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閑話. 魔物の異変と商人の窮地

思ったより遅れてしまいました。

すみません。

今回は土台作りを含めた閑話です。

作者が関西の出ではないので作中の関西弁もどきが正しくないと感じる部分もあるかと思いますが、生暖かく見守っていただけると幸いです。一応関西弁に似てるけどちがう言語という設定ですので。


 ◇◆◇◆◇◆◇


ー聖国北部に広がるバースジャップ大森林にてー


 一人の男が森の中で魔物の群れに囲まれていた。魔物達の足元には12もの人間の死体が転がっている。

 数分前まで『彼ら』だった『それら』は冒険者ギルドを通した正規の手続きをふみ、この森林内での活動において男、レン・リッチブラッドの護衛として『安全性を確保できる』と認定されたベテラン冒険者達だ。この森での活動において彼らが死ぬことなどありえない。……はずだった。この魔物達が通常だったならば……。

 明らかに普通の個体とは違う魔物達の姿に驚いている間にパーティーの要であるヒーラーが殺され、そこからは崩れるように冒険者達は殺されてしまった。

 この魔物達は豚の頭に太った人のような体、所謂『オーク』…のように見える。断定しきれないのは、その姿があまりに異質だからだ。

 群れの全員が、体長が普通のオークよりも一回りほど大きいのをふまえても腕があまりに巨大すぎる。腕は長すぎて地面に擦りそうなほどだ。体長の大きさを考えれば恐らく2メートル前後はあるのではないだろうか。

 その太さも、バカみたいに長い腕と均衡がとれているのを見るに普通のオークの二倍はあるだろう。

 また、普通のオークと違いその腕に詰まっているのは駄肉などではなく、戦闘に特化している、見るからに質も密度も桁違いに高い筋肉だ。

 それは脚も同様で、動きも普通の人間とは比べ物にならない程速い。

 普通のオークは頭が悪く、近くに落ちている武器を拾って振り回すことはあるが、振り回すだけで上手く扱えはしないため脅威ではないし、その様な個体自体稀だ。

 それがどうだ、このオークもどき共は20体以上いる群れの全員がその3メートル近い体長と同じぐらいの大きさの大剣を持っている。

 その暴力的なまでのリーチによる遠心力と圧倒的な筋力が生み出す破壊力は『ただの振り回し』を常人がどれだけ策や技を弄しても太刀打ちできない『災害』の域にまで押し上げている。

 オークに見えても決してオークではない。これはまさに『化け物』だ。


「ハァッ……ハアッ……最悪すぎるやろ……こんなヤバいバケモンがおるなんて聞いてへんぞボケェ……。」


 レンは恐怖を抑えるかのように悪態をつきながら、追い詰められた崖を背に生存が絶望的とは分かりながらも剣を構え魔物たちと向き合っていた。

 このオークもどき共は外見や強さはもちろんのこと、行動パターンもおかしい。普通魔物はこんな風に相手をを追い詰めたりせず、すぐに襲い掛かってくるはずなのだ。

 このオークもどき共は冒険者達を殺すときに楽しんでいるようだった。レンのこともすぐに殺さないのもレンをこうやって追い詰めた後に嬲り殺すつもりなのだろう。

 この魔物達が元からいたのか何かしらの要因で突然変異したのかは分からないが、どちらにせよ今のレンにとって悪夢のような状況に変わりない。


(どうする……。戦えば死ぬのは確実、なら逃げるか?この囲まれてる状態から?どうやって?考えろ。周りには二重のオークの壁。俺が使えるんは残りの魔力量的にも直線的な超光量の細い光で目をくらませるだけの初級魔法一発のみで、こいつら全員の目を一気に使えんようにはできひん。持ち物では一度も使ったことのない剣一本と非常時用に持ち歩いとる金貨数枚だけ。ほかは全部アイツらの向こうにある馬車の中か。)


 レンはオークもどき共に気を配りながらも必死で思考をめぐらす。しかしオークもどき共は一向に襲い掛かってくる様子はない。

 オークもどき共は、レンが矮小な人の身で何をするのか観察するかのように待っている。まるで人がアリを水の中に入れてその行動を観察するかのように。

 それはどれだけ策を講じようと自分たちが圧倒的強者であり、レンの生殺与奪を握っているという立場が覆らないことが分かっているが故の余裕なのだろう。


「……バケモン共が全員注目してくれるっちゅう理想だよりにはなるけどこの策しかないか。こんなことならガークでも引きずって連れてくるんやったな。」


 レンは覚悟ととるべき行動を決めると、己を奮い立たせるかのように親友の名を口にした。

 正常ではない判断能力で知恵を絞って考えついたのは苦し紛れで運だよりの一つの策。理想通りに事が運ぶ確率はとても低い。

 それでもレンは自分の力で生き抜こうと、その低すぎる確率へと手を伸ばす。それがレンの商人として、そして何より男としてのプライドだから。


「おい木偶の坊ども!そんなに見たいなら見せてやるからそのぶっさいくな目ぇかっぽじって自分らが舐め腐った人間さまの最後っ屁!よう見ぃや!」


 その言葉と共にレンは持っていた金貨を一つ残してすべて回転させながら空中に放った。

 オークもどき共の目はひとつ残らずその金貨に奪われている。


(ここまでは上々。でもこれで走り出したところでこいつらの二重の包囲は抜けられへん。)


 レンは計画の第一段階が成功したことを確認すると、油断せず迅速に次の行動に移る。


「……《発光》」


 放った金貨の一つに狙いを定めると下を見て小さい声で魔法を放つ。放たれた光は回転している金貨に当たり、反射を繰り返して暴れ回り、見ているものの目を射した。

 完全に金貨に目を奪われていたオークもどき共は一体残らず光を目に受けて苦しそうに目を抑えている。

 レンはそれを確認することなく一体のオークもどきに剣を投げると同時に反対方向に走り出した。

 剣を投げられたオークもどきは、その筋肉で剣は弾いたものの、唐突な衝撃と驚きで声を発した。

 まだ視力の戻らない他のオークもどき共は剣の音と唐突な仲間の声を受け、レンがそちらへ逃げたものと思いそちらへと走り出した。

 他に漏れずそちらへと急ぎ走り出した腹に傷痕のあるオークもどきの横を抜け、それとは逆方向へとレンは必死で逃げ、作戦の成功と生き抜いたという喜びを感じていた。


(何とかうまくいった!あとは街道まで逃げて残した金貨で馬を借りるだけや!ほんまに死ぬかと思った……よかっt


ーヒュッ


ーバギッ


 レンの喜びは一転、自分のすぐ横を通り抜けて木をへし折った岩によって恐怖へと変わった。

 振り返れば少し離れたところにオークもどきが一体、こちらに向かってくるのが見える。今の投擲は間違いなくこいつだ。

 外したところと少しフラフラしている所を見るに視力は完全には回復していないのだろう。

 なぜ一体だけ自分がこっちに逃げたことに気づいたのかというレンの疑問はそのオークもどきの姿を見た瞬間に解決した。

 そいつの腹には大きな傷痕があった。

 要するにレンが横を抜けた音に気付かれた、ということだろう。

 他のオークもどきが走る音で聞こえないと思ったが、甘かった。

 予想以上にこいつの聴力は優れていた。視力が奪われたことで敏感になったのかもしれない。

 だがそんなことはどうでもいい。撒いたはずのオークもどきが現れた。目が見づらい一体のみ、それでも万策尽きた今のレンを絶望させるには十分すぎるものだった。


(これはもうほんまにあかんな。ふらついて遅くなっとるこいつは俺と同じくらいのスピード。このまま俺が街道や町に出られてもこいつも出てきて他の人間が巻き添えになる。それだけは避けなあかん。)


 目の前に迫るオークもどきを前にレンは心を決めた。


「あーあ。俺もここで終わりか。結構短い人生やったな。親父、オカン、リオン、ガーク、ナナ、すまんな。幸せになってくれよ。」


 その言葉が大切な人たちに届くことはないと知りながら、両親と生まれたばかりの妹、そして親友と幼馴染であり許嫁の幸せを願う。

 オークもどきの大剣が振り上げられた。

 レンは覚悟を決め、目を閉じ、やってくるであろう死を待った。

 目を閉じたことで頬をつたった感覚で初めて自分が泣いていたことを自覚する。これも最期の涙かと思うと感慨深い。

 しかしいくら待ってもそれは訪れない。

 どうしたものかと目を開けたレンが目にしたのは大剣を振り上げたまま静止している、『首のない』オークもどきと、オークもどきの『首だけ』を持っている、自分と同じくらいの背丈の少年の姿だった。


「え?」


 レンがわけも分からないでいると、少年は振り返ってただ一言。


「えーっと、大丈夫?」


 この少年がオークもどきを倒したのだと遅れて気が付いたレンは、そんなに強いはずの少年が恐る恐るといった感じで自分に話しかけてきたのが面白く、緊張が解けたのも相まって恐怖など忘れて吹き出してしまった。


「プッ……ハハッ。アハハハハハハハハ!おう!おかげさんでな!助かったわ!ありがとう!俺はレン。一応商家で商いの見習いやっとる。よろしゅうな!」


 少年は少し怪訝そうな顔をしたが、すぐに微笑んで言った。


「大丈夫そうでよかったわ。俺は大輝。よろしく。」


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