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「天恵」 ~零の鍵の世界~  作者: ゆうわ
第四章 戦。
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第四十五話 希望と絶望5。




 紫檀パーロッサは念珠で指示を出しながら、子供達を追って、ジズ川へ向かった。六角金剛とクウは飛来した烏頭鬼と対峙するため、地上への最短コースを駆ける。一方で黒檀シキとヤハク、ウモクは子供達の隠れ屋に向かった。シキは烏頭鬼が現れた何かを押さえようと考えたのだ。外衣があると考えたのだ。


 (しかし、何故、外衣が隠れ屋に持ち込まれたのだ?)


 判らなかった。しかし、とにかくそれを探し出し、焼き払うしかない。外衣が裏町ナカスに存在することはすなわち、烏頭鬼の全軍がここに存在することとなるのだ。シキは走る。完全黒化ラー・カーバンし、狭い地下廊下を最大速力で駆け抜ける。走り、曲がり、降りて下る。途中で次々とウカミ達がシキに合流する。ヤハクとウモクも合流した。最後の角を曲がると廊下と部屋が大きく崩れていた。その奥に隠れ屋に繋がる扉があった。扉は開け放たれていた。シキは飛び込む。眼前に巨大な烏頭鬼の頭。身長は五メートルは超えるだろう。もし、外衣から出現していたら、の話だが。烏頭鬼の巨人は、小さい外衣の闇穴に巨大な頭部が引っかかってしまい、闇穴を塞いでいた。烏頭鬼自身が外衣の栓となりそれ以上の友軍を送達する事が出来なくなっていた。シキは間抜けな烏頭鬼を笑うでも無く拳を熾天炎化セラーし、烏頭鬼の頭部を叩き潰し、外衣を焼き払った。一瞬で隠れ屋に静寂が戻る。


 「何故、外衣がここにあるのだ。」


 黒檀は呟く。答えは返らないまま、ロイの絶叫が響く。


 「貴様らぁ!!」


 崩れた部屋の中からロイは飛び出し、シキに殴りかかった。シキは軽く片腕で受け止める。ヤハクがロイを掴み引きずり倒す。


 「うるさいわ!言葉もない野蛮人か!霧街は!」


 怒りの炎を宿した瞳でロイはヤハクを見据えて崩れた部屋を指さした。用心しながらロイの指し示す方向を見たヤハクは動きが止まった。霧街のモルフ達の生首が壁一面に飾られていたのだ。シキもその場に居た全ての輪廻転回しない者(リーム・リーン)は驚愕し、硬直した。裏町ナカスの地下にこんなおぞましい場所があるとは。


 「通りでなんの協力もないと思ったよ!お前達の仕業だったとはな!見た目通りのおぞましい生き物だよ失敗作ファンブルは!」


 ロイは偏見と傲慢に満ちた私見をぶちまけた。周囲のウカミ達の表情が変わる。でたらめを言われては困る。それに今や失敗作ファンブルは霧街の方なのだから。ウカミ達は次々と黒化カーバン……五大極の様に完全黒化ラー・カーバンは出来なかったが、それぞれが思い思いの場所を黒化カーバン……させてロイににじり寄る。部分的ではあっても黒化カーバンから繰り出される攻撃はどれも致死的だ。一撃でロイの外殻を粉砕するだろう。ロイは最初から全力で挑むことに決めていた。最も効果のあるタイミングで仕掛けて、皆殺しにするつもりだった。ウカミは飛びかかる。次々とロイの外殻に攻撃を加えて、外殻を粉砕していく。ロイは防御の姿勢を取ったまま、動かない。ウカミの黒化連撃を喰らいながらもロイはタイミングを計る。


 (敵を極限まで引きつける。外殻が全損する寸前まで……。)


 そして、すぐにその時は来た。


 白死フラッシュ・バグ!!!


 ウカミ達は何が起こったのか理解出来ないまま跫音閃光に失神して倒れた。さすがに五大極は倒れなかったが、衝撃で全員が膝をつき、黒化カーバンが解けてしまった。


 「何という衝撃だ……。」


 膝をついたまま視力も聴力も戻らないヤハクは驚嘆していた。ヤハクは、六角金剛ではないただの舞闘家がこれほどまでの技を行使するとは、信じられなかった。だが、これは現実でこの戦いは既に決着した。ロイは黒玄翁を振るった。ヤハクとウモクは吹き飛ばされて壁に激突して気絶した。残るは黒檀だけだった。


 「残念です。裏町ナカスとは共存して行きたかったのに。」


 生意気を言うロイに黒檀は失笑した。


 「俺も残念だよ。かわいいロイが道を踏み外したことに。」


 馬鹿にされて冷静さを欠いているロイにシキは飛びかかる。完全黒化ラー・カーバンしていた。ヤハク達と相対している間にシキの聴力視力は回復し、舞闘が可能となっていた。通常であれば数分は行動不能に陥るはずだったが、ウカミの総代である黒檀には不足だった。ロイの眼力では捉えきれない高速の突きがロイの腹部にめり込まなかった。シキの正拳は闇色の布切れに包まれて減速し、ロイには届かなかった。


 「一体何だ?その技は。」


 闇の布切れからラスが現れた。はらりはらりと黒羽がこぼれる。黒檀は素早く飛び退いた。シキは口を開き駆けたが、瞬時に判断してその場を去った。医療施設コムーネに張り巡らせた秘密の抜け道に飛び込んだのだ。部外者が追跡できるような単純な通路では無かったし、その入り口はシキが扉を閉じると完全に消えてしまった。一瞬、扉を探そうとしたロイだったが、結局、未知の通路に挑むことを避けて、その場の制圧を完了させることにした。戦いは区切られて、ヤハク、ウモク、その他のウカミ達は置き去りにされた。高い鼻を挟んでいる長く鋭い目を光らせて、ラスはロイに告げた。


 「あいつが首切りの親玉か。次は逃さねぇ。」


 ラスは呟いた後、げらげら笑った。呼吸を整えてから、ロイに告げた。ラスの不遜の瞳が輝く。彼は、そうそう、忘れてた。これを伝えにここに来たんだよ、と前置きしてから言った。


 「そうだ、ロイ。今、“霧街”はとんでもないお祭り状態だぜ。」

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