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第三十八話 細い帰り道。
「駄目だ、ロイの糸が切れている。」
セアカは苦そうに言う。一文字は目を瞑った。
「白死か。」
恐らく、ロイは時間稼ぎにその真技を行使したのだろう。クウの“オーロウ”と供に効力が謎に包まれている危険な技だ。絶対に切れることの無いセアカの糸を裁ち切る唯一の技で、一文字の角と右腕を奪った技でもある。セアカがたぐり寄せたロイの糸は先が摩耗して切れていた。ロイはもう戻れない。続けてたぐり寄せたヒハクの糸先を見てセアカは感情の無い声で言う。
「ヒハクも駄目だ。黒丸だけを回収する。」
戦いを見ていないセアカ達には知ることが出来なかったが、熾天炎化が巻き起こした大爆発でも糸が切れることは無かったが、その拘束力が弱まり、ヒハクに繋がれた糸はほどけてしまったのだ。煤けた糸が空しく裏町の大地で萎れている。セアカは最後の一本、黒丸の糸を外衣の闇から引き上げた。その糸が連れ帰ったのは。
「ロイ!」
ロイ、一人だけだった。そして、黒丸とヒハクは野営地から戻ることは無かった。




