第五話 裏町の死5。
当然、彼ら野営地に挑んだ仲間達は、突然現れたラスの仕打ちを許容しなかった。彼が相当の実力者だと知りながらも臆すること無く、ラスに詰め寄った。
「やめろ!ラス。彼は仲間だ。首切りなどでは無い。例えその嫌疑がかけられているとしてもこれ以上は手を出させない。」
長身のグワイガがラスを見下ろす。ラスはふらふらと身体を揺らしながら引き笑いをする。闇色のカーディガンから黒い羽が零れる。これを見る度にグワイガは疑念を抱く。
(このラスと烏頭鬼の明確な類似性はなんだ?彼は何故、隠さない?身体から黒羽さえ落とさなければ誰もこのような明確な嫌疑はかけないものを。一体何を考えている?何が目的だ?)
ラスは、考えを巡らすグワイガの瞳をラスは真っ向から見据えた。鋭く長く切れる瞳がグワイガの心の奥底までを切り開いて見通すかのようだった。腕を組み、不遜の表情を浮かべる。ラスはふっと笑い、宣言した。
「嫌だねぇ。俺は俺の想うようにする。失敗作どもはこの世界に不要な存在で、首切りの正体だ。裏町全体が組織的に成体を狩り続けてきたんだぜぇ?恐らく、自分たちが輪廻転回出来ない理由を探すためによ。」
「それは想像か?事実か?説明して示せ。何も無しに仲間を差し出すつもりは無い。」
「あーめんどくせぇ。」
ラスは腕組みを解いた。身体の闇から無数の黒羽が飛び立ち気絶して動かないポーに突き刺さった。不意を突かれた仲間達は激高した。ラスは笑う。サカゲは完全獣化し巨大な牙をラスに突き立てようとした。グワイガは強力な足技でラスの動きを止めようとする。フエナやコクトでさえ、ラスのポーへの仕打ちに怒り、ラスに襲いかかった。例え首切りが裏町の仕業でも今のラスの仕打ちは受け入れられなかった。そこに正義を感じることができなかった。彼らは彼らの信じる真実を守るために行動した。四対一だが、勝てるだろうか。彼らに確信はなかった。ラスは別格の強さだ。六角金剛にもひけを取らないはずだ。だが、彼らは挑む。ポーを見捨てるわけにはいかない。彼らは、一瞬で一斉に攻撃を仕掛けた。だが、ラスは笑う。
白死!!
ロイの極技が放たれた。飛びかかってきた全ての攻撃は跫音閃光に阻まれて到達しなかった。野営地に攻め込んだ仲間達は、全員が気を失っていた。崩れ去った部屋の陰からロイが現れる。ラスはゲラゲラ笑いながらスタンディングオベーションだ。何だろう?確信は無かったがロイは足下が揺らぎ、何が正しいのか判らなくなった。でも、ラスには関係が無い。
「いや、すごいねぇ。それ。何でそんなことができんの?俺は許可してないんだけど。まぁ、いいけ……。」
ラスは自身のへその辺りから灼熱した拳が突き出していることに気がついた。
熾天炎化。
倒れたはずのポーが、致死的な一撃をラスに打ち込んだ。赤熱したポーの拳がラスを貫いていた。ラスは血を零す。だが、ポーにはそれが限界だった。拳を引き抜き、ラスに相対する構えを取ったがそれ以上の攻撃を行えなかった。そのまま、ポーは気絶して倒れ込んだ。そして、ラスは熾天炎化の超高熱で燃え上がった。ゆらゆらと身体が焼かれる苦痛に踊り叫び、よろめいて倒れ、ラスは絶命した。ロイは突然の事に我を忘れて、叫び声を上げた。だが、絶望のロイの肩を親しんだ彼の手がぽんぽんと叩く。振り返ると彼はいつも通りの笑顔を浮かべていた。ロイは混乱した。目の前にラスがいた。
「まぁいいじゃん。ほんと、びっくりしたけどさぁ。貴重な影を失ったのはきついけど。まぁ、いいよ別に。」
そう言って笑う彼は……そう、正義の欠片も見当たらないような、不遜の表情で生命を侮辱する哄笑をロイに浴びせかけた。




