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「天恵」 ~零の鍵の世界~  作者: ゆうわ
第五章 不屈。
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第九話 霧街の騒乱1。




 霧街に近づく前に、六角金剛達はその異変に気がついた。霧街から聞こえる、下品な叫びが混じる喧噪と最後まで守るべきものが腐ってしまった手に負えない悪臭。霧街の東門で十数名のモルフが一文字達を出迎えた。


 「お帰りなさい。一文字、渦翁、胆月。黒丸は死んだそうね。」


 霧街評議長のフラウだ。白く柔らかな羽が美しい。


 「死んでは居ない。暫く戻れないだけだ。」


 一文字は返すが、目の前に立つ彼女たちの中に、その言葉を信じる者は居ない。ラスは一行の背後でクスクス笑っている。フラウの態度を不信に思った胆月が怒鳴り声を上げようとするのをフラウは片手を上げて止めた。同時にどしり、どしりと大地が揺れる。巨大な身体を揺らして臓物をねじり合わせて作ったかのようなおぞましいモルフが現れる。元は蛸モルフだったオクトーだ。それを見て六角金剛達は驚きを隠せなかった。


 「何故、異形リジェクが居る!誰が霧街に引き入れたのだ!」


 一文字が叫ぶが、フラウは動じない。さらさらと羽毛に付いたほこりを落としながら答える。


 「まず、ご報告です。霧城城主の逐鹿から代理城主を任ぜられた一文字は、ご子息との舞闘で完治不能な怪我を負い、その役割を黒丸に譲った。その黒丸は烏頭鬼との闘いで命を落とした。結果、今、この霧街は城主不在となったの。水紋国憲法第9条では、城主不在の場合は一時的に評議会がその役割を担う、とあるわ。」


 「つまり、貴様が城主だってことか?」


 胆月は気に入らなさそうにフラウを睨んで問う。


 「私が、ではなく評議会が城主なのよ。誤解の無いように。」


 「で?それと異形リジェクと何の関係がある?」


 渦翁は問い詰める。その彼の背後から答えが返る。


 「評議長は評議員を選定する義務と権利を持ってんのは知ってるよねぇ?で、彼女は彼ら異形リジェクを評議員として迎え入れたんだよ。まぁ、その場凌ぎの体勢だけど、従来の評議員二十名に加えて新たに三十名の評議員を任命した。」


 そこでラスは天を仰いでゲラゲラと大笑いした。ひとしきり笑った後に、事も無げに言った。


 「さて、次期城主を選定する必要がある訳だが、それは評議員投票で決められる。……今、投票したらどうなるだろうな?面白そじゃね?」


 渦翁は少し視線を落として誰とも眼を合わせなかった。その横に潰れた瞳をせわしなく動かしている。考えているのだ。何を選択するべきか?どの道を行くべきか?争いは限界まで避けなくてはならない。渦翁は、ゆっくりと顔を上げた。


 「そうだな。面白いだろうな。では、次期城主を選ぶか。舞闘会の開催を要求する。」


 フラウは肩を竦めた。ラスは眉を寄せる。美しいフラウはラスを見上げて告げる。


 「城主を選ぶ第一選択は常に舞闘会なの。評議会投票は第二選択。六角金剛が要求すれば、希望する参加者は全員参加できる巨大トーナメントが開催されることになるわ。準備期間は六ヶ月。参加人数にもよるけど、舞闘会は一年近く開催されることもあるわ。」


 つまり、その間に本来の城主である逐鹿が戻ってくる筈だ。無論、城主を選ぶ舞闘会が開催されてしまえば、逐鹿も城主に留まりたければ舞闘会に参加する必要がある。だが、彼は別格で、無敗だった。舞闘会が終わる前に霧街に帰還さえすれば何も問題は無い。脅かしに動揺しなかった渦翁のことは気に入らなかったが、ラスとしてはどうでも良かった。


 「まぁ、投票でも舞闘でも誰が勝つか判りきってるけどねぇ。」


 渦翁は取り合わない。そもそもラスと正面から戦うつもりなどないからだ。フラウはラスも渦翁も気に留める様子も無く、事務的に答えた。


 「では、これから城主選出の舞闘会の開催宣言の準備に入るわ。次期城主が選出されるまで、現状は維持される。つまり、私達評議会が城主代行として霧街の運営を行うわ。」


 「無論、それがルールだ。」


 渦翁は答える。渦翁の思案はここにあった。評議員投票の実施が得策か、舞闘会開催が得策か。渦翁は評議会投票では勝目はなく、逐鹿は半年程度で帰還すると判断したのだ。そして、その間のトラブルは受けて立つ、と決断したのだ。


 「さて、では我らは霧城に帰還する。城主代行以外は、舞闘会までは、現状維持でよかったよな。」


 「ええ。勿論。」


 フラウと渦翁は供に微笑んで、霧街に入っていった。ラスは門の外で暫く佇んでから、奇妙な引き笑いを始めた。とても楽しそうに笑った彼は、最後に押し黙り、昏い瞳を霧街に向けた。


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