも、そうなんだ。それぞれの想い。ただそれだけが全てを推し進めていく。笑えば良い。泣けば良い。怒れば良い。全ては多様性の海を泳ぐプランクトンに過ぎない。笑え。泣け。怒れ。そして次の一歩を。

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