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後編

 男が刃物を突き出してきた。せっかく万里奈と両想いになれたのに。死ぬ――。


「隼人は殺させねぇよ!」

 突如、レジのカウンターを飛び越えて、派手な髪色の少女が強盗の腹を狙って横に蹴り飛ばした。人間の力じゃない……!? 吹き飛んだ男はポストにぶつかり、うめき声を上げて倒れた。

「もー、まりりんってば。油断するなって言ったじゃん」

「ご、ごめん……ちーちゃん。隼人が死ぬって思ったら……」

 少女はコンビニの制服を着た店員のようだが、派手な容姿とこの身のこなし。ただ者ではなさそうだ。

「ま、万里奈……この店員さんと友達なの?」

「えっ!? 隼人もちーちゃんのこと知ってるはずよ! 忘れちゃったの?」

「いやー。私の化粧濃いから分からんでしょ」

「でも、確かにどこかで見た顔のような……」

 多分、万里奈のクラスメイトで……。人見知りの万里奈が心を開く相手といえば。そういえば、中学校の卒業間近に病気で入院して病欠が続いた子がいたな……。

「もしかして……千尋?」

 その答えが正しかったようで二人はハイタッチをして盛り上がっている。

 強盗犯は気にしなくていいのか!?

 その考えを読んだかのように、千尋はにやりと悪巧みの顔になった。



 風景は屋上に変わっていた。自身が学生であることもあって、ここは学校の屋上ではないかと思えた。

「仕切り直しといこうか」

 さっきまで、千尋だった少女は千尋ではなくなっていた。と思うとしか言えることはない。

「初めまして、ハヤトという矮小なるヒトよ。君は鋭いな。ますます気に入ったよ。ああ、まだ喋らない方が君のためだ。死にたくはないだろう? マリナ。そうだよね? 彼を死なせたくはないよね?」

 見た目はどう見てもギャルを超えてヤンキーにしか見えない――。オレンジとグリーンのグラデーションになった髪色なんて、見ることは滅多にない。

 そんな少女に万里奈はひざまずいていた。壊れた人形のようにただひたすらうなずく。

 僕はどうすればいいんだ。コンビニからなんで屋上に瞬間移動してるんだ。ああ、肉まん。肉まん食べたい。バカな現実逃避だとは分かっている。


「やっぱり、君面白いね。黙れと言って黙ったのは君だけだよ。そして、我を恐れているわけでもない。チヒロはね君のことが好きだったんだよ。病気で入院したまま卒業することに腹を立てて、高校では不良になった。でも、君は決して態度を変えなかった。『元気になって良かった』その言葉にチヒロは救われたんだ」


 それは――おかしい。千尋とは今回が初対面のはずだ。


「それが契約条件だったからね。ハヤトが存在するパラレルワールドにマリナを案内する代わりに、ハヤトの記憶を改ざんしてマリナの恋を妨害する。素晴らしいだろう?」

「隼人、ごめん……。私は二人の人間を殺した人殺しなの……。一人目は隼人。二人目はこの世界の私……。この世界に私は二人もいらないの。隼人を殺す私なんて、いらない……千尋にも申し訳ないって思ってる……」


 僕は生まれて初めて底知れない恐怖を感じてゾクッとした。僕は叫ぶしかなかった。


「返してくれっ!! 万里奈を返してくれ! 千尋を返してくれ!! お願いだから……返して……くれ」

「嗚呼……喋ったな? なんてね、死ぬかと思った? 君はもう我の玩具だ。チヒロの体から出ていくよ。君の恋愛模様を覗くためにね。君のことが好きな女の子が後、何人いるかなあ。そして君は何度死にかけるんだろうね」


 僕の目の前にいる化け物はなんなんだろう。「Ahahahahaha」と形容しがたい鳴き声をあげ千尋の体から黒いオーラが溢れ掻き消えていく。意識をなくして倒れてきた千尋の体を受け止める。

「万里奈」

「ごめんなさい……ごめんなさい隼人。馬鹿なのはあたしだったみたい……」

「万里奈」

「隼人……?」

 千尋の体をコンクリートの床に寝かせて、万里奈の冷たい体を抱き締めた。

「大丈夫。僕がそばにいるよ。僕がそばにいるから」

「あたしには隼人だけなの……隼人がいないとダメなの……万里奈を殺してごめんなさい……」

「僕はずっと死ぬまで『万里奈』のそばにいるからね」

「うん。ありがと……あたしが隼人を守るからね……絶対、今度こそあんたを死なせない」

 やっと、いつもの万里奈に、万里奈以上に凛々しく成長したように思える。

「あのさー、盛り上がってるところ悪いんだけどさ。これ、どういうことか説明して貰える?」

「「あっ!!」」

 起き上がった千尋に見られてしまっていたみたいだ。


 どうやら、千尋はコンビニのバイトでレジを担当していたところから記憶が曖昧のようだ。客の要望通りのタバコを一生懸命探していたことは覚えているらしいが……。

「そこから、覚えてねぇんだわ……なんで学校の屋上に寝てたんだ?」

「それは僕にもちょっと……」

「そうね。あたしも分からないわ」

 化け物に連れてこられたとは言えないからな。案外、どうでもよかったようで千尋はいたずらっ子のようにニッと笑みを浮かべる。

「せっかくだから吸うわ」

「それはちょっとちーちゃん……」

 ズボンのポケットからタバコとライターを取り出し、喫煙しようとしている。

「だめだよ。千尋。タバコなんて」

「ふーん。隼人がチューしてくれたらタバコやめるぜ」

「えっ……千尋!?」

「ちょっと! ちーちゃん! 隼人はあたしのことが好きなのよ!」

 そういえば、千尋は僕のことが好きなんだっけ!?

「今どき、一夫一妻なんて時代遅れじゃん。私たちの力があれば法律を変えるなんてヨユーだろ?」

「悪用はしないって私たちで決めたじゃない! この魔術の力は隼人のためだけに使うのが決まりでしょ!!」

「へー、抜け駆けは禁止っていうルールは無視かよバカ女」

「な、な、なによ! バーカバーカ!! バカって言う方がバカなのよ!」


 色々気になることがあるので挙手。

「魔導書ってなんですか。『私たち』って何人いるんですか。魔術ってなんですか」

「チューしてくれたら教えてやってもいいぜ」

「ば、バカ隼人にはまだ早いわよ! バカ! 浮気したらぶっころすわよ!」


 本当にこの子たちは僕のことが好きなのか自信がなくなってきた。


「ねえ隼人。私たちは隼人のことが好きすぎてこの世界に集まったの。私たちはもうルールなんかには従わない。ルールが私たちに従うのよ」

「やっぱりルールとかクソだよなぁ。事故だからって、心臓が止まったからって、好きな男を諦められるわけねぇだろうが!!」



 彼女たちはいつも僕の想定外だ。僕の想像の斜め上を行く。僕はきっと全ての彼女たちを平等に愛さなければいけないんだろう。どうしてそこまで僕を愛してくれるのか分からない。知らないといけない。



 だから、僕は「彼女たち」の手を取って、デートをした。キスをした。それ以上のことをした。ルールを変えた。結婚をした。子供もできた。孫もできた。ただ、寿命のルールには従った。



 どうか僕の遺言を聞いて欲しい。

「みんな、僕のことを愛してくれてありがとう。僕もみんなのことを愛してるよ。僕が死んだら今度は僕の子供たちをよろしくね。えっと、死霊術はほどほどにね。人体実験絶対ダメ。邪神を同時に召喚しちゃダメだよ」

 心配事が多すぎて、死んでも安らかに眠れそうにないや。きっと僕の死体は魔術で永久保存されることになるだろう。僕そっくりの人形が大量生産されたり、僕を蘇生させる魔術を習得したり……妻たちならやりかねない。怖い恐いコワイ。


 もし君が、怪事件に巻き込まれたとして。それが僕の妻たちの仕業だったとしたら、僕が土下座で謝るよ。君には見えないかもしれないけどね。

 ありがとうございます。

 閲覧、ブックマーク、評価をしていただき誠にありがとうございます。


 ぶっちゃけ、なろうはログインしなくても小説が読めるので、ログインなさっている方は、小説家もしくは読み専の小説家候補の皆様だと思われます。

 最近はプロとアマチュアの境目が不明になりつつありますので、私は小説家で括ります。

 当作品のユニークユーザーが1600人を超えた証をスクショしました。本当にめちゃくちゃ嬉しかったです。


 皆さんのご好意が皆さんの励みになりますように。

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