バカの行水
「……きろ…。…起きろ…。おい、起きろ~!お~い!起きてくれよぉぉぉ!」
ん…うるさいな…なんだよもぉ…。
「お…待て…今一瞬意識………、…き……お前…。あれ…また寝………?おい……ろ。二度…………」
はぁ、うるさい…。
「うる………………。起きろ!二…寝するな!お…!起きろ!おっよし、今聞こえてるな?意識あるよな?起きろよ?もう昼の12時だぞ。12時23分37秒だぞ。」
「……うるさいな。」
「よし、やっと声に出したな。起きろ!昼なんだよ!真昼間だ!」
「…まだ12時だろ?」
「まだぁ?まだ12時?もう12時の間違いだろ?遅起きすぎるだろガキか。早く行くぞ!お父さんお母さんを生き返らせてこの国を変えるんだろ?」
「………あぁ…。」
「あぁ…。じゃねぇよ、それだけは忘れんじゃねぇぞ?お前がこんな過去を抱えていながらも俺を命を投げ出す覚悟で助けてくれたことには感謝してるけどもだな…。お前の今の重大な目標だろうが!」
「僕…朝は……、朝は弱いのよ……。」
「朝じゃねぇ…もう昼だ……。12時25分34秒だ。」
「……起きた時が朝なのよ。」
「このガキがまったく…。」
「あ痛っ!」
なんでこいつはポカスカ殴ってくるのだろうか。
「お前がよく分からん事言うからだろうが。とりあえず飯食うぞ。」
飯……?そういえばさっきからいい匂いが…おぉ!。
焚いた火を囲むように石が積まれ、その上に鉄板代わりの平たい石が置かれていた。
その上で美味しそうな匂いを放っていたのは肉や魚、それに野菜やキノコだった。
「よくこんな美味しそうな物見つけてきたなぁ。それに栄養バランスとかも考えられてそうな。」
「あぁ、健康第一だぜ。」
「命第一でしょ。」
「……健康がダメだと命も危ういだろうがよ。」
「あぁ…。あぁ、いやいや。それより、これどんな食材使ってんの?このキノコとかも食べれるヤツなんだよな。」
「あぁ、そこは安心してくれ。俺の固有スキルで見たからな。」
「大靖の固有スキルそんなことも出来るんだ‼凄いな。」
「このキノコはミカラギってやつで、クチナマタタ目ミキラ科ミカラギ属のキノコだな。この肉はハイデルビン三の肉でこれが柔らかくてジューシーなんだわ。そいでこの魚はギガラって暖海性の魚でな、野菜はニクルサとミツルタママってやつだ。そこの山で採ってきた。」
「へ~……。全部聞いたことねぇなぁ。」
「あぁ、俺も何日もこの付近を放浪して野宿してたんだが、この周りの風景は見たこともないしこの生き物達も初めて見たんだよな。それに、ちょっと川を下ったら海にたどり着くのよ。」
「へえ………。ん?はぁ?海?なんで?」
「あぁ、俺も初めはびっくりしたよ。あの川を流されて海の近くまで流されてきたとしても、あの橋から海は距離が長すぎる。途中で引っかかることがなかったとしても低体温症や溺死は免れないだろう。それに俺らが住む国、オルセデス大帝国は海があるところに王都を作り、そこから発展していったと言われている。川を下っていって海には着くのに王都に着かないのはおかしいんだ。」
「だよなだよな。」
僕でもこの国の成り立ちくらいは分かる、常識だ。
「それにこの生き物達の原産国を調べたんだよ…固有スキルでな。」
『赤裸々』だったっけ、そんな産地とかまでも分かるんだ、ほんと凄いな。
「あぁ、そんな褒めるなよ…照れるだろ。それでだな、こいつらの産地なんだがな。」
「まさか…オルセデス大帝国じゃなかったのか?」
「あぁ、テルミリアって所だったんだ。」
「聞いたことねぇな、近隣国にもそんな場所は無いよな?」
「それどころか俺らの世界にそんな国は存在してない。過去にもな。」
ということは…つまり?どういう事なんだ?訳分かんねぇな。僕らは今どこにいるって事になるんだ?あぁぁ分かんなくなってきましたよこれは。
「まぁ落ち着け。とりあえず飯でも食いながら話そう。焦げちまう。」
「あぁぁぁぁ……。うん、そうしようか。」
僕達はとりあえず大靖の作った料理を食べることにした。
大靖の話ではハイデルビン三ってやつは馬に似たフォルムをしてたらしいけど、味は豚に似てジューシーでそいでもってしっかりとした触感、しっかりとしてるのに口に入れるととろけるような感覚、それにこの香りは…このミツルタママってやつなのかな?控えめに言って超最高。
ギガラってやつは臭みがあったらしいけど、このミツルタママってやつが結構香りが強くてその臭みもなくなったらしい、そして味が最高!生きててよかった!。
「喜んでもらえて何よりだわ。それにしても美っ味いなぁ!今まで食った中で一番かもしんねぇな。」
「あぁ、食材の味が塩味に負けてないよな。そんでもって個々の味の主張が強すぎず弱すぎずちょうどいい塩梅を保ってて…。」
「栄養バランスを考えてこの食材を選んだのにまさかここまで味が良くなるとはねぇ。俺もびっくりしたわ。」
栄養バランス考えてくれてたんだ、お母さんみたいだな。
「お母さん言うな。」
「というか大靖、塩なんてもってたんだな。」
「いや、海水から塩を取ったんだよ。」
「あなる……ほどね。」
「まぁ、今回は殴らないでおいてやるよ。」
「あぁよかった。」
「さてさて、それでここがどこかっていう話なんだが。」
あぁ、そういえばその話が解決してなかったな。
ご飯がおいしすぎて忘れちゃってたな。
「あ~まぁ美味かったな。それで、俺の仮説が正しければ、というか100%これが原因だと思うが、これはお前の固有スキルが原因だと思われる。」
「えっ?『転生』?俺ら転生してたの!?マジで!?」
「お、おう、そうとしか考えられねぇな。これが転生と言えるのか詳しくは分かんねぇんだが。そいでだな、お前、なんか岸にたどり着きたいって思ったりしなかったか?」
「あぁ…ん~…確かにあの時薄れゆく意識の中で岸にたどり着きたいって思ったかも。」
「まぁ溺れかけてたらそうなるよな。お前の固有スキルは昨日見たときは“行きたいところを考えることで転生する”って内容だったが、もっと詳しく見てみたら“異世界にあるその時行きたいと熱望している場所と同じ条件の場所に自由自在に転生する。他人に触れながら転生するとその人も一緒に転生する。”って感じだった。俺も頭が混乱してて固有スキルの奥深くの能力内容までは見れなかったんだが、お前が溺死の淵に立たされた時に岸に行きたいと思ったことで異世界にある同じ川岸という条件の場所に転生したってわけなんじゃねぇかな。」
「ほぉ~、そういや確かに前も森に逃げなきゃって思ってたらどっかの森にいたなぁ。そのあと普通に家に行きたいって思ったら家に戻ったから、普通に帰ろうと思えば簡単に元の世界に帰れるのかな?」
「あぁ、そうだろうな。でもその時俺に触れてなかったら俺はお前がまたこの世界に転生してくるまでこの世界に取り残され……待て待て!」
元の世界に戻りたい!
「ゴボゴボ…ゴボボ!?」
突如辺りが水に包まれた。
やばい…とりあえず水面に……。
「ぷはぁ!はぁはぁ……なんで水中に…。」
「ぷはっ!はぁ…それはお前が……はぁ…元の世界のどこに転生したいかを…はぁはぁ…はっきり考えなかったからだろうな…はぁ…。とりあえず岸まで泳ぐぞ。」
「はぁ……ゲホッ…はぁはぁ…うん…。」
なんとか僕達は岸に泳ぎ着いた。
突然の出来事だったけど、なんとか泳ぎ切れた。
「はぁ…それで…さっきのはどういう事なの?大靖になら分かるんじゃないの?」
「ふぅ…それはな…お前が元の世界に戻りたいって思った時に…ゲホッ…詳しい場所を考えなかったせいで…んんっ…転生した所と同じ場所に転生したってことだな…はぁ…。それよりも…くふっ…俺の話を最後まで聞いてから元の世界に転生しやがれ……ふぅっ…もしあの時俺の反応が遅れてたら、俺はあの場所に一生取り残されてたかもしれねぇんだぞ?。今回はお前が近くにいたからすぐ手を伸ばして触れれたけどよぉ。あと10㎝遠かったら吾置き去りぞ?」
「いや…ごめんよ。」
「はぁ…まぁ、今回ばかりは許してやるよ。次からでいいから気を付けてくれよ。頼んだぞ。」
「うん、分かった。」
「お前…本当に分かってるのか?」
正直言うとんんっ、とかふぅっ、とかが気になって集中できなかったんだよな…、まぁ黙っとこう。
「言わなければ分からないは俺には通用しないんだぞ。」
そうだった、考えてることが分かるってだるいな。
「だるがるなよ。それによぉ、俺も一人は寂しいんだから。それに旅の仲間なんだしちゃんと連れ帰ってくれよ。」
「え?寂しいの?」
「あ……。あぁもぉ!そうだよ一人はやっぱり寂しいんだよ!橋に座ってた時も寂しかったよ!お前が通りかかってくれて良かったわほんと。」
「へぇ~一匹狼かと思ってたら寂しいんだ~。」
「ちっ…くっそ~……、というかそれよりも…火に当たろうぜ、寒い。」
「あぁ、確かにね。服も濡れてるしね。」
「それと…これからよろしくな陸斗。」
改まってそんなことを言われるとちょっと恥ずかしいな、でもこれから一緒に旅に出る仲間なわけだしな。
「おう!よろしくな大靖!」