第三話 裏町の死3。
重要人物の為に作られた医療施設の地下病棟は、烏頭鬼達によって壊滅状態となっていた。そこで療養していたサカゲ達も回復していない身体での戦闘を余儀なくされた。だが、彼らは百戦錬磨の舞闘者であり、烏頭鬼の雑兵の襲撃程度であれば自身で対処出来た。彼らの病室があったフロアの食堂のような大広間で全員が無事再開した。
「一体何が起こっているんだ?」
サカゲが全員に問いかけた。グワイガもコクトもフエナもポーも皆、首を振る。ポーは周囲を見渡し、悲しくなった。この医療施設は裏町の象徴的建築物だった。巨大で清潔で実用的なこの建物はしかし、華美では無かった。一切の装飾を廃されたこの建屋は、言うなれば謙虚だった。忍達の自慢だった。更には地下に広がる安全な隠れ屋や訓練場などもあり、非常時には裏町全員が立てこもることも出来る要塞となっていた。ジズ大橋と並ぶ、裏町の核心なのだ。それがこのように破壊され荒らされていることが、ポーにとって悲しかったのだ。突然、ポーは思い当たる。
(子供達は?)
楽観出来ない。ポーは結論する。すぐに子供達の安否を確認する必要がある。ポーは駆け出そうとして、フエナに腕を捕まれる。
「どしたの?顔色、真っ青よ。」
口ごもるポーにコクトはへらへらと笑いかける。
「他にも居るんでしょ。治療中のファンブルが。あのさ、俺は仲間だと思っている。水紋の国の為に命を投げ出す覚悟をした仲間だ。遠慮しないで言ってよね。君が求めるのなら、俺はどれだけ深い地下にでも潜るよ。」
「あたしも同じよ。多分みんなも。手伝うわ。行きましょう。助けるべきモルフがいるんでしょ?」
ポーはこれまで遠くに感じていた霧街が自分達と同じ心を持つこと知り、嬉しくて、転回しないイドが暖かくなるのを感じた。だが、それとこれとは問題が違う。子供達の事は最重要機密だ。ましてや成体と接触させるなどはもっての他だ。でも、一人で子供達を守れるだろうか。百人の子供だ。恐らく守りながら烏頭鬼と交戦する事など出来ないだろう。ポーは迷った。だが、黒檀は忍を厳しく教育していた。忍の本質は、本当の“強み”は組織力だと教育していた。そしてそれを保つことが全てにおいて優先され、その結果全てのミッションが達成されるのだと、忍の末端に至るまで浸透させていた。ポーも例外ではなかった。黒檀の教えは単純だった。部隊で行動するときは部隊のリーダーの決断に従い行動を決する。チームで行動するときはチームリーダーの決断に従う。ペアで動く時もリーダーを決めてリーダーが判断するのだ。全ての力が一つに集まるように、組織がぶれないように行動するのだ。では、一人の時は?いつだっただろうか。忍を目指す輪廻転回しない者が一同に集められ、黒檀が直々にこの忍の心柱を語った時があった。その時の黒檀の声が、今、この極限にあってポーの胸に蘇る。たった一人の時に何かの判断が必要となった際の対応について黒檀は断言したのだ。
「ソコにお前しか居ないのであれば、お前が判断しろ。例え裏町の滅亡を決するような判断であったとしても。お前が判断するのだ。そして町はお前の決断を支持する。お前が町を想い最善を尽くしたことを疑わない。臆するな。町を信頼しろ。」
黒檀の声が響いて消えた。ポーは町を想い最善を尽くす。
「この医療施設の最下層に子供達が居る。最後の子よりも後に生まれた子供が。絶対に救い出さなくてはならない。」
一同に驚きが走ったが、彼らは既に仲間だった。疑問は残るが、猜疑心は働かない。彼らは一つの方向を向いた。いつも通りコクトがへらへらと言う。
「さぁー、盛り上がって参りました!」




