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「天恵」 ~零の鍵の世界~  作者: ゆうわ
第四章 戦。
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第三十一話 野営地。




 黒丸は闇を吸い込んだ瞬間、闇と同化した。闇になった彼は闇をすり抜けて、闇の中を脱した。突然、野営地の大地に放り出された。地面を転げ回る。そうしながらも彼は周囲を把握する。


 唸る喧噪が黒丸に覆い被さってきた。烏頭鬼の気狂いじみた、悲鳴のような叫びが響く。数万の烏頭鬼のただ中に黒丸はいた。


 真技 水鏡キーン


 ぽちょん。と、静かな水面に水滴が落ちるように周囲の空気は波を打ち、黒丸を隠す。光の屈折を操る黒丸の姿は戦の喧噪に溶け込んだ。一匹の烏頭鬼も黒丸の存在に気がつかなかった。黒丸は光に紛れた。周囲に仲間が居ないことを確認し、黒丸は闇穴に向かい進む。野営地の中心部にそれはある。黒丸は全速力でそこに向かう。が、すぐに気付いた。烏頭鬼達は混乱していた。右往左往し、空を見渡し、大地を探っている。


 (何じゃ。こやつら。本当の気狂い、か?)


 次瞬、黒丸は気付いた。何かが高速で烏頭鬼の群の中を飛び回っている。黒く小さい何かだ。直ぐに彼は結論した。


 (黒化カーバン!)


 黒化カーバンしたポーが野営地を縦横無尽に飛び回っているのだ。ジズ大橋の手前でやった様に超硬化して鋼鉄と化した筋肉が生み出す強力な反発力で肉眼では追いつけない速度を生み出し、烏頭鬼を惨殺している。但し、初戦のように黒壁が無いため、飛び回るポーは着地の度に地面を抉り、突進の度に地面を砕いていた。ポーの黒化筋に大地が負けて削られる為、最大攻力を発揮できずに居た。だが、でもその威力は凄まじいものがあった。


 (何という攻撃力じゃ。あのような若者がここまでの舞闘力を示すとは……ファンブルとは何なのじゃ?失敗では無いのか?じゃが……。)


 黒丸は感心しながら疑問を抱き、そして怒りを覚えた。ポーの戦いは作戦に反する。どれだけ個人の能力が優れていようが、十万対九では話にならない。単純に時間の問題だ。今回の作戦は極力戦いを避けて、闇穴を焼き払うことが必要だった。


 (それがこの騒ぎか!)


 黒丸はもう少しで味方であるはずのポーを攻撃して押さえつけようとするところだったが、すんでの所で思いと留まった。それは。


 ヒハク!


 黒丸は心臓が爆発するような感覚に襲われた。無数の烏頭鬼に囲まれたヒハクは攻撃を躱し反撃し、しかし、彼らのざらついた不衛生な槍に切り刻まれ、血を流し、逃げ惑っていた。ポーはヒハクを救うため、無謀な乱戦を繰り広げているのだ。疲弊し一部、黒化カーバンが解けているヒハクは槍に刺し貫かれ、血を吐き台地に打ち据えられた。重傷を負い反撃どころか僅かに身を躱すことさえままならない。黒丸は加速する。ヒハクに覆い被さる烏頭鬼の群れを吹き飛ばし、蛙王盾アージェンを放った。黒丸の体表を覆う粘膜が膨張し増大して膨れ上がる。黒丸はそれを手足のように操り、身動きのとれないヒハクを絡め取り、引き寄せた。当然、烏頭鬼の注目は黒丸に集まる。蛙王盾アージェンを使用した黒丸は一時的に水鏡キーンが解けてその姿を薄汚いカラス共に晒してしまった。数百の黒い瞳が黒丸を見据える。黒丸は怯まない。小脇にヒハクを抱える黒丸は憤怒金剛の形相で怒りを放った。


 真技金剛掌!!


 半径100メートルの烏頭鬼が吹き飛んで、ゴミのように野営地を舞った。黒丸は再び水鏡キーンを行使して光に溶け込んだ。改めて周囲を見渡すと野営地の其処此処で乱闘が起きているようだった。どうやら自分が最も遅く到着したようだ。


 「ヒハク?」


 光に隠れ烏頭鬼達から見ることの出来ない黒丸はヒハクに話しかけた。ヒハクは大地に横たわりながら、薄目を開けて笑う。


 「久しいな。黒丸。」


 生意気ないいぶりに黒丸は勇気付けられた。この生意気で大切なファンブルの弟はどうやら、まだ生きている。まだ何も手遅れでは無いのだ。


 「おう。元気じゃったか。裏町ナカスの水は性におうとるか?」


 言いながら黒丸は、感慨に耽る。何十年ぶりじゃろうか。互いの地位と無関係に話すのは。ヒハクは薄目を開けて細く笑うだけだ。黒丸はヒハクがかなりの重傷であることを察した。


 (ささと片付けて帰らんとな。)


 黒丸は水鏡キーンで自身とヒハクを隠しながら、全速で闇穴を目指す。ポーはヒハクが消えたことを知ると優秀にも……冷酷にも?……その場を離れ、闇穴を目指して跳躍した。


 (どうやら裏町ナカスを舐めておったわ。)


 黒丸はヒハクを背負いながらも加速して闇穴に向かった。そうしながらもいくつかの混乱が闇穴に向けて進んでいることを理解した。黒丸は馬鹿では無い。経験に乏しい若者でも無い。彼は狩猟隊を率いて様々な敵対種クリーチャーと対峙してきた。その彼の経験が囁く。


 (……さて、何人が生き残っているんじゃ?)

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