第一章 part1 あの時を繰り返さないために
第一章 part1 あの時を繰り返さないために
夜は更けると昼間ほどの人の行き交う平穏で賑やかな町は、音一つ聞こえない静寂な町に変貌を遂げる。
今日は雨が降り雑音混じりのラジオが静かな町の片隅にある私の家中で響き渡る。 家は木造で1LDKとまではいかないが極めて一般的から見ると小さいが独り身の私にとって窮屈と感じた事はない。
明日この家を売り出立つ。先日まであった家具や
剣の手入れに使う小道具は、家を売り払うと同時に業者に次の息つく場所に届けてもらう次第だ。
読んでいた本を閉じ一息ついて、
「また引っ越しか、これで24回目・・・ついにはあそこに行くのか」
ラジオを止めようと停止ボタンに指を伸ばす。その時聞き慣れたくもない事件のニュースが機械仕掛けの音響部から漏れでて耳に届く。その事件の全容が鮮明と思い出せて怒りと憎しみという憎悪がこみ上げてくるのを感じた。普通なら止めているが今回は少しいつもと違った内容だった。私は伸ばした指をピタリと止め双眸を細めラジオに耳を傾けた。
「ザーザー(雑音)えートンブ監獄襲撃事件から、ちょうど10年とのことで~○○さ~ん信じられない事件でしたよね~?」
「そうですねートンブ監獄襲撃事件は一時期一世を風靡し現世で1の悲惨な事件でしたからねー容疑者たちは監獄の檻にいた囚人たちを逃がし今も10人が逃亡中、トンブにいた看囚を次々に殺した,,,本当に信じられない事件でした。」
「トンブ監獄といえば鉄壁の障壁で守られていて立ち入る事はもちろん抜け出すことすら不可能とも言われ、トンブに収監されて帰って来た人間おろか監獄に入れられた仲間を助けに行ったギルドのメンバー全員が帰って来なかったともいわれる通称地獄とも言われた場所ですからねー。そんな所で起こった襲撃事件えっとー容疑者は4人でしたっけ?しかも、当時容疑者らは10代前半らしく、そんな若さでこの強さ本当に信じられない。」
「それにー一体どうやってあのトンブ監獄を襲撃したんでしょうかね~看囚は英剣無祭の優勝ギルドだけがなれる天職で30人以上いたはずの看囚全員滅多切りにされるほどの実力の持ち主が4人いると考えると恐ろしいですよね。」
「事件以降世は彼らをトレイターと呼び、賞金首にもなっていますからね捕まえるあるいは殺害に至った暁には1億タールゲット出来るらしいですよ!」
「いやーいざ賞金首を狙おうと考えたとしても看囚を何人も倒せるほどの実力者を狙う人なんているんでしょうか(苦笑)。その前に首謀者らの顔が割れていない時点で、どうしようもないんですけどね。」
「いやわからないもんですよ。なんだってこのご時世では、異能と呼ばれる謎の能力を持った人間通称「能力者」が現れてきて、それが9年前の時点で100人中1人の確率で突如として能力が現れているという研究結果も出ていますからね。しかも異能は、自身の体力や生命力を代償に顕現させる事が出来ます。しっかし、世界中どこを探しても「能力者」ばかりですよ。街中で異能を使って職業をする方も頻繁に見かけます。
異能なんて夢物語やお伽噺話の中だけの話だと思っていたのに現実になるとは思いもしませんでしたねー。」
「たしかに、職業だけでなく各ギルドでも有能な能力者を募集している貼り紙を何度も目にします。」
「今じゃあ能力のもっていない者、通称「無能」
はギルドに入る事すら出来ないらしいですからねー。あっでも!24区は、無能ばかり集めているんでしたっけか!ワッハハハー!!」
「やはり異能を持っている事は圧倒的なアドバンテージになり力になります。英剣無祭でも自身の異能だけで優勝者したというケースもあるぐらいですから今ならトレイターの首をとるのも割りと簡単なのかもしれないですね!(笑)」
「確かにそうですね(笑)英剣無祭なのに能力者ばかりで昔のような剣使った参加者は段々と減っているらしいですからね。(苦笑)」
「英剣無祭なのに剣を使わないってどうゆう事ですか!(笑)」
「あっていうか、ちゃんと額にあります?」
「あるに決まってんだろ!変なこと聞くなって!ハッハハハハー!!!」
ブチッ!っと青く輝く透き通るような双眸を細め怒りのこもった指先で強く停止ボタンを押し、そのまま布団に入る。
今日で短い間だったが最後となるこの家での睡眠は昔の記憶が巡り恨みや憎しみが満ちるたびに目が覚め中々眠れず、カーテンのない窓から月の光線が差し込んでいて、その光を遮るように手の甲を頭の額に乗せ、また目を閉じる。一つ、嘆息をし発する。
「もう二度と・・」
っと喋るのを途中でやめた。今さら悔やんでも虚しくなるだけだと。頭の中で思い出すのは楽しく稽古したり遊んだりしていた父との思い出、そして父が目の前で殺され何も出来なかった自分の無力さに押し潰されそうになるのは毎日のことだ。今でも鮮明に覚えている当時看囚だった父や幼なじみ、よく私の遊びに付き合ってくれた父の同僚を殺したトレイターの冷たくそして紅黒く染まった瞳の双眸を、そしてその瞳の中の奥底にある黒く染まった闇を。中々慣れる事でもないし慣れたら慣れたで、昔の自分の無力さに目をつぶるような行為だともどかしい気持ちにもなったりしている。
1日たりともあの思い出を忘れた事はない。私は昔の無力な自分の罪滅ぼしのために父の仇を討つ事を心中に決めている。それは父にしてやれる弔いも兼ねている。
だけど、じゃあなぜ私は生きているのだろう?と時々疑問を抱く。私にはトレイターを切り抜けられるほどの力はないし、なにせ当時私は10歳だ。当時の記憶は曖昧で断片的にしか思い出せない程度だが、私を逃がしてくれた人がいる。看囚でもなければ父たちでもない、じゃあ誰が・・・そんな時スッと脳裏を過る。
紅く染まった瞳に顔には浴びた血が頬に何ヵ所付着しており疲弊しきったような表情しながらも前だけを見つめていたーいやさらにその先をー。暗闇の中で私を抱えて必死に短双剣を背負いながら走る青年のような姿を・・・。
「あの人は一体・・・」
目を閉じた。
就寝して2時間後にやっと睡眠が出来た。