第二話 裏町の死2。
紫檀パーロッサは子供達を追う烏頭鬼を蹴散らし進んだ。人工的な医療施設の地下通路はやがて荒い岩が覆う洞窟へと変わった。遠くに明かりが見える。ここからは最後の直線でその先には、ジズ川の河川敷が広がる。洞窟は後、百メートル程だった。微かに子供達の悲鳴が聞こえる。パーロッサは黒化する。膝を屈めて蓄力する。長剣を構えるパーロッサの目が光り、パーロッサは跳躍した。洞窟から射出される砲弾さながら飛翔して、河川敷に到達する。日中の光が彼を包む。一瞬、紫檀パーロッサは対岸の大きく立ち上がる戦塵に注意が移ったが、使命を思い出し、子供達を探した。すぐに見つかる。大橋の直下で子供達が烏頭鬼と交戦中だった。パーロッサは再び跳躍し、烏頭鬼の群れに深く突入した。長剣を振るい、敵をスライスしていく。子供達は英雄である五大極が現れたことに歓喜して嬌声を上げた。パーロッサは子供達の期待通りに烏頭鬼を切断して全滅させた。彼にとって特別な難易度では無かった。
「皆、無事か?」
刀を納めながらパーロッサは周囲の子供達に問いかけた。子供達の顔が曇る。パーロッサに縋り付く子や泣き出す子が居た。ざっと見渡す限りではここにいるのは70名ほどだ。残りの30名は途中ではぐれたのだろう。至る所に烏頭鬼が潜んでいるこの現状では、はぐれた子供の運命は一つしか無い。パーロッサは怯えて甘えてくる子供達の頭をなでてやった。裏町の子供達は霧街の幼生とは違った。何かの動物や虫を連想させる面影が全くなく、頭髪は豊かで柔らかだった。また、幼生と決定的に違うのは最初から性の区別がはっきりしていることだった。裏町の子供達はこれまでの幼生とは違う存在だった。この意味において古い世界はいずれにせよ滅びる運命であることに間違いは無かった。
(恐らく、世界は滅びて生まれ変わるのだ。この子供達はその先駆けとなるのだ。だからこそ、何に変えてでも守る必要がある。この子達の命は世界の命そのものなのだ。)
パーロッサの思案は念珠の震動で破られる。黒檀からの連絡だ。彼らは念珠の力で念話した。紫檀は現状報告し、黒檀は命令する。簡潔で大胆な命令だった。
(可能な限りの子供達を連れて隠れ屋に向かえ。どこの隠れ屋でも良い。荷物をまとめたら“空白”に移動しろ。裏町は捨てる。)
子供達全員を連れてと命令されると考えていたパーロッサは、驚き動揺したが、同意する。それは当然、子供達だけでは無く、大切な仲間や友人を見捨てることも含まれているのだ。それでも、パーロッサは同意した。烏頭鬼の群れを前にしてはそれ以外に方法はなさそうに思えたのだ。望みの全てを叶えられるほど、現実は甘くは無いのだ。前に進むためには何かを置いていくことも必要なのだ。
例え、それが――。




