第二十一話 ルール。
「何をしているのだ。裏町の馬鹿共は!」
東大門を城壁の上から望遠鏡で裏町と烏頭鬼の戦いを見ていた熊王角胆月は苛立ち、気を吐いた。部下達が萎縮するのも構わずに続ける。
「なぜ、全員で挑まん!六人ではいずれ体力が尽きるぞ。優勢な今こそ、敵を殲滅するべきだ。」
「凄まじい戦い方じゃな。」
報告を聞いた蛙王角黒丸が大門の最前列に現れた。同じく、望遠鏡で戦況を見守っている。
「黒丸!俺に出撃の許可を!戦況がひっくり返るのも時間の問題だ。今、全力で当たれば敵の先陣を殲滅出来る。」
「駄目じゃ。裏町には裏町の考えがあるのじゃ。だからこそ、我らが主戦場を東大門前と定めたことを伝えても、ああして戦っておる。我らはあくまで城壁を使い敵を追い返す戦をする。」
望遠鏡を覗いたまま言った黒丸は返した。続けて、ぼそりと呟く。
「いかんな。案の定じゃ。」
戦況に変化が生じていた。霧街を奇襲した時のように烏頭鬼の外衣から仲間が湧き出している。一万の軍勢に見えるそれはしかし、全軍でもあるのだ。これではどれだけ黒檀達が強かろうと、勝ち目はない。
「俺は助けに行くぞ。ファンブルとは言え、仲間だ。」
言い放つ胆月を黒丸が制する。
「いかん。それこそがわしらの最大の難敵じゃ。統率。統率を乱すな。一つの生き物としてわしらは行動し、最小限の被害でこの戦を終える。仲間であっても作戦を守れぬ者の為に犠牲は払えん。」
単純な胆月は黒丸の言いたいことの半分も理解出来なかったが、黒丸のやろうとしていることは、詰まるところファンブルを見捨てて、霧街だけが助かろうということだ。胆月は気にいらなかった。が、確かに今打って出ればこちらにも犠牲が出る。胆月はばりばりと頭を掻いた。
「承知した。俺は俺の戦の準備をする。ファンブル達が全滅して行軍が再開したら教えてくれ……なぁ。仮にこの戦で霧街の被害が少なかったとしてよ。それで、貴様は平穏に暮らしていけるのか?だとしたら……大したもんだな、貴様は。」
そう言うと、部下を怒鳴り散らしながら大門の裏手に周り、武器や罠の最終確認を始めた。
黒丸は、胆月の態度が不満だったが、それでも勝手な行動を起こさなかったことは及第点だと判断して、裏町の戦に目を戻した。黒丸は保って後5分と判断していた。モルフが最大能力を発揮できる時間は15分程度だからだ。それ以降は充分な舞闘力を示すことは出来ない。それが“ルール”なのだ。神が我々をそう作ったのだ。愚かな戦いに明け暮れないように、と。だから舞闘は10分で決着しない場合は、水入りとなる……霧街の舞闘は。
黒丸は知らなかった。忍の無限舞闘を。そして、今、それを目の当たりにした。15分が過ぎて20分、30分が経過したところで黒丸はファンブル達の異様さを認識した。黒壁の間を跳躍し続ける忍達は1回の跳躍で数百の烏頭鬼を貫いて惨殺する。同時にあちこちに火が放たれて、烏頭鬼の外衣を焼き払っていく。それでも焼け残った外衣から烏頭鬼が湧き出すが、忍の殺傷力を上回ることは無く。烏頭鬼の軍勢はその数を減らしていった。そして遂に、どの外衣からも烏頭鬼が出てくることは無くなり、戦いは区切られた。




