〜運命の出会い編〜
〜プロローグ〜
「美晴先輩!この資料作るの手伝ってください。」
そんな声が聞こえた。声の主は見晴の二つ年下の高月桃香である。
「んー。なに桃香。なんの資料」
そう言って出されたのが、明後日の重要な会議で使う資料だった。
その時彼女はこう思った。
(これ、明後日までに終わるかな〜)
と。
まぁ、そんなことはおいといて。その日の帰り道、願掛けのために伏見稲荷大社にお参りに行ったのだ。
ーそうして、あの男と出会ったのだー
「ん?なんだアレ」
見晴が見たのは木の太い枝に座り、幹に寄っかかるようにして酒を飲んでいた男の人だった。その男は明らかにこの世の者ではないと、見晴は見た瞬間にそう思ったのだ。
なぜならその男は時代劇でしか見たことの無い狩衣に烏帽子を被り、見晴以外の誰からも認知されていなかったのだ。『変なモノを見た』と、見晴は思った。
普通の神社であれば『神様がわざわざ出てきてくれた。縁起が良い』と、思うかもしれないが、ここは伏見稲荷大社である。稲荷神を祀る神社に人の形をした者がいるだろうか。いるはずが無い。伏見稲荷大社の主祭神である宇迦之御魂神が一応人の形であるが、そもそも宇迦之御魂神は女、女神である。
見晴はあの男に見つからないように早々とお参りを済ませた――が、見つかってしまった。男は見晴に向けてフッと息を吹きかけた。
第一の録『人探し』
「あぁ〜今日の会議疲れた~」
見晴がグッと背伸びをする。今日の会議はなんのトラブルも無く無事に終わった。『今日の夕ご飯は何にしよかな』と、考えながら見晴は家までの帰り道を歩いていた。
フッ、と見晴が振り向き後ろを確認する。なぜそんな事をするのかとゆうと、見晴は会社を出た辺りから誰かにつけられている感じがするのだ。『私の思い違いかな』と、見晴は思い、気にせず家へ帰ることにした。
『ただいま〜』と玄関を開け、茶の間に繋がるふすまを開けると、見晴は驚いた。茶の間に知らない男の人がいるのだ。その男は見晴を見るなり
「おぉ。見晴、帰ったか。家主の許可も無く居座っていることには謝ろう。だが、これからよろしく頼むぞ。見晴」
と、言ってきた。
ギャーっとゆう見晴の悲鳴が家中を駆け巡った。そんな反応を見るなり男は『おっと。怖がらせてしまっかな?』と言いスッと立ち上がり見晴に近寄り目の前でしゃがむ、そして見晴の耳元でこう囁いた。
「見晴。怖がらないで、俺は悪しき死霊でもなんでもない」
と、男が言うと、男はそのまま見晴はキスをした。
見晴は男にキスされた時、『私の初めてこんな男に奪われてしもたんか!』と、少しショック、いや、かなりショックを受けた。
そしてもう一つ驚いた事がある。
それは、見晴にキスをした男がキスをした際に体が光ったのだ。
その光はだんだんと強くなり見晴は反射的に目をつぶる、そして目を開けるとその男の頬に見晴の名字である『東』という文字が書かれていたのだ。
「え!なに、もう一回聞かせて」
見晴はあの男の話を聞いていた。
あの男が言うには、あの男は琥珀川天龍と言うらしく、平安時代に安倍晴明に次ぐ陰陽師として知られていたらしい。
そんな事を言われても見晴にはよく分からないのだが、とりあえず、陰陽師がこの家に来たという認識でいいだろう。
そして、何故この家に来たのかという話を見晴は聞いていたのだ。
琥珀川によると、『先日、伏見稲荷大社にお参りをした時に私が見えていたのが見晴で何かしらの運命を感じたからこの家に来た』という事らしい。
「えぇ!てことはただ単に琥珀川の事が見えていたから私の家に来たちゅうこと?」
と、見晴が尋ねると、琥珀川は『あぁ。そうゆうことだ』と言った。
「そしてだな。見晴」
琥珀川がかしこまって言う。
「なに?琥珀川。出来れば早くあなたに帰って欲しいんだけど」
と、見晴が返すと琥珀川は
「これから見晴は人ならざる者が起こした怪異を解決するという責務を俺の代わりにやってほしい。と言うよりやれ。いいな。見晴」
と言ってきた。見晴は少しきょとんとしてえっという顔して
「えぇ!なにそれなにそれ、はぁ、無理だよ無理無理、無理です。ってゆうか相手って人ならざる者なんだよね。人じゃなんいでしょう。私無理だよ。そもそも私生身の人間だよ。人ならざる者相手に生身の人間なんてどう考えても無理だよ。お引取りください」
と、言う。
だが、琥珀川は諦めずに何度も何度も言ってきた。そして、見晴にとっては心が折れる事を言ってきたのだ。
「そもそもな、見晴!見晴は俺と憑神契約をしたのだ。だから見晴は俺の責務を俺に代わってやることが俺と憑神契約をした代償だ。だからやれ!」
「ちょっとまって!憑神契約ってなに。いつしたの?」
「俺とキスしただろ!それが憑神契約だ!」
と、言われ、見晴は頭が真っ白になった。
「えっ・・・・・・そぉそれはオマエが勝手にやったことでしょ!少なくとも私の意思でしたんじゃないのよ!」
と言った。
言い争いは続き、結局折れたのは見晴だった。幸いにも明日は土曜日、仕事は休みである。
その日の見晴の夢で優馬と名乗る見覚えの無い人が見晴の夢の中に入ってきた。その優馬と名乗る男はこういったのだ『サキを・・・・・・サキを探してください。』っと。
見晴が起きて、朝御飯やらを食べ終わったタイミングで、インターホンがなった。ドアの向こうにいたのは昨日夢に出てきた優馬であった。とりあえず優馬を家の中に入れ話を聞く。
「えぇっと、なに?サキっていう人を探せばいいの?でもさ、それって警察とかの仕事じゃん。なんで私に?」
と言うと優馬からは
「いや〜。それが見晴さんに頼めばサキの事見つけてもらえるって直感で思って、宮城から飛んで京都まで来ちゃいました」
と、言われた。
「へぇ、優馬って宮城県出身なんだ」
と言うと、
「あぁ〜はい。生まれは京都で三、四歳の時に親の転勤で宮城に、って感じです」
と言った。
「ふーん。でさ、本題何だけど、サキってどんな人?そもそもなんで探すことになったの?家出?」
と見晴が言うと、優馬は少し考えて、
「うーん。サキは家出とかじゃなくて、突然いなくなったというか何というか・・・・・・」
と言うと見晴が少し顔をしかめて、
「えっ、いなくなった、突然?」
と、言った。
「ハイ、そうなんです」
「ふーん。あっ!あのさ。サキって漢字でどう書くの?ちょっとこれに書いてみて」
と言い、そこらへんにあった紙とペンを優馬に渡す。
そして優馬がサキという名前を書いていく。そして、優馬が書いたのが『桜狐』という漢字だった。
「ん、これは」
いままで黙っていた琥珀川が口を開く。
「なに?琥珀川?知り合い?」
見晴が問う。それに対して琥珀川は
「いや・・・・・・どこかで聞いたことのある名ではあるが・・・・・・どこだったかの~」
という曖昧な返事が帰ってきた。
ここで見晴はふと疑問に思った。『さっき普通に琥珀川と話したけど――優馬って琥珀川のこと見えてる?』と。
見えてなかったら大惨事だ。見晴はただの空間に話しかけてるやばい奴と思われてしまう。
「ねぇ。優馬」
「はい。なんです。見晴さん」
見晴が恐る恐る尋ねる。
「私の横にいる平安貴族みたいな服装の人、見えてる?」
そう言うと優馬がさらりと
「見えてますよ。ていうかその人、琥珀川っていうんですね~」
と言われ見晴は安堵した。
ふぅーと見晴が息を吐き優馬に向かって
「わかった。じゃあその桜狐っていう人探して見るから」
そう言うと優馬が満天の笑顔で『ありがとうございます。見晴さん!』と言った。――その際も琥珀川は何やら考え込んでいた。
一週間が経った。まだ桜狐は見つかっていない。
「うーん。桜狐が全然見つからない。一体どこにいるのよ~」
見晴が愚痴をこぼす。すると、琥珀川が見晴を呼ぶ
「なに〜琥珀川。桜狐っていう人のこと思い出した?」
「いや、そうではない。ただ俺の式の紹介をし忘れていただけだ」
と言った。
「なんだよ~桜狐のこと思い出したんじゃないのかよ~」
と見晴が言うと琥珀川が『式、召喚』と言い柏手を打った。すると、琥珀川の横に狐のお面を被った四人の女性が現れた。
「見晴。この者達が俺の式だ。俺とこの者達は契約を結んでおり、俺は見晴と契約を結んでいる。すなわち、見晴もこの者達を使役できるというこだ。お前ら面を外せ、この御方が今からお前達の主である東見晴様だ」
と言う。面を外した四ですか人は見晴も惚れ惚れしてしまう程の美人であっった。
「この者達の名は俺の横から順に、添、鈴、華、白蘭だ。どうかよろしく」
と琥珀川が言うと添達は『よろしくおねがいします。見晴様』と言って礼をした。
そこからニ週間が過ぎた、未だ桜狐は見つかっていない。完全に行き詰まった、いや行き詰まるのは目に見えていたのかもしれない。なにしろ情報が少なすぎた、優馬の口から出た情報は桜狐という名前だけ。見晴はこの3週間頑張って桜狐を探した。友達、上司、後輩、警察官、色々な人に桜狐を知らないかと聞いた。答えはみんな一緒『知らない』だった。ここまで来ると流石に優馬に怒りが湧いてくる。桜狐は本当にこの世界にいるのか、もしかしたら宮城にいた優馬が頭を打ってその際に出来たただの妄想上の人物で優馬の頭がそれを本当にいると勘違いしただけなんじゃないのか。そんな事を見晴は考えた。
「ねぇ、優馬」
「はい、なんです」
優馬が返事をする。
「桜狐って本当にいるん!もしかしてあなた私のことおちょくってるんじゃあらへんの!そしたらもうごめんや!私いつまで桜狐のこと探さなあかんとおもてんねん!なぁ優馬聞いとるんか!私だって会社行ったりして忙しいんや!本当は桜狐なんて探してる時間なんてないんやで!」
「えぇ、ちょっと見晴さん落ち着いて。桜狐は本当にいます。見晴さんのことをおちょくってるわけじゃありません」
見晴が急にまくしたて、優馬が返答に困る。
「見晴、優馬」
いつからいたのか琥珀川が見晴達を呼ぶ
「なんや琥珀川!」
「今から伏見稲荷大社に行くぞ。だから出かける支度をせい。あと見晴、落ち着け」
「なんで行かなあかんねん」
見晴が言う。そして琥珀川から出た言葉は見晴達から見れば希望の光だった。
「そこに桜狐がいる。だから迎えに行くまでだ」
「えっ桜狐見つかったんですか!」
優馬が目を輝かせながら言った。
「よし。ここで良いだろう」
そう言って琥珀川は伏見稲荷大社の三ツ峰辺りのところまで来た。もうあたりは真っ暗である。
そうすると琥珀川は見晴達の背中をトンと叩きこう呼びかけた
「桜狐。出て来い。優馬だぞ」
スゥーと乾いた風が見晴達を通り抜ける。桜狐は出て来ない。呆れた琥珀川が
「そうか、出てこないか。じゃあこちらから強制的に」
と言い、胸の前で手を合わせる、そして『桜狐、召雷』と言い柏手を打った。
バリン!という音とともに雷が落ちた。雷が落ちた所は砂ぼこりが立っていてよく見えないが、うっすらと人影がある。
まさかあれが桜狐なのかと見晴は思う。そして砂ぼこりがおさまりはっきりとその人が見えた時、優馬が叫んだ
「桜狐!!!」
と、桜狐はビクリと体を震わせ優馬の方を見る。桜狐の顔には涙が浮かんでいた。そして泣きじゃくる一歩手前のような声で
「ゆーま様」
と言った。
桜狐の泣きじゃくる声が聞こえる。泣きじゃくる桜狐を見て優馬は少し困っているようだった。
「琥珀川さん」
優馬が言う
「桜狐はなんでいなくなったんでしょうか?」
「んー。それについては本来見晴が説明するのだが、この件に関しては見晴では説明できんから特別に俺が教えてやろう」
と、琥珀川が言った。そして琥珀川からの説明は
「まず、優馬。桜狐が見えなくなったのは宮城県に引っ越す一ヶ月前ではないのか」
そう言うと優馬は『はい。そうです』と言った。その返答を聞き琥珀川は更に続ける。
「うむ。それでだ。事実を言うと桜狐はお前が宮城県に行くまでずっと隣りにいたぞ」
と言うと優馬が驚いた顔をして
「えぇ、じゃあ桜狐がいなくなったんじゃなくて、見えなくなったってことですか?」
と優馬が言うと琥珀川が『あぁそうだ』と言った。
ここでふと見晴に疑問が浮かんだ。なぜ宮城県に引っ越す1か月前なのか、別に見えなくなるのなら引っ越す日に見えなくなっても良いのではないかと。そんな事を思っていることを察知したのか琥珀川が見晴の方を振り向き『そうだよな。そう思うよな』と言って説明を続ける。
「それでだ。なぜ桜狐が見えなくなったのか、それはお前、優馬の意識が関係している」
と言った。そう言うと優馬が
「えぇ。でも俺は桜狐が見えなくなってほしいなんて一度も思ってませんよ」
と言った。
「あぁそうだ。優馬は桜狐が見えなくなってほしいとなんて思っていない。だが、お前の思いに対してお前の意識が逆の行動ををした。どうせ離れ離れになるのなら、どうせ会えなくなるのなら、今の段階から見えないほうが良い。そう意識が思い、桜狐との磁気をずらした」
と言うと琥珀川が見えなくなる、必死に探してもいない。すると突然見晴の真後ろから『ここだここ』と声が聞こえる。振り向くとそこにいたのは琥珀川だった。
「な。いまやって見せたように磁気をずらすと絶対に見えない。俺と見晴のように憑神契約をしていてもだ。逆に、磁気をずらしてない桜狐はずっと見える」
と言うと琥珀川が優馬に問いかける。
「優馬、お前はずっと桜狐を見ていたいか」
と言うと優馬は『ハイ。もちろんです』と言った。
「そうか。お前ら人間が我ら神を見るための条件が三つある。一つ目が神が何かに化けること、2つ目が磁気を合わせること、そして三つ目が憑神契約をすることだ」
そう琥珀川が言うと桜狐が強引に優馬とキスをする。すると桜狐の体が光りだす。そして光が収まり桜狐の頬には優馬の名字である寺内という文字が浮かんでは消えた。それを見て見晴は『優馬の名字って寺内っていうんだ。珍しい』とのんきなことを考えていた。
すると突然、ブオーっと不気味な風が吹いてきた。その風はどんどん大きく強くなっていった。
その時琥珀川が後ろを振り向く。琥珀川にはきちんと聞こえていた風の音に混じって『返せ、ワタシの・・・・・・ワタシの子どもを返せ!』という声が、風が恐怖を感じる程強くなった時、琥珀川が持っていた笏で宙を切り叫ぶ
「目に見えぬ者よ姿を現せ!」
と。すると突然木々の間からドンという音と共に煙が立ち上った。そこには山の木々よりも大きな白狐が見晴達を見下ろす様に居座っていた。
「汚らわしい人間め・・・・・・桜狐を返せ!」
そう白狐が言うと見晴と優馬の体に自分達よりも倍の重さの人が乗りかかったような圧を受ける。すると桜狐が見晴と優馬の前に立ち
「お母さん!やめて!優馬様と見晴様が死んじゃう!」
と叫んだ。白狐のすきを見て琥珀川が『白菊大神。召雷』と言い柏手を打った。するとギャーと言う声と共に見晴達の圧が消える。目の前には桜狐の母親と見られる白狐がそれよりも大きい白狐に噛みつかれていた。
「ギャー。白菊様ぁ。お許しを〜」
「何を言う。桜狐を優馬の憑神にすると言わぬまで放さぬぞ」
とその白菊という人が言うと桜狐の母親は
「分かりましたぁ!桜狐を優馬の憑神にしますぅ~。だから、お許しを〜」
と言うと白菊が桜狐の母親を放し桜狐の母親はひぇ~っと言いながら逃げていった。
『ありがとう。白菊』と琥珀川が言うと白菊は人間の姿になった。白銀の髪にショートカット、小柄な体に凛とした顔立ち、おまけにもふもふな狐耳までついている。まったく琥珀川の式達といい白菊といい琥珀川の周りには美人しかいないのかと思う。ちなみに桜狐も相当なべっぴんさんだ。見晴の心臓に悪い。少女漫画的シチェーションをされたら見晴でもコロッと堕ちてしまうかもしれない。とか思っていると白菊が優馬のほうに近づいて行った。
「ん〜桜狐。良かったな~。これでお前さんは優馬の憑神だ。きちんと優馬のことを守ってやるんだそ」
と言った。
「桜狐。見ないうちに成長したな。前は幼稚園児位の背丈だったのに、中学生位の背丈になって」
伏見稲荷大社の帰り道、優馬はそんなことを言った。そうすると桜狐が
「そりゃあね~。十何年間会えなかったんだからそうでしょうよ」
と言う。『なんだろう生き別れた父親と娘みたいな事を言うな〜』と見晴は思っていた。
「見晴さん」
優馬がかしこまって言う。
「なに。優馬」
「えっと・・・・・・そのー、見晴さんの責務みたいなやつ。手伝いたんですけど。いいですか?」
と言ってきた。
「エッ!手伝ってくれるのありがとう」
と見晴が行ったその時ふわっと風が吹き桜吹雪が見晴達を包み込んだ。そうそれは――見晴達を祝福しているかのように。
第二の録『悪夢の源』
「いや・・・・・・やめて」
悪夢にうなされている声が聞こえる。声の主は高月桃香だ。
彼女が悪夢を見る理由、それは――
「どうしたの桃香。そんな疲れ切った顔して、昨日仕事持ち帰って徹夜した?」
と見晴が言いながら食堂の窓口で買ったサバの塩焼き定食を机に置く。それに対して桃香は
「見晴先輩。私が仕事持ち帰って徹夜する人に見えますか?まぁ時々持ち帰ってますけど、徹夜まではしないですよ」
と言う。『アッ、持ち帰りはするんだ~』と見晴は思い、一番気になっている事を聞く。
「ふーん。じゃあなんでそんな顔をしてんの?私だったら話ぐらい聞くけど」
と言うと桃香が
「えぇ!ホントですか。ありがとうございます見晴先輩」
と言って話し始めた。
話の内容を要約するとこうだ、一ヶ月前から悪夢を見て寝ても寝た気がしないという事だった。
「ふーん。そうなんだ~。ねぇ、その夢の内容って覚えてる?覚えてたら話してほしいんやけど、無理?」
と言うと桃香が夢の内容を話しだした。
「見る夢ははいつも同じで、自分が寝てて、そうすると角の生えた女の人が出て来て私の体を食べていくの。その時の恐怖感といい食べられていくときの痛みがなんかリアルで、寝るだけで疲れる」
と言うと、近くで話を聞いていたらしい部長が
「えっ。桃香、君もか」
と言うと桃香が
「えっ。部長もなんですか!」
と言う。『あぁ、そうなんだよ』と言いながら豚カツ定食を机に置く。すると部長が
「ほんとに、困っちゃてさ~、なんでなんだろうね~」
と言った。
「ほほう。それはあれだ。夢に巣食う鬼のせいだろうな」
突然琥珀川が話に混ざってきて見晴は驚く。
「わぁ!琥珀川」
と言うと桃香に呼ばれ、見晴は冷や汗をかく。『やばい。普通に琥珀川にはなしかけてしもた』と思う。
「な・・・・・・何?桃香」
と言うと桃香が琥珀川の方を指差して言う
「見晴先輩。あの平安貴族みたいな人、誰?」
その時見晴は安堵した。『良かった~見えてた』と。
「えぇっとね、桃香。この人は琥珀川天流って言って、神様で・・・・・・なんかよくわかんないけど・・・・・・私の守護神的な感じの人」
と見晴が言うと桃香が『えぇ!いいですね~』と言われたが実際何も良くないと思った。
琥珀川が見晴の服をちょんちょんと引っ張り言う。
「見晴、俺もなにか食べたい。ここには何があるのだ?」
「へぇ?あ~、んーとねー、いろいろあるからこっちおいで」
と見晴が言い琥珀川を食堂の注文窓口の方に連れて行く。結局琥珀川が注文したのはラーメンだった。
「それで、琥珀川。桃香と部長が悪夢を見る原因の夢に巣食う鬼ってなんなの?」
と美晴が言うと琥珀川は美晴達の方を向き説明する。
「うむ、夢に巣食う鬼というのはな、簡単に言うと人の夢に入り込みその人が本来見るはずの夢を食べその代わりに悪夢を見せると言う鬼だ」
「なんだ、それだけなんですね」
と桃香が言うと琥珀川は桃香の方を見て
「と思うだろう。だがな、この夢に巣食う鬼は人を殺すことだってある。」
殺すと言う琥珀川の言葉に美晴達は箸を持つ手が止まる。すると桃香が
「えっ……琥珀川さん、嘘ですよね。殺すなんて」
と言う。それに対して琥珀川は
「いや、嘘では無い。実際に夢に巣食う鬼は人を殺してそれを食うと言う話がある」
そして更に琥珀川は続ける
「殺し方は単純だ。鬼が悪夢を見せ、その悪夢に耐えられなくなった人は自殺する。自殺であるから鬼が殺したとは言い難いが自殺をする動機となった悪夢を見せているのがその鬼であるため、その鬼が殺していると同じだ。」
琥珀川の説明を聞いて美晴達は一気に血の気が引く。すると桃香がうるうるとしながら
「えぇー!いやです。私死んじゃうんですか。そんなのやだー!琥珀川さん、助けてくださいよ~。」
と叫ぶ。それに対して琥珀川は
「その事については美晴に頼め」
と言ってきた。
「えっ、おい琥珀川、なんで私に」
と美晴が言うと
「なんだ忘れたか。お前の責務は人ならざる者が起こした怪異を解決するのを俺の代わりにやるという事だぞ」
と言ってきた。
『はぁ』と美晴がため息を吐く、そして何やら二人分の視線を感じるのでその方向を見ると桃香と部長が美晴のことをうるうるとした目で見てくる。それに耐えかねた美晴がまたため息を吐きながら
「分かりましたよ、桃香、部長。あなた達に起こる怪奇、私が解決してあげますよ。」
と言うと桃香と部長は『美晴様~ありがたやありがたやー』と言って美晴のことを拝んできた。
「ただし、報酬はたっぷり頂きますよ~」
と言うと桃香達はまたうるうるした目で美晴のことを見てきた。そして話し合いの末、『自分達の命を守ってやるのだから報酬ぐらい下さい』という美晴の発言で、この件が解決したら桃香と部長が報酬金を支払うという事に決まった。
「ただいま~、と言っても誰もいないか」
と言うと優馬と桜狐がひょこっと顔を出して
「お帰りなさい、美晴さん」
と言う。
「えっ、なんで優馬がここにいるん」
と美晴が言うと優馬は困った顔をして
「やだな~美晴さん。『どうせこの家に一人じゃ寂しいし、優馬が良いならこの家で一緒に住まへんか』と言ってきたのは誰ですか」
と言った。そこで美晴は思い出した。『そうだ、私が優馬のこと誘ったんだった』と。
ちなみに、美晴の家はもともとは美晴の祖母の家だ。そして美晴の祖母は大家族であり、美晴が受け継いだ家は美晴一人住むには大きすぎる家なのである。だから優馬をこの家に誘ったのだ。まぁ結局、優馬が住んでもまだまだ部屋の空きはあるのだが。
「それで、その夢に巣食う鬼を美晴さんが退治することになったんですね」
美晴の話を聞いていた優馬が言う。
「そーなんだよー。でもさー、私生身の人間、鬼なんか相手にできると思う?無理だよねー」
と優馬に愚痴をこぼす。
「うーん、豆でも撒いたらどうですか?」
「豆ぇ?でも豆って本当に鬼に効果あるの?」
という会話を交わしながら美晴はひらめく『そうだ、琥珀川に聞いてみよう。ダメなら琥珀川の式達にも聞いた方がいい』と。
「と、言うことで琥珀川、鬼について教えて!」
と美晴が言うと琥珀川は呆れたという顔をしながら教えてくれた。
「まずな美晴。鬼というのはどういう物か分かるか?」
その問いに美晴は『知らない。だからあなたに聞いている』と返した。
「そうか。まずそこから説明が必要か。おい優馬、お前も聞いておけ」
と言い、琥珀川の説明が始まった。
「そもそも鬼というのはな、簡単に言えば妬みや怨み、悲しみや憎悪などと言った陰の感情が妖になったのを鬼と言うのだ。そして、言い換えれば鬼を生み出すためにはさっき言った陰の感情があれば鬼は生み出せるし、人を鬼に変えることだって出来る。」
そして更に琥珀川は続ける。
「そして、鬼を退治する為には二つの方法がある。一つ目は鬼を殺す事、人型の鬼であれば急所は人間と同じだ。ただし、人型の鬼であればだ。二つ目はタカツキの者にその鬼を保護してもらう事だ。タカツキの者と言うのはタカツキ家の人々のことを指す。タカツキ家は諸説ありだが奈良時代から鬼の監視と保護をしていたという説がある。まぁ、大体はタカツキの者に保護してもらうのが手っ取り早い」
と説明した。
「どうだ。美晴。これで満足か」
「うん、大体は。じゃあさ、鬼をわざと呼び寄せたり、召喚する方法ってあるの?」
と言う美晴の問い掛けから琥珀川の説明はまだまだ続くのであった。
それから三日後、鬼退治をする日がやって来た。
琥珀川からあらかじめ聞いておいた鬼を呼び寄せる方法はこうだ。一つ目、呼び寄せたい鬼の姿、又は名前を紙などに書く事。二つ目は、黄昏時か丑三つ時に一つ目で書いた紙を持っていること。そして三つ目が、その紙を鬼門の方向に置き『鬼よ来い』と念じる事。というとてもシンプルな物だった。
「じゃあ、やるよ。」
美晴が言い、鬼の名前が書いてある紙を鬼門の方向に置き念じる。時刻は黄昏時。そして何かあるといけないからという理由で屋外で、琥珀川と琥珀川の式達も一緒に、という事になった。ちなみ、桃香と部長は琥珀川が引いた結界の中で美晴達の様子を見ている。ちなみのちなみに桜狐は美晴の家で留守番だ。
「来たぞ、鬼だ」
琥珀川の声が聞こえた。美晴が目を開けるとそこには、ぼろぼろに破れた巫女服を着てボサボサの長い髪の痩せこけ、額に角を二本生やした鬼がいた。
「鬼女、ですね」
添が呟く。そしてその鬼が一歩足を踏み出した時、鬼がいる地面が青白く光った。
「うぎぃ」
鬼が苦しむ声が聞こえる。そしてその鬼が段々と大きくなっていく事に気がついた。
「どうやら相当力の強い鬼のようだな」
白蘭が言う
「琥珀川!どうしたらいい!」
美晴が琥珀川に尋ねる。
「塩を撒け!その鬼に向かって!そして塩を撒いている時は『祓え給え、清め給え』と叫べ!あと優馬、お前は豆を撒け!」
と言った。そして、美晴と優馬はその通りに豆と塩を撒いた、が効かない。効いている様子がないのだ。苦しむ素振りも見せなければ嫌がる素振りも見せない。その鬼はただただ結界から逃れようとして唸りながら身体を大きく肥大化させているようにしか見えなかった。『やっぱり鬼に豆なんて効かないのか』と優馬は思う。すると美晴が
「諦めないで!優馬!」
と叫んだ。
「コンナモノ……キカナイゾ」
鬼が言い|咆哮≪ほうこう≫を発する。そしてその咆哮を鬼が発した瞬間、鬼の動きを封じていた結界が破れた。
「クソ、結界が破れた!」
琥珀川が言う。
「どうするの琥珀川!」
美晴が叫ぶ。
「塩と豆を撒き続けろ。目に見える反応がないだけで確実に鬼には効いているはずだ」
ここで美晴は気付いてしまった。塩がもう無い。あと少ししか無いのだ。『やばい。どうする』そんな事を考えていると優馬が叫んだ。
「琥珀川さん!豆がもう、無い!」
これに便乗して美晴も訴える。
「琥珀川!私ももう残り少なくなってきたんだけど!」
そして琥珀川から帰ってきた答えは
「じゃあいい。俺の後ろに回れ」
だった。
『後ろに回れって、一体何をする気』と思いながらも美晴と優馬は琥珀川の後ろに回った。
「華、はやりダメだった。前に言ったとうりだ、出来るか?」
どうやら琥珀川はあらかじめこうなる事を予想して華に何か伝えておいたらしい。
「はい。出来ます。琥珀川様」
華が言う。それを聞いた琥珀川華に『よし、では行ってこい』と言って華をこの場から離脱させる。
「添。いくぞ。」
と言って琥珀川が添を呼び寄せる。そして添が琥珀川の隣りに並んだのを確認すると琥珀川と添は同時に鬼に向かって走り出した。『一体何をする気なんだ』美晴はそう思った。いや、優馬や桃香、部長もそう思っていただろう。
あれっと美晴が気付く、琥珀川が今持っているのは日本刀だ。だが、一体いつ日本刀なんて持ってきたのだろうか。この鬼退治における琥珀川の役目は鬼の結界と桃香と部長の周りに張ってある結界の管理、琥珀川は今まで笏を持っていたはずだ。などと考えていると白蘭が妙にのんびりとした口調で言った。
「あれはな、笏が剣に変わったのだ。」
『笏が剣に、どういうことだ。』と思っていると
「琥珀川様が持っている笏や扇子などは皆、時には武器に変わるのだ。琥珀川様いわく、使い勝手が良いらしい」
と、白蘭が教えてくれた。
「そんなことより、琥珀川と添に加勢しなくて良いの?」
と言うと白蘭は『いいんだ。多分な』と言って笑みを浮かべた。
「そんなことよりあれを見よ」
と言って白蘭が指差す方向を見ると琥珀川と添が今にも鬼に斬りかかろうとしていた。『やった。これで終わる』と思ったのも束の間、鬼の後ろ側からどんどん辺りが暗くなっていった。
「なに」
鈴と白蘭がほぼ同時に警戒する。暗がりが美晴達の辺りまで来て分かった。これはただ暗くなってるんじゃ無い。闇に侵食されているんだ、と。その時、
「美晴せんぱーい」
桃香の声が聞こえた。
その時美晴は直感で感じた。『ダメだ。桃香をこの闇の中に入れてはいけない』と。
「桃香来ないで!」
美晴が叫ぶ。だが桃香の足は止まらない。
「人の子よ!こちらへくるで無い!」
鈴も叫んだ……が遅かった。桃香が優馬辺りまで来た時、闇が美晴達を包み込んだ。もちろん、優馬と桃香もだ。
「グヘヘへへ」
気持ち悪い声で鬼が笑う。
「ハイッタ、ハイッタ。ヤミノナカ。モウニゲレナイ」
そう鬼が言うと鬼が一気に巨大化し、人間の姿を剥ぎ完全なる鬼の姿へと変わった。
「クソ、人型のうちに討伐出来なかった」
美晴達の元へ戻ってきた琥珀川が言った。
「おい、アレ持ってるか?」
「うん。まだ持ってるよ」
アレというのは琥珀川が鬼退治の前に『自分のことを鬼が狙ってきたら、どこかに貼れ』と言った。五芒星の真ん中に名前が書いてある身代わり紙の事である。
「私達が鬼を誘き寄せる。だからお前らは、鬼の攻撃を避ける事を第一に考えろ」
琥珀川が言った。
そこからは鬼と琥珀川達の攻防戦が始まった。正直言ってとても疲れる。
「華はまだ来ないのか」
琥珀川が言う。
「ねぇ!琥珀川。これいつまで続くの!もう疲れたんやけど」
その瞬間、鬼が美晴に狙いを定める。鬼の腕が美晴に向かう。
「美晴さん!危ない!」
優馬が叫ぶ。鬼が美晴の頭を突き刺した瞬間、美晴の体が光りだす。光りが収まって鬼の手が突き刺していたのは木だった。
「私がどうかした?」
振り向くと美晴がいた。その顔には『やってやったぜ』と言う顔が浮かんでいた。
「えぇっと、この美晴さんは本物ですか?」
と優馬が言うと美晴は苦笑して
「なに言ってるのよ。こっちの美晴は本物やで」
と言った。
「だれか~助けてください~」
桃香の声が聞こえる。桃香の方を振り向くと桃香が鬼に追われていた。
「桃香!」
美晴が叫ぶ。桃香に身代わり紙は無い。
「人の子よ。こちらへ来い」
鈴が言う。桃香はそれに従い鈴の方へ行こうとしたが、途中で転んでしまった。
「オマエ、シネ、シネ」
鬼が言い腕を振りかざす。
『やばい死ぬ』と思って桃香は反射的に目を瞑る。その瞬間、
「ウギャー」
鬼が叫んだ。桃香が目を開けるとそこにはお腹に古ぼけた鈴がついている鬼がいた。
「琥珀川様ー。タカツキ者、呼んできたよー」
声がする方向に目をやるとそこには華ともう二人いた。
「お父さん!蓮!」
桃香が言う。
そう、タカツキの者というのは漢字で書くと『高月』の者となる。すなわち、桃香の一族は鬼の監視と保護をしているのだ。
「桃香。今まで我ら一族の使命をことごとく破ってきたお前だが、どうだ、やる気になってくれたか。鬼の保護と監視」
桃香のお父さんらしき人が言った。それに対して桃香は涙目になりながら
「やる。やりますお父様」
と言った。
美晴達を包み込みこんでいた闇が薄くなって、町の風景が見えてきた。
「正弘よ。どうだ、この辺にしてやったらどうなんだ。さすがに桃香がかわいそうだ」
琥珀川が言う。アレっと美晴は思う。『その言い方だと最初から計画されていた件のような気がする』と。
「ちょ、ちょっと待ってよ!琥珀川さん。その言い方だとなんか前からそう計画されていたような感じの言い方だったけど、一体なんなんですか?」
桃香が言う。すると、桃香の弟である蓮が
「これはな、お姉ちゃんをきちんとした高月家の一員で、そして次期当主としての自覚と責任を負わせる為に俺とお父さんとで計画した名付けて『お姉ちゃん矯正作戦』やねん。お父さんが俺の元に来て『桃香がきちんと高月家の次期当主としての自覚を全然持ってくれない』って相談しにきたからな。お姉ちゃん、これに懲りたらきちんと高月家の一員である事の自覚と次期当主になる為に鬼の操る稽古をきちんと受ける事。なんも仕事やめてこっちに専念しろとかゆーとるわけちゃうんやからお姉ちゃんでもできるやろ」
さらに蓮は続ける。
「まぁ、もうこの作戦は終わりや。なんか知らんけど、お姉ちゃんの会社の部長はんとべっぴんな解決役のねーちゃんと琥珀川様巻き込んだらなんかわしらの方が申し訳なくなってきたわ」
と言った。
なんか優馬が忘れ去られてる気がするがあえて水を刺さないようにしてあげた。
解決役とは美晴がやっている人ならざる者が引き起こした怪異を解決するという役目の名前だ。
「なんや。そういうことか」
と美晴が呟く。今は部長のところへ向かっている。どうやら部長は鬼の咆哮を聞いて腰を抜かしてベンチで休んでいるらしい。
「部長、部長ー」
美晴が呼びかける。起きた部長が
「んん、寝ていたのか。はっ、どうなった鬼退治は!」
と聞いてきたのでこれまでの経緯を説明した。
それを聞いた部長は
「なんだ、そういうことか。それにしても桃香の家がそんな一族だったなんて……あっ、今のは悪い意味ではなくてだな――」
「部長さん、良いんですよ。今後とも、桃香をよろしくお願いします。あぁ、そうだ、この事は口外は禁止でお願いします。我ら一族の活動に支障が出てしまう可能性があるので。美晴さんと優馬さんもそれでお願いしますね」
桃香のお父さんが言った。
「そうだ、部長、桃香」
美晴が言う。そして次の美晴の言葉に部長と桃香は冷や汗をかいた。
「忘れてませんよね。報酬のこと」
そして二人ほぼ同時に『ヴっ』と言った。
「やっぱり駄目か。払わなくて」
と部長が言うと美晴は容赦なく
「駄目です。きちんと報酬は支払ってもらいますよ」
と言った。
すると部長が美晴の後ろを見て驚いた顔をする。
「ゆっ、優馬さん!何故あなたがここに」
そんな事を部長は言った。
『えっ』と美晴は思う。『何故部長が優馬のことを知っているんだ』と。
「えっ、部長。優馬のこと知ってるんですか?ねぇ優馬。優馬って部長に会ったことあるの?」
そんな事を美晴が言うと部長が
「おい、美晴。優馬さんにそんな口の聞き方はやめなさい。いいかい美晴、桃香も覚えておきなさい。あなた達の目の前にいる優馬さんは我が社の大手取引先の社長さんだぞ」
と言う。
そんな事を聞いて『えっ……マジ。んじゃ私は取引先の社長と同居してるってこと』と美晴が思う。
「いや~部長さん。なんでって思うでしょ。俺は今美晴さんとー」
「ーわぁー!ストップストップダメ優馬、それ以上はダメ!」
美晴が優馬の話を遮る。
「こら!美晴!優馬さんに失礼だ。やめなさい」
美晴の行動を見て部長が叱る。
そんな様子を見て、琥珀川と添達は笑った。
番外<それはいつもの風景?>
美晴と優馬の京都デート⁉︎ in伏見稲荷大社周辺
『なんでこんなふうになったんだろう』美晴は電車に揺られながらそんなことばかり考えていた。
今美晴の隣にいるのは琥珀川ではなく優馬だ。『これじゃ、周りの人にカップルだと思われても仕方がないよな~』と美晴は思う。
「美晴さん?美晴さん!」
優馬に呼びかけられ、ふっと自分の世界から抜け出す。
「ふぇ、あぁ……えっっとなに、優馬」
と言うと優馬が困った顔をして
「なにじゃ無いですよ。ボーっとしないでください。で、今日はどこに連れてってくれるんですか?」
優馬が目をキラキラさせながら言う。
「今日はね、伏見稲荷大社周辺に行く。まぁ正確にはちょっと違うんだけど……そのへんだよ。そのへん」
と言う。そんな事を言いながらやはり美晴はなんでこうなったんだろうと思った。
今日はあの鬼退治が終わってから二日後の土曜日、実は昨日、優馬にこんな事を言われたのだ。『美晴さん、明日の土曜日なんか予定あります?無いなら京都案内という名のデートして下さい』と。
『いや……少しは本音を隠せよ』と思ったが、優馬は京都に来たばっかなので『まぁ、普通に京都案内だと思えば良いし』と思い、一応承諾したのだが――やっぱり断っておけばよかったと思った美晴であった。
「ほい、到着」
「どこですか。ここ」
美晴達が来たのはある寺院である。
「ここはね~、東福寺っていうお寺。ここは秋になると紅葉が綺麗でよく秋ごろに来るんだ~」
そんな事を優馬に説明する。
「じゃ、優馬。お参りしようか」
と言って優馬を仏殿の中に入れる。
「うわー。すげー」
優馬が目を見張る。そんな事をしていると美晴が
「でしょ。この本尊は十五メートル、両脇の像は七・五メートルあるらしいよ」
と言った。
「あと、ここには本坊庭園が、あるんだけど……見る?」
と美晴が言うと優馬は即決で『行きます』と答えた。
「凄い、すごく良いです美晴さん!」
「凄いでしょ~この砂紋。なんか海を表現してるらしいよ」
と優馬に説明する。美晴は本坊庭園の内、南庭の枯山水庭園に案内した。枯山水庭園では優馬は『凄い』しか言っていなかった。
「次はここ」
と言って美晴はある看板を指差す
「えぇっと、なになに~。寺田屋、えっ寺田屋!」
そう、次に美晴が連れてきたのは『池田屋事件』や『坂本龍馬襲撃事件』などの、明治維新の重要な舞台になった池田屋である。
「今ここはね。旅館兼史跡博物館になってて、梅の間には弾痕、竹の間の入り口柱には刀痕があるんだって。優馬は歴史好き?……やったら結構行きたかったんやないか」
と美晴が言う。
「いや~、幕末はやっぱりロマンありますねー」
池田屋から出た優馬はそんな事を言っていた。すると美晴が
「んじゃ、優馬。次が今日の最後、伏見稲荷大社に行って山登りと途中にあるお茶屋でお昼食べよ」
と言った。
「やっぱり迫力あるな~。伏見稲荷大社は」
優馬は伏見稲荷大社の楼門をくぐりそう言った。
「でしょ、じゃ優馬。お詣りしてお山登りするよ~」
と美晴が言った。この時は美晴達もこんなにお山登りが疲れるなんて思ってもいなかった。
「はぁはぁ……優馬、ここぉ……ここでお昼食べよう」
そう言って美晴は稲荷山の三の辻辺りにある三玉亭というお茶屋に案内する。
そして席について出された水を飲んで美晴が一言
「ぷはー、生き返る~。さて、優馬。なに頼む?」
「そもそもここは何がおすすめなんですか?」
と優馬に問われ美晴は『知らない。そこまで調べてない』と答えた。
「はぁ、まったく。少しは調べましょうよ」
「あぁ、案内されてる分際で良く言えるね~」
そんな事を言いながら美晴は窓から見える風景を眺めた。
「すいません」
優馬が店員の呼ぶ、『はーい』と言う声が聞こえる。美晴は『なんか聞いたことのある声だな』と思っていた。するとその店員が出てきて美晴の顔を見るなり一言
「はーいお待たせしました……えっ!美晴ちゃん!」
と言う。そして美晴もその店員の顔を見て一言
「えっ、高松さん。どうしてここに」
と言った。
そう、美晴とこの高松という店員は知人なのだ。優馬はそんなことも知らずキョトンとしている。
「え、どうしてここにって、それは……バイトよバイト」
「バイトゆーたって、あっ、千智は元気?」
千智とは、高松の娘で美晴の同級生だ。連絡先は知っているもののこの頃最近忙しくなかなか連絡出来ないでいたのだ。
「あぁ、千智ねぇ」
その表情は明らかに曇っていた。
「実はね……美晴ちゃん。この頃最近千智は引きこもりがちなんだよね。一様お医者さんからはうつ病で言われてん、働き過ぎとか会社でのストレスが原因だとかって言われたんやけど……」
その言葉に美晴は言葉を失った、『まさかあんなに元気だった千智が鬱とは』と。その時、
「えぇっと……注文していいですか?」
優馬が口を開く。そして美晴と高松は、はっと自我を取り戻す。
「あっ、ごめん。優馬。ないがしろにしちゃって」
「お客様、この度は大変申し訳ございません。では改めて、ご注文をお伺いします」
美晴達が謝罪する。
「んじゃ、いなり寿司とみたらし団子ください」
と優馬が言うと高松が
「はい。かしこまいりました。美晴ちゃんは?」
と聞いてきたので、優馬と同じ物を注文した。
「ねぇ、琥珀川、白蘭」
美晴が口を開く。
「朝からずっと気になってたんだけどさぁ。なんであんた達ずっと手握ってるのよ」
そう、実は琥珀川と白蘭は朝からずっと美晴達の後ろにいたのである。ずっと手を握って。
そうな事を言うと白蘭が
「あら、美晴さま、駄目ですか?手、握っちゃ」
と言ってきた。『いや……まぁ、駄目な訳ないけど……なんか腹立つ』と美晴が言う。そのうち注文した物が運ばれてくる。
「はい。いなり寿司とみたらし団子」
そんな事を言って運び終えると高松が美晴の事をニヤニヤ見てきた。美晴が『どうしたの』と聞くと高松は
「いや、ついに美晴ちゃんにも彼氏が出来たんだなって思うとなんか嬉しくて」
と言ってきた。美晴は慌てて
「違います。彼氏じゃありません。ただの同居人です」
と言った。――美晴はその言葉を言った瞬間、ひどく後悔した。『その言い方じゃあもっと大きな誤解を招く』と。
そんな事は置いといて、三玉亭のいなり寿司とみたらし団子は普通に美味しかった。
「美晴さん、彼氏とか出来た事ないんですね」
食べ終わってゆっくりしていると優馬がそんな事を聞いてきた。美晴はため息を吐き
「なに?優馬も言うの?あのね、言っておくけど彼氏は出来たことあるよ。何人も、ただ……あまり長続きしなかっただけ」
と言った。
「そうなんですね。美晴さん、こんなに美人なのに」
と優馬が言ってきたので美晴は恥ずかしくなった。
それから少しして、美晴達は三玉亭を出て、お山登りを再開したのであった。
どうも皆さん!箱天天音です~。私の初作品である『東美晴の怪奇録 第一巻 ~運命の出会い編~』を最後まで読んでいただきありがとうございます。
第一巻という事は人気のあるないに関わらず第二巻もいずれ公開しようと思っております。結構公開まで時間かかると思いますが、頑張りますのでよろしくお願いします。
さて、このお話は皆さんから見てどうだったでしょうか?『コイツ、文章下手だな~』とか思いましたか?アドバイスやお褒めの言葉などがあればどんどん感想の欄にお書きください。
最後になりますが、このお話を読んで、皆さんが有意義な時間になるように頑張ってこれから作品を作っていくつもりです。今後ともよろしくお願いします。