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「天恵」 ~零の鍵の世界~  作者: ゆうわ
第五章 不屈。
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第十一話 旅立ち1。




 崩れ去ったジズ大橋の袂には何も無かった。ダムが決壊し、ごうごうと流れるジズ川が周囲の大気を飲み込もうと大きな風を起こしている。夏が近づいたこの季節であっても妙に肌寒かった。瓦礫と茂みに囲まれたその場所で落ち合った二人は、もう少し安全な場所に移動する。霧宮のトリイで彼らは霧街を見つめながら、そこで世界の命運を決する……彼らにその認識は無く、ただ必死だった……会話を交わす。


 「頼めるか?クウ。」


 クウは素直に元気よく頷く。黒丸はその様子を見て微笑んだが、心では泣いた。望みは薄い旅だ。失敗した際の代償は死。クウも世界も死ぬ。だが、やるしか無い。これがベストだ。黒丸は大きく息を吸い込んだ――あの時、彼は野営地の最後の瞬間に決断を下した。セアカの糸で次々と帰還していく中、ヒハクとロイと黒丸が野営地に取り残されていた。ロイは白死フラッシュバグで絶対捕縛の糸を断ち切ってしまっていたし、ヒハクは熾天炎化セラーした際に糸を振り切ってしまっていた。――今、裏町ナカスに帰還する為の糸が繋がっているのは自分だけだと黒丸は理解していた。そして、誰を助けるのかも。黒丸は迷わず行動する。普段から有事の際に何を優先させるのか?それを頭にたたき込んで生きてきた。個より全。ファンブルよりクラ。自分たちより、チビ共だ。そして、その中でもロイが最優先と判断していた。黒丸は自身の判断を信じて迷うこと無く、自分の腰に巻き付けられていた糸をほぐして、ロイに巻き付けた。そのまま自分もロイにしがみつき、野営地を脱出する方法もあった。が。黒丸にその選択肢は無い。自分より兄弟を優先させると決めていたのだ。黒丸は迷わず、外衣の闇に沈んでいくヤハクを追って闇に飛び込んだ。ファンブルしたヤハクより自分を優先させるつもりで、生き別れになってから今まで過ごしてきた。だが、実際にその段になった今は思うように行動出来なかった。黒丸は出来ないことは直ぐに諦めて、感情のままに行動する。彼はヤハクを追って外衣の闇に飛び込んだ――温い、重い、闇だった。野営地へ飛び込んだその闇よりも更に深く底に溜まる闇だった。


 ――AとB?右と左?


 そうでは無い。外衣が維持する空間を繋ぐ闇では無かった。現象から根源へと移る闇だった。沈む程深く、重く押し上げる。そして、渦を巻き、全てを飲み込もうとする。どろり、とした闇の中で黒丸はヤハクを探す。上も下も過去も未来も無い闇の中を深く、黒丸は潜る。


 ――ごおう。ごおう。


 闇がうねる。正しい物がねじ曲げられて歪んでいく音が響いていた。押さえつけられすり潰されて、細かく細かくなる。根本の最小単位に分割されていく。黒丸はこれ以上進むと自分が無くなるその限界まで潜った。でも、ヤハクは見つからない。


 ……ヤハク。どこだ?程なくして追いかけた筈じゃ。さほど遠くにはおらん筈。いや、僅かな時間が致命的な違いを招いたのか?いや。違う。


 黒丸はその繊細なマイトを張り巡らせて、闇を見つめる。両腕を広げて足掻いて藻掻く。微かな違和感をたぐり寄せて、でも、逃げられて……そして、捕まえた。ヤハクを確信した瞬間に黒丸は最大の金剛掌を放った。闇が沸騰して霧散した。


 そこは、野営地の中心部。


 弾けて霧散した闇から黒丸とヤハクが唐突に野営地に現れた。ちぎれた闇が黒い雨となって、乾いた戦場に降り注ぐ。破裂音となれないマイトを感じ取った、烏頭鬼達の殺意が彼らに集中する。


 「兄者。助けてもらう必要はなかった。兄者だけでも生き延びてくれた方がよかった。」


 「上からじゃな。ナニをするかは儂が決める。黙っとけ。」


 じん。とヤハクの心は温かくなった。何も変わらない。世界は幸せな形のまま、世界として存在していた。小さい頃見上げた黒丸がそのままこの絶望の世界に君臨していた。ただ――ただそう、ヤハクを安心させる為だけに、にらみを利かせていた――次瞬。烏頭鬼が雪崩を打って二人に襲いかかった。


 「あははは。」


 ヤハクは笑った。今更だが、絶望と希望の本質を痛感した。人は逃れられぬ死を前にした時に絶望するのでは無い。人は安寧な未来に希望を抱くのでは無い。それはただ、心のあるがままに存在するのだ。後一秒で死んでしまう人間にも希望はあるし、永遠を生きる不死者(イモータル)にも絶望はあるのだ。今、ヤハクの目の前に居る、成体クラ失敗作ファンブルの境界を見せつける黒丸を受け入れて彼は希望に包まれていた。だから笑ったのだ。黒丸も返す。


 「変な奴じゃな。」


 言い終わると供にヤハクは熾天炎化セラーして、烏頭鬼の群れに突っ込んだ。黒丸が帰る為の道をつける覚悟だった。命に代えて。だが、それは無用な気遣いだった。黒丸は熾天炎化セラーしたヤハクより速く敵陣に突っ込んで真化金剛掌を放った。無人の野を進むのはヤハクだった。金剛掌で吹き飛ばされた烏頭鬼達が体制を立て直す前に黒丸は笑った。


 「まぁ、のんびりいこうや。」


 水鏡キーンの術により二人は野営地の中心部で世界から消えた。そして、彼らはそっと、裏町ナカスに帰還したのだった。


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