第十五話 ファンブル 1
あさつゆは、町外れの市場にいた。裏町の施設の皆の為の食材を買い出しに来ているのだ。彼女はコットンの帽子を深くかぶり更にコートのフードを被っている。ちらりと見えるその顔は幼くエイラの特徴である透明感のある肌と低い鼻を備えていた。当然、エイラではない。今、この街にエイラはクウ達しかいない。彼女は、ファンブルだった。
……出来損ない。
酷い話だが、言葉の意味を知るモルフは殆ど居ない為、彼女達はそう呼ばれていた。ファンブル。それは、大人になりきれない子供。子供は普通……その定義は置いておくとして……輪廻転回の義を経て、成体になる。でも、稀にそうならないモルフがいる。それを出来損ないと呼んだ。エイラ達は12歳を迎える年に輪廻転回の義を行う。その時が近づくと、胸のイドが輝き大人になる季節が来たのだと知らせてくれる。そしてエイラ達は一瞬で、子供から大人に輪廻転回するのだ。何でもなかった、何にでもなれるエイラから何者かに……クラになるのだ。輪廻転回の義を経て、角蛙のモルフや山羊のモルフや甲虫のモルフとなる。だが、胸のイドにあるマイトが不足しているエイラは成体に成れない。中途半端な状態で止まってしまうのだ……永遠に。中にはファンブルして、身体が弱り満足に暮らす事が出来なくなったり、そのまま死んでしまうエイラもいる。今モルフ達の市場に来ているあさつゆと言う女性……彼女はエイラであるため、正確には性別を持たない……のファンブルも身体が弱く、年中風邪を引いている。でも、施設の仲間達よりはましだ。施設には寝たきりだったり、痛みや熱に苦しんでいる仲間達が沢山いた。勿論、鍛錬を重ねて病を克服するファンブルもいるがそれは半数にも満たない。残りの多くは誰かの助けを必要としている。あさつゆはそんな仲間達の世話をしているのだ。
「あれあれ?。おかしいぞぉ?。ここに相応しくない奴が居るぞぉ?。」
彼女の目の前にキタキツネのモルフが現れる。人化状態だったが、ファンブルであるあさつゆはエイラの身長のまま成長が止まってしまっているので、そのモルフはあさつゆの倍の体高があった。あさつゆは身を固くする。キタキツネのモルフの後ろには穴ウサギとアオダイショウとカタツムリのモルフがいた。皆、一様に異様なにやにや顔だ。あさつゆは何も言わず向きを変えて道を引き返そうとした。
「おかしいぞおかしいぞぉ?。モルフじゃない者が居るぞぉ?。」
キタキツネのモルフは素早くあさつゆの前に回り込み、にやにやと顔を近づけたかと思うと彼女のフードをめくり、コットンの帽子を剥ぎ取ってしまった。愛らしい顔の彼女だったが、頭皮はひび割れてシミや痂に覆われていた。キタキツネはオエッてゼスチャーをし、彼の仲間が声を上げて笑った。あさつゆは泣きそうになった。