第三十話 闇の中。
一番最初に外衣に飛び込んだのは黒丸だった。外衣の中は一切の光を通さない闇だけで満たされていた。落ちていく感覚があったが自分がどこに向かっているのか判らなかった。外衣に飛び込んだ瞬間に時間の感覚が失われ永遠が訪れる。黒丸は不安と対峙する。
……わしはどこに向かっているのじゃ……本当に野営地に出られるのか?なんじゃこの闇は。深い。とんでもなく深い。このまま永久に闇中で彷徨うはめに……。
ふと、黒丸は自分が息をしていないことに気付いた。息を吸おうとするが吸えない。水中で息を吸おうとしても体がそれを許さないように闇の中では体が拒絶して息を吸うことが出来なかった。まるで、闇を吸えば死んでしまうことを体が理解しているかのように。だが、すぐに体は酸素を求めて震え始める。肺がひくついて口と鼻が精神や肉体に反抗して勝手に息を吸い込もうとする。少し、闇をすった。喉も肺も焼け付き様な刺激に襲われる。やはり、この闇は有毒で致死的なのだ。黒丸は必死に息を止める。両手で口と鼻を押さえる。だが、肺が勝手に蠕動を繰り返して、闇を吸い込もうとする。もういくらも持たないことを理解した黒丸は見えないと判っていたが、薄目を開いて出口を探した。意外にも出口は見えた。ただし、それは地平の彼方だった。何百キロも前方に強い光があり、そこから戦太鼓の音が響いてくる。その瞬間、黒丸は絶望して、諦めた。
……駄目じゃったか。
黒丸は力むことを止め、身体の欲求に従い、大きく息を吸い込んだ。




