第三十九話 希望と絶望1。
帰還した戦士達は皆一様に大怪我を負っていた。イソール率いる医療施設の癒やし手達は、最高の施術を行い、彼らの命を繋いだ。場所は医療施設の地階だった。そこには特別な患者の手術室や病室があった。厳重な警戒を施せる……つまり、逃げ出しようのない……VIP用の病棟だった。魔法の光が瞬きもせずに輝く地下の議場で彼らは議を進めていた。黒丸とヒハクを失った悲しみを飲み込み一文字は議を進める。既に社交辞令の挨拶は終わり、実務が始まっている。
「とにかく、“闇穴”は消滅した。まだ数多くの外衣があり、少なからず烏頭鬼が増え続けているが、巨大な烏頭鬼や、三面六臂の様な致死的な烏頭鬼は出現出来ない状態になった。早急に全軍で烏頭鬼を全滅させる必要がある。」
そう、全滅が必須なのだ。一匹でも残れば、どの様な手段で“闇穴”を再建するか判らない。烏頭鬼を絶滅することがこの烏頭鬼の戦いのゴールになったのだ。彼ら……六角金剛と五大極……輪廻転回した者と輪廻転回しない者達は互いの立場と感情を超えて向き合った。清潔なばかりで一切の飾り気の無い金属製の冷たい長テーブルを挟んで、黒檀、紫檀、白檀、花櫚、鉄刀木と蟲王角、羊王角、熊王角と……ハクが向かい合っていた。ハクはロイが大怪我をしたのを聞き、無理矢理、六角金剛についてきたのだ。戦の準備がある霧街から実務者を抜き出す訳にいかなかった六角金剛達は、ハクの同行を認めて四牙や十爪を街に残した。一文字は続ける。
「霧街の戦闘員と現役の舞闘者の全てで挑む。裏町は忍の全てを戦にあてがってくれないか。水紋の国の存亡を賭けた……つまりは零鍵世界の全てを賭けた戦になる。戦力を温存する必要は無い。」
イソールはもじゃもじゃ頭を整えながら答える。
「そうね。それしか無いわね。忍は全員、無限舞闘が使えるから皆、百人力よ。残念ながら完全黒化出来るのは、五大黒とポーだけ。でも、霧街だけで戦うよりは遙かにましよ。」
「ありがとう。僅かな希望だが、これに賭けよう。では、決戦の準備に移る。明日、日が中天を指すまでに霧街の全軍をジズ大橋の袂に集結させる。忍は問題ないか?」
「勿論。」
相変わらず、黒化している黒檀が嬉しそうに答えた。正直、また一文字や渦翁と肩を並べて戦える日が来るとは夢想さえしていなかった。勿論、このシチュエーションも。一文字は立ち上がり、手を差し伸べた。
「握手を。」
一文字のその言葉に黒檀は面食らった。
(霧街連中はいつだってファンブルを馬鹿にして虐げてきた。今、裏町に利用価値が出てきて急にこの態度か?いや……一文字さんは違う。いつだって真っ直ぐだった。きっと今でも変わらない。)
黒檀は少し熱くなり、握手を受け入れた。手を握った瞬間に一文字は理解した。微笑む。
「……お前……本当に?なんとまぁ、久しいな。黒丸にも教えてやりたかったな……。」
黒檀は慌てて無理矢理手を引き剥がした。笑うが、心は閉ざしている。闇色の闘気が燃え上がる。
「以上だ。明日の決戦を楽しみにしている。明日、世界は決する。全てが滅ぼうとも、我々はこの戦いには勝利する。」
「駄目だよそんなの。」
無邪気で真っ直ぐな声が、地下議場に響いた。




