旅は決意世は奈落
目が覚めると僕は森の中にいた。
しかも結構森の奥深くにいるようだ、薄暗くて周りは人の手の行き届いていない無為自然な状態の木々が生い茂っている。
無為自然ってたしか人の手が加えられていないありのままの世界みたいな意味を持っていたな…人の手の行き届いていない無為自然な状態だと人の手が行き届いていないっていうことを2回説明しちゃってるのか…日本語って難しいな…。
いやいやそんなことを考えてる場合じゃない。
僕はなんで森の奥深くに…村のすぐ近くの森とは違う…あの森は林業が盛んなヒョゴ村の伐採場であり植林が多い、完全に手が行き届いている、僕の記憶ではこんな場所は無かったはずだ。
しかも森はモンスターが多くて子供にはまだ危険だから来る時は大抵親と一緒…………
あぁそうだ…僕の親は殺されたんだった…
お母さんが殺されたかどうかは分からないけど…スキル至上主義の世界で無能な固有スキルを持つ奴を庇ったんだ…処刑は免れない…
お母さんの固有スキルは『念動力』だ、でもあの田中とかいう野郎の前には無力だろう…
でも…死んだ?僕の両親が死んだ…?いまだに実感が湧いてこない…
お父さんは確実に殺されているだろう…ヒョゴ村にはまだ治療施設が整っていない…あの傷を…腕が貫通したあの傷を治せる者は僕の村にはいないんだ…
僕はそんなことばかり考えた、考えれば考えるほど現実を受け止めきれずこれは夢ではないかとも思った。
はやく夢…冷めないかな……戻りたい…あの場所へ…僕が生まれ育ったあの村へ…両親が暖かく接してくれた当たり前のあるあの世界へ……。
「いたか?」
「いや、見当たらない。」
「くそっ、あのガキどこへ行きやがった。」
「やはり固有スキルを使いやがったか。」
「田中君、山下君、もういいです、時間の無駄です、帰りましょう。」
「いいんですか使えない固有スキル持ちを見逃して、国に盾突くことになりますよ。」
「いいんですよ、彼のステータスは12歳の平均よりやや上ですが、覚えている魔法は無い、固有スキルも異世界転生できるだけの能力です。それでは転生していたとしてもしていなかったとしてもそこらへんで野垂れ死ぬのがオチですよ。」
「しかし…」
「私の記憶ではこのステータス量で魔法も使えない今まで親に守られて育ってきた世の中の怖さを知らないガキが親もいない、誰も守ってくれない野に放たれて生き残った事例はありませんが。」
「…口答えして申し訳ありません判断長、行きましょう。」
「うむ、そうですね、後片付けは任せましたよ高橋君。」
「しかと承りました。」
「それでは。」
あいつらの声が聞こえる…ここは…僕の家か…。
いや、僕の家?やっぱりさっき森にいたのは夢?でもあいつらがいるってことは…そうだ!お父さんお母さん!
僕は窓から外を見た。
外には判定員、高橋さんとその足元に二つの多きな膨らんだ布が……。
その瞬間僕の体は勝手に外に飛び出していた。
高橋さんが驚いた顔をしていたがそんなことはお構いなしに僕はお父さんとお母さんのもとに駆け寄った。
「お父さんお母さん!僕だよ!ねえ聞いてる?起きてよお母さん!お父さん!」
「ははは、驚いたな。まさか家にずっといたの?あそこは僕がきちんと調べたはずなんだけどな。それとも戻ってきたとかなの?」
高橋さんがなにか言っていたけど僕には今はそんなことはどうでもよかった。
「元の世界に戻ってきたりも出来るんだね、『認知』は実はそこらへんは曖昧だからなぁ、まさか転生した後自分の世界に戻ってきたりできるなんてね。まあ実際はただ隠れてただけかもしれないから憶測の話になっちゃうけど。」
今…『認知』は曖昧だって言った…?曖昧なくせに人の価値を決めたのか…?
「『認知』は『鑑定』より分かる情報が多いからって優遇されてるんだよね。能力の可能性は無限大だというのにね。」
「そんな…」
「ん?」
「そんな曖昧なことで僕の両親は殺されたのか?」
「あぁ、実際には君を庇ったから処刑されたんだけどね。」
「ふざけるな…そんなこと…あってたまるか。」
「でも、最高な話だとは思わない?」
「あ?」
「最高に面白くて、最高に狂ってる、最高な世界だと私は思うんだよね。」
「皮肉ですか?」
「あぁ、そうなるね。」
高橋さんは本来は一人称私なんだな。
「私は判定員長の職についてるけど、君みたいに処刑を免れた子は初めてなんだ。どうしようか、判断長に報告しないといけないかなのかなぁ…めんどくさいなぁ。」
高橋さんは目を瞑った。
「やめろ!」
僕はとっさに高橋さんを殴った。
高橋さんはバランスを崩して地面に倒れた、そんな強く殴ったつもりは無かったのに。
「殴ったるしてごめんなさい、大丈夫すか?」
「なんてね、冗談だよ……あれ?なんで倒れて…もしかして殴ったりした?」
…ん?確かに子供のパンチなんて高が知れてるけど…殴られて地面に倒れたのにそれに気づいていない?
「いえ、殴るなんてそんなことするわけないじゃないですか。」
「だよね、バランスがわるかったのかなぁ。」
もしかしてこの人…いや…でもそんなことあるわけが…『テレパシー』にそんなデメリットなんてあったんだ…。
「さて、どうしようか。一応君の思いを聞いておこうかな。」
「なんであなたは僕を殺さないんですか?国に盾突いていいんですか?」
「それが今君が一番聞きたい事かい?」
「……僕はこれからどうしたらいいでしょうか。」
「簡単なことだよ、ご両親のこと、固有スキルのこと、悔しいだろう、むかつくだろう…ならどうする?」
「復讐してやりたい…」
「いいね、乗ったよ。」
え?乗った?
「私は君を助けることはできない。でも希望を持たせることはできる。」
「希望って…?」
「君のご両親は死んだ。それは確かだ、でも死んだ生物を生き返らせることが出来る人がいる事も確かだ。」
「生き返るって…お父さんとお母さんも?」
「あぁ多分な。でもその人の場所は私もよく知らない。でも王都にいるってことは知ってる。あとは君次第だよ。」
「…つまり…。」
「あぁ、君は王都に行って死んだ両親を生き返らせてもらえるよう頼むんだ。ご両親のご遺体は僕が管理しておこう、知り合いに『状態保存』のスキルを持つ人を知ってる、頼んでおこう。」
『状態保存』…聞いたことないスキルだな…。
「ありがとうございます。」
「でも私が助けられるのはここまでだ。後はもう自分が1人でやるんだよ。」
私が助けられるのはここまでって…助けることはできないとか言っといて…結局は助けてくれてるんじゃん…。
「僕は…」
お父さんとお母さんは助かるかもしれない、これが確かな情報かは分からないけど信じるしかない、そして僕はこの世界を…この世界を許さない。
「僕は?」
「僕は…お父さんお母さんを生き返らせて、そして…この国を変える。スキル至上主義とかいう腐った制度を終わらせる!」
「いいね、さすがだ。それじゃあ私は行くね。ご両親の事は任せてよ。君の活躍を期待してるよ。」
高橋さんはそう言い残すと出張判定場に乗って去っていった。
正直こんな両親もいないクソみたいな世界はもう嫌だ、でもくよくよしたって仕方ない、行くしかない、やるしかないんだ。
そうして僕は旅に出ることを決意した。
待っててねお父さんお母さん。
僕はやり遂げるよ。