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第一章 part11 ケイvsラディ

第一章 part11 ケイvsラディ


ケイとアキは「無能」ギルドが待っているギャラリー下へ戻ると、後ろにいるガイヤ達を置き去りにするようにサレーネが小走りに此方へ近づいて来る。


「アキちゃん!!」


「サレーネさん、アキをお願いします。自分すぐ行かないといけないんで。」


それを聞くと、サレーネはケイと反対側の脇に腕を回しアキを支える。

サレーネがアキを支えているのを確認した後、リングに向かう為、背を向けケイは歩き出す。


「え~もう行っちゃうのぉ~?わかった!頑張ってね!負けないでよぉ~アキやアリス達の仇討ってきてねっ!」


サレーネは可愛らしい笑顔で後ろ姿のケイに言う。

ケイは振り返りサレーネやアキに向けるように、右手で拳を作り親指を立てる。


「任しておいてください!」


そしてサレーネに笑みを返し、再び背を向け歩き出す。

すると、アキに呼び止められる。


「ケイ、ちょっと待ちなさい。」


振り向き、消費した体力が回復していないのかサレーネにもたれかかった状態のアキを見やる。


「ん?」


アキは頬を薄紅色に染め、恥ずかしそうにモゴモゴしながらも言う。


「えっと・・・その・・・あっあいつは強いわよ、私でも勝てなかったくらいだしね。だから・・・その・・・まっ負けたら承知しないわよ!?」


気持ちとプライドがごちゃ混ぜになり、ぐだぐだになりながらも言い切った。

アキから命令口調とは言え応援された事に驚き、ケイはたちまち笑顔を浮かべ一言。


「あぁ」


そう言うとケイはギャラリーの柵を飛び越え、リングへと向かった。

サレーネとアリスは踵を返すと、遅れてガイヤやアリス、カイトが駆け寄ってくる。


「アキ、大丈夫だったか?!」


ギルドのリーダーとしてなのか最初に声をかけたのはガイヤで、サレーネに支えられたアキの状態を見た後、心配そうな目を向け、強目な口調で言った。

サレーネに支えられたままのアキは、ガイヤだけでなくギルドの先輩方に頭を下げ目を瞑り、大きな声で先程の行動と心配をかけた事に関して謝意を示す。


「あっありがとうございます・・・。それとサレーネさん、ガイヤさん、カイトさん、アリスさんご心配をおかけして申し訳ございませんでした!!」


ガイヤはそれを聞くと安心したのか、口角を右に吊り上げアキの頭に右手を乗せる。


「まだまだガキのくせにでしゃばりやがって、まぁ大事に至らなくて良かったよ。それと今回みたいな事は、ぜってぇーするじゃねぇーぞ?」


ガイヤは頭から手を離し最後の部分だけ感情的に言う。

もっと強く怒鳴られると覚悟していたアキは目を開けガイヤの心の広さに感嘆を覚える。おもむろにアキは顔を上げ表情を緩くし、ガイヤに返すように笑みを浮かべる。


「・・・はい。」


ガイヤの左隣にいたカイトが腕を組みながらヤレヤレとした表情で、ガイヤ言葉を紡ぐように言う。


「まったくだな、自分の体調管理くらいは素直になれよ?それと、ケイには感謝しとけよ。あいつが助けに来なかったらどうなっていたか、言わなくてもわかるな?」


アキはうつむき、自分勝手な感情で行動してしまった過ちを思い出しながら口を開く。


「はい、助けてもらっていなければ、私は今頃亡き父や母の元へ旅立つ所でした。ケイには感謝しています・・・」


アキは開き直ったかのようにパッと顔を上げる。


「けっけど、やっぱり気に食わないです。ケイなんかに助けられた事が。」


火照った頬を膨らませ、むぅ~っと言いながらリングに向かうケイに視線を向ける。

それを見たギルドの先輩らは、ハッハハと苦笑を漏らす。

すると、ガイヤが切り替えるように言う。


「しっかし、あそこまでラディと拮抗した試合を出来る奴は、そうそういねぇぞ。どうだった?ラディは。」


アキは表情を作り直し、眉をひそめラディと対戦した第二試合の事を思い出しながら言う。


「はい、闘ってみてわかりましたが、あいつは私の想像の遥か上を行くほどの実力でした。仮に、体力が万全であったとしても、勝機があるとは思えません。特に最後の技は、受ける事はもちろん、避ける事さえ至難の技です。」


うんうん、と頷きながらガイヤは、アキの言葉を補足するように言う。


「あの技を完璧に止められた人間はいないとまで言われているほどだからなぁ。」


アリスが右隣にいるガイヤに向けるように言う。


「あれを目の前にした時あまりの迫力に足が竦んで足を動かそうと思っても動けなくなるのよ。」


7年前の『冥界驟雨』を受け重症を負った事を思い出がフラッシュバックし、アリスは眉間にシワを寄せる。

アキはアリスの言葉を肯定する。


「アリスさんの言う通りです。あのスピードに攻撃範囲全てが桁違いでした。踏み込んで走るという動作すら与えられない為、動く事が出来ないんです。」


「そうそう、まぁガイヤやカイトは使われる事なく負けてたからわからないかぁ~♪」


吹っ切れたように表情を戻しアリスは、ニヤリと笑顔を作り片方の眉毛を吊り上げ、ガイヤとカイトに目線を向けながら嫌味口調に言う。


「「ーーーなっ!。」」


ガイヤとカイトは言葉が詰まり、誰かに聞かれたくなかったのか口を開け焦ったような表情だった。

たちまちガイヤが慌てた様子でアリスに言う。


「おっおい!それは言わない約束だろぉ?!」


「そんな約束した覚えないはないのだけれど?」


ニヤついた笑みを崩さないアリスはガイヤが言った事を否定する。

サレーネとアキは二人の言い合いを見てハッハハ笑う。


「おっお前なぁ~後輩の前で言うんじゃねーよ。ギルドのリーダーとして、先輩としての威厳がなぁー。」


アリスがガイヤの言葉を被せるように口を開き、神妙な顔つきに変わる。


「はいはい、もういいわよ。にしても、やっぱりラディは強くなっていた。見ただけでわかるほど7年前より技の質も威力も上がっているのは確かだわ。」


予想はしていたが、やはり闘ってなくてもわかるほど、ラディは7年前より実力を上げていた。

それを聞いたサレーネは、リングへ上がる為の階段を登るケイに憂わしげな表情向け、少しの希望を持ちながら言う。


「ってなると、ケイに託すしかないんだね。勝てるかなぁケイ・・・」


心配そうなサレーネを見てカイトは、ふっと笑顔をケイに向ける。


「でも、あいつラディのあの技を前に臆せずアキを助けに行ったんだ。肝は人並み以上に据わってると言える。あいつならもしかしたらって事もあり得るかもな。」


「ケイ・・・死ぬんじゃないわよ。」


アキは憂心を抱きつつ、期待のこもった視線をケイに向けギャラリーの柵を左手で強く握りしめる。




リングへの階段を昇る途中ケイにはまだ、アキが触れていた体の部位になんとなくだが感触残っていた。

今はそんな事を考えている場合じゃないと、首を一度振り意識を戦闘モードに切り替え上がり切ると、ラディがぽけーっとした顔で槍をリングに突き刺し右膝を曲げ、右耳を小指でかきながら待っていた。

ラディの体全体を見て、ケイは頭の中で考える。

奴の技を目の前にしてわかったが、あそこまでの広範囲連続突きは見たことがない。

正直あの技を見て肝を冷したが、同時に自分の中に芽生えている戦闘心を燻られた気分だった。

五年ぶりに人との戦闘だ最初は慣れるまで時間が掛かるかもしれないが、全力で楽しもう。

これから始まる試合が楽しみなのか心臓鼓動が早くなり、全身の血流が騒ぎ出す。

ケイはラディとの距離を十五メートルほど離れた位置で足を止め、背中に吊ってある長剣の柄を右手で掴むと口を開く。


「悪い、待たせたな。」


口角を右に上げ右手の小指に付着した物をケイに向けふっと吹きかける。

槍をリングから引っこ抜き右肩に乗せる。


「さぁて来たか、さっさと始めようぜぇ。そういやお前、名は何だ?」


アキには名を聞いていなかった事を思い出し、ケイは言う。


「何故聞く必要があるんだ?」


「まぁ何だ、俺の技を完璧にかわした人間はお前で6人目だったからよぉ。一応名前は覚えておこうかなと思っただけだ。」


ケイに『冥界驟雨』回避されアキを救出された事を根に持っているわけではなく、ラディは感心した様子だった。

ラディの言った事を否定するかのように、ケイは目線をラディに離さないまま話す。


「あんたの技は止まっている相手に対して有効なんだろ?俺の場合走り出している状態だったからアキを助ける事が出来ただけだ。正直アキのような立ち止まっている状態から仕掛けられたら、避ける事は出来なかっただろうよ。」


「ほほぉ~う、俺の技をよく見て理解してんじゃねぇか。まぁ正直わかった所でほとんど意味ないがなぁ。」


笑みを崩さないまま眉を吊り上げ、ケイの洞察力に感心するも、理解した所で無意味だと主張する。

ケイはラディに向け笑みを浮かべ、長剣を柄から引き抜く。


「っていうか、割とその技躱されてるんだな。」


ケイの言葉を嫌味と捉えたのか、ラディは頭を下げ落ち込んだ様子を見せる。


「確かにそうかもなぁ・・・、けどなぁ~俺の技、完璧に受け止めた人間は誰一人としてっいない。それはあの『六武衆』でさえ、受け流せた奴はいないほどだからなぁ。」


ゆっくりと顔を上げながらラディは言うと、腰を落とし槍を右手で持ちつつ左足と左腕を前に出す。

ケイは聞いた事がないフレーズ『六武衆』が気になりラディに問いかけながら、右足を少し前出し両手で長剣を握り中段に構え戦闘体勢に入る。


「『六武衆』?一体何のーーー」


リング外でケイ達のちょうど間に立つ召使いらしき男が、ケイの言葉を遮るように大声で話始める。


「先程の試合はアキレミス選手のリタイアにより「ジェスター」ギルド アブロ・ラディ選手の勝利とさせて頂きます。それでは!第三試合を開始させて頂きます。レディーーファイト!!!」


試合開始の合図と同時にラディは飛び出し、口角を右に吊り上げたままケイに詰め寄る。

ものの数秒で直槍の間合いに入り、ラディはケイの顔面めがけ右手に持っている槍を突き出す。

槍頭を目から離さなす事なく頭を右に傾げ間一髪のところで避ける事に成功する。

ケイは後ろに軽く二歩ほどステップバックするが、瞬時に反応したラディは追撃を仕掛ける。

右横切り払いを始めにラディの攻撃ラッシュが開始された。

防戦一方のケイは攻撃に転じる事が出来なかった。

避ける、受け止めるを繰り返すが徐々にラディの攻撃力が増していくにつれ、完璧に受け止めていたケイだが時折、回転攻撃や勢いのある突きを長剣の横腹受け止める度、長剣が撥ね飛ばされ体勢を崩す事が多々起こる。

とは言え、高速で連続斬り、突きを畳み掛けていたラディだが、これと言った決定打がなく。

突き攻撃によって左頬や右肩など体中の数ヶ所に浅い掠り傷が刻まれるばかりだった。

すると突然、先程までの笑み消え怪訝そうな顔に変貌したラディは不自然に連続攻撃の手を緩めたのだ。

ケイはラディの弱々しい右横からの切り払いを弾く。


「あぁぁぁ!」


反撃のチャンスと考えたケイは叫びつつ右上上段から切り払う。

切り払い攻撃を槍で迎撃された後、ケイは形勢逆転の連続斬りを始める。

しかし、ケイ渾身の連続斬りの悉くを捌かれる。

掠り傷一つ付ける事も出来ず、十四連続目の右横薙ぎ払いを槍の柄で弾れ、体勢を崩したケイにラディは体を回転させ腹部に強い蹴りを入れる。


「ぐはっ!」


ケイは後ろへ大きく飛ばされ一度回転した後、着地する。

「つっ強い・・・!」ケイは心の中で呟く。

アキの試合を見て相当の実力者だとは思っていたが、ここまでやるとは思いもしなかった。

身体能力向上系統の能力者は幾度となく見て闘って来たケイだが、中でもラディは上位の実力者と言っても過言ではない。

このままだと、ラディの一方的な試合になるのは火を見るより明らかだ。

アキはこんな奴と闘っていたのか、とケイは今さらながら感嘆する。

ラディは、右肩に槍を乗せ呆れた顔をケイに向ける。


「はぁ~まったくの拍子抜けだ。ガードや洞察力が少し得意なだけで、剣術は三流以下・・・。これなら、さっきの女やアリスの方がよっぽど手強かったくらいだ。今まで闘って来た対戦相手の中でも、一二を争うほど弱いわお前。少しは楽しめると期待した俺がバカだったぜ。」


そう言われケイは、中段に構え直し、怪訝そうな顔をラディに向ける。


「ーっ!!」


あくびした後、頭を左手でかきながらラディは言う。


「雑魚を痛め付けるのは趣味じゃないんだ。だからさぁ、今すぐリタイアしてくれ時間の無駄だ。」


今まで相手にリタイアを催促された事がなかったケイは、眉間にシワを寄せ頭に血が上る感覚を味わう。

しかし、ケイはその怒りを抑えるように右手で持っている柄を強く握りしめる。


「なんだと?」


「だーかーらぁー、諦めろって言っての。それに闘ってみてわかったが、お前その長剣使い始めてまだ浅いだろ?」


「っ・・・!」


ケイが言い返せないのはラディの言ってる事が事実だからだ。

少しの戦闘だけで、相手がどれほどの実力者なのか、ラディにはお見通しというわけだ。

ラディは戦闘の実力だけでなく、洞察力にも秀でた才能を持っていた。いや、戦闘を幾度となく経験してきた人間の鋭い感と言うべきだろうか。


「図星か、使いこなせてない時点で話にならねぇ。生半可な覚悟で闘われるとこっちはイライラするんだよ。だからリタイアしろ今!すぐ!!」


「悪いがそれは出来ない。」


「そうか、じゃあ死んでくれ。」


冷たく掠れた声で言うと、ラディの額の星と腕、足が同時に光を帯びる。

詠唱を行わず能力を発動させる。

こいつ能力発動していなかったのか?!とケイは驚く。

それもそのはず、異能力を使わずしてここまでの実力を発揮出来ていたのだ。

その刹那、ケイの正面にいたはずのラディが姿を消す。

ラディの動きを目で追う事が出来ずケイは驚愕の顔を浮かべる。

すると、ケイの後ろに回っていたラディは攻撃を仕掛ける。

刃側ではなく、槍の石突き側を背中の中心を狙いに勢いよく突き出す。

ドンっと鈍い音が鳴り、間を開けずケイに畳み掛ける。

ケイが反応出来ない速度で動き回りながら蹴りや殴り、石突きを突き立てるなどラディは決して殺す事はせず、いたぶる事を楽しんでいるかのように攻撃の手を緩めない。

受け身も取れないケイは、顔面はもちろん体中に傷を負っていく。

手も足も出ないとはこういう事なのだろうか、ギャラリーにいる「無能」ギルドの面々は目を背けたくなるケイの状況に、ただただ歯を噛み締めるばかりだった。

成す術もないケイを見ているアキは、眉をひそめ吐き出しそうなもの強く両手を握りしめ歯を食いしばり抑える。



「剣筋もグダグダの上に受け身すらまともに取れないなんて・・・もう見ていられないわ!」


アキの抑えていたものが爆発し、観客席から立ち上がるとギャラリーの柵に右足を乗せ腰に掛けてある鞘から長剣を引き抜こうと柄を右手で掴む。

今にも飛び出そうとするアキをアリスが呼び止める。


「待ちなよアキ、あんたが行って助けられるの?その体の状態で?ケイがリタイアしていないって事はまだ諦めてないって事でしょ?」


強ばった口調のアリスに言われ、アキは怒りと勢い任せに立ち上がっていた為忘れていたのか、足はとっくに限界を超えている。

足に力がまったく入らない事に気がつきフラフラしながらも観客席に座り込む。

ピンチの時助けてくれたケイに何も出来ない自分に嫌気が差しそうになりながら、プルプルと肩を震わせながら言う。


「そっそうですけど・・・」


後方の席で座っているガイヤが腕を組みながら、ケイとラディの試合否、ラディの一方的な試合を見ながら口を開く。


「確かに今のケイでは到底勝つ事は出来ないだろうな。まだ、俺やカイトの方がうまく闘えるほどだ。けど、ケイがリタイアをしない事には必ず理由があるはずだ。」


カイトの言ったことは妙に確信めいたものがあった。

それでもとアキは心配そうな目つきをケイに向ける。


「強がってるだけじゃ・・・」


アキのケイを心配する姿を見てると、たちまち笑みを浮かべケイに目線を戻す。


「まぁそれもあり得るかもな、けどわかるんだよアイツ何かとんでもない隠し玉を持ってると思うんだ。」


アキの右隣にいるサレーネが、首を傾げながら左斜め後ろで座っているガイヤに視線を向けながら聞く。


「ガイヤは何でそう思ったのぉ?」


「ん?それはだなぁ~男の感ってやつだ。」


突拍子もないガイヤの発言にアキとサレーネは苦笑いを浮かべる。

表情を戻し、アキは僅かな期待の視線をケイに向ける。



頭を下げ目を閉じ抵抗する素振りも見せないケイは、ラディの連打攻撃を受けながら頭の中で考える。

身体能力の差の前では、単純な戦闘はラディに劣るのは仕方がない事だ。

高速で動き周りながらの連打撃を止める事は今の状態では到底出来やしない。

故に『あれ』を使わざるを得ないのか。



「ほらほらぁ!!早くリタイアしないとぉ~死んじゃうよぉ~?」


「・・・」


「チッしゃーねぇ、これで最後だ。」


連撃を突然止めケイの頭上へ高く飛ぶ。

覚悟を決めたのか、諦めたのか目を閉じたままただ頭を下げ立ち止まるケイに、無数の槍頭が降り掛かってくる。

ラディの技『冥界驟雨』だ。

ケイには、回避する術はなく受け身を取ろうが、先程ラディの連打撃のダメージが響き高い確率で重体否、死は免れない。

絶対絶命、万事休す、万策尽きたなどと試合を見守る全員が思っただろう。

「無能」ギルドのメンバーは、死を覚悟したであろうケイを見ていられないのか、目を閉じていた。

一人を除いて。


「ケイ!!!」


ギャラリーの柵から身を乗り出したアキの咆哮のような叫びがケイの耳に届く。

アキの声に反応したのか、ケイは目を閉じたまま顔を上げ腰を落とし長剣の切っ先を真上向ける。

回避でもなく、受け身を取るのでもない。

そう、ケイは『冥界驟雨』を受け止める気だ。

受け止める様子のケイを見たラディは、口に出さず頭の中で呟く。


『あ~あ出た出た、窮地に開き直って無謀にも俺の技を受け止めに入るやつ。まっそれで受け止めれた奴いないんだけどっ!』


右手で持っている長剣を強く握りしめ、足に力を入れた後、ケイはカッ!と強く目を開く。

それを見たラディは動揺する。

黒曜石のようなケイの瞳が紅く染まりあがっていたからだ。

瞳の変色など「能力者」ならまだしも、「無能」なら普通じゃない。

どこか今のケイの雰囲気、空気、プレッシャー全てが『六武衆』の奴らと似て感じたのはラディの勘違いだろうか。

体が熱い、やはりこの目は使いたくなった・・・また、思い出してしまう。

歳がちょうど十を越えているであろうケイ含め七人の男女が楽しそうに走り回っていたり、共に食事をしたり、笑いあったり、そんな他愛もなく楽しかったケイの記憶。

これからもずっと続くと思っていた、そう信じていた。

しかしいつからか、ケイは一人になっていた。

皆変わってしまった、神の身勝手な悪戯によって。

一人暗く狭い空間で泣くケイの幼き頃の思い出。

この目を使うと嫌でも思い出す。

まぁ良い、これで勝てるなら。

ふとケイは呟く。


「遅い。」


時の流れ、ケイの目の前に降り掛かってくる数多の槍頭やラディの動きでさえ、スローで動いているようにしか見えていないのだ。

ケイは集中力、精神力、動体視力など全ての神経、能力が研ぎ澄まされる感覚に陥る。

ケイの瞳孔は、最初に着弾するであろう槍の先端を見つめていたのだ。

こいつまさか見えていーー!?。

刹那の事だった。

甲高い金属音が間を開ける事なく立て続けに大きな室内中に鳴り響く。

ラディには驚愕の表情が張り付いていた。

ラディだけじゃない、リング外で試合の行く末を見ていた召し使いの男やギャラリーにいる全て人間が何が起こったのかわからないのか口を開け唖然としていた。

何せ、誰にも止められた事がなかった『冥界驟雨』がケイによって完璧に受け流されたのだから。

ケイは技を捌き間髪入れずに飛び、空中で槍を弾かれているラディの腹部を狙いに右横の薙ぎ払い攻撃を仕掛ける。

当てはしたが浅く、ラディの制服の中段部分が横一線に裂かれ腹部の切り口から血が滲み出る。

試合前の立ち位置にケイが先に着地し、少し後にラディが着地に成功する。

ラディは、眉間にシワを寄せ何が起こったのだ?!とでも言わんばかりに呆然と口を開けケイを見る。



リングで起こった一瞬の出来事に「無能」ギルドメンバー唖然とした様子を隠せないでいた。

なにせ、ケイはあの防御不可とも言われた『冥界驟雨』を止め、さらにラディに一撃を食らわせたのだから。

目を極限まで見開きケイの姿を見ながら、驚きのあまり思考が停止し口を震わせアキは言う。


「なっ・・・何が・・・起こったっていうの・・・?」


続いて驚愕の形相を崩さず立ち上がったカイトが言う。


「速すぎてよくわからなかったが、まさかアイツ・・・?!」


腕を組み最初は驚いていたガイヤだが、たちまち口角を右上に吊り上げ言う。


「あぁ、とても信じられない事だが・・・ケイの奴ラディの技を止めやがったんだ。」


ガイヤの言葉に、あわわと口を震わせながらサレーネが聞く。


「そそれって結構凄い事なんじゃ?」


アリスはまるで希望の光を見つけたかのように目でケイを見つめながら口を開く。


「凄い所の話じゃないわ。ラディの技止めるなら、後打ちじゃあまず間に合わないもの。」


前の席で座っているアリスにカイトは質問を投げかける。


「じゃっじゃあはケイは、次にどこから突きが来るのか予想していたということか?」


「いや、少し違うわ。確かにそれもあり得るかも知れないけど、現実的ではないわ。」


アリスがそう言うとガイヤは眉をひそめる。


「じゃあどうやったと言うんだ?」


「これは私の考えではあるけれど、多分ケイはラディの攻撃を予測したわけではなく、見たんだと思う。」


アリスにギャラリーにいる「無能」ギルドメンバー全員が耳を傾け視線が集まる。

リングで立つケイに目線を外さないアリスは、半信半疑の様子で言った。

話を聞いていたガイヤが聞き返す。


「みっ見た?」


「ラディの技『冥界驟雨』は高速で繰り出す連続突き。とは言え、突きと次の突きの間には、必ずほんの一瞬だけど隙が生まれるの。でもあれほどに速い連続突きを見切る事はどんな人間でも、たとえ「能力者」であろうと不可能に等しいわ。けれど、ケイはやってのけた。もしかしたらケイは・・・」


アリスは目を閉じ一つ間を置く。

アキ達は次のアリスの言葉を固唾を飲んで待つ。

そして目を開けどこか確信を持った面持ちアリスは口を開く。


「相手の動きの未来が見えるのかもしれない。」



「てってめぇ何をした?!俺の技を止めたぁ?!あり得ないあり得ないあり得ない!!」


一つ息を吐いた後、長剣の切っ先をラディに向ける。


「ふぅー・・・ラディあんたの負けだ。二度とお前の攻撃は俺には通用しない。」


「はっはぁ?!何言ってんだてめぇ?!」


「事実だ。ご自慢の技も止めて見せた。それ以上の技があるのなら話は別だが、その様子だとどうやら無いように見えるのだが。」


両眼や口調の変化に驚いたが、何よりもケイの違和感だ。

様子や雰囲気が今までとは別物で、それはあのラディを戦慄させるほどだった。

『冥界驟雨』を止めるなど「能力者」でもない人間が出来る所業ではない。


「なっ・・・!てってめぇ何をした?!お前みたいな雑魚に俺の技を止めれるほどの実力はないはずだ!一体どうやって?!」


「聞いてどうする?聞いて何か変わるというのか?」


「くっっ!!・・・あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」


叫びながら飛び上がり、ラディは再度『冥界驟雨』を仕掛ける。

さっきのは何かの間違いだ!そうに違いない!!。


「無駄だ。」


小さく呟くと、ケイは長剣を先程同様垂直に持つ。

連続で流れる擦過音とともにラディの槍は捌かれてしまう。


「なっ何故?!」


何かがケイの身に起こった事は明らかだった。

今までのケイであれば、ラディの技を止められるはずがないからだ。

変わった事とといえば、突如として変化したケイの両眼の色。


こいつまさかその目ーーー?!。


「そんなはずがぁーーー?!』


瞬時に体勢を立て直しケイと二メートルほど離れた位置に着地し、ラディは間を与えないと言わんばかりに、追撃を開始する。

ケイの周りを高速で動き回り、突きや斬り払いを繰り出す回転技『』。

ケイはラディの高速回転しながらの突き、斬り払いを瞬時に反応しその全てを受けては捌くを繰り返す。


『こいつ反応が尋常じゃなく速すぎる!一体こいつに何があったんだというのだ?!まさかとは思うが俺の行動の全てが読まれているというのか?!』


このままでは埒が明かないと考え、一旦立て直してを図ろうとラディはケイと距離を取る為、大きくステップバックをする。

時間がない為逃がすわけにはいかないと考え、ケイはリングの地を蹴り反撃を開始する。


「『瞬神 神速』」


ケイは呟くと、体が嘘のように軽くなった感覚になる。

先程のケイであればラディに追いつくはずがない。

しかし、数秒の内に距離を詰められケイの左斜め上段からの斬り払いをラディは咄嗟に柄で受け止める体勢に入る。

ケイは『分身 解体』と心の中で呟きながらラディの柄にぶつかる直前に極限まで腕に力を入れる。

強く重い衝撃がラディの手に伝わる。

ケイはスピードだけじゃなく、力も格段に上がっていたのだ。

刃と柄がぶつかり合う轟音が鳴り響くとそれと同時に両手で掴んでいた槍が弾き飛ばされリング外の地に突き刺さる。

武器を失い無防備になったラディの左側の首筋に逆手で持った長剣を突き立て、ケイは顔と顔が当たらないくらいまで近づける。

間近で見るケイの双桙は赤く染まりあがっており、その瞳はどこか深い闇を感じさせラディの全身に戦慄が駆け巡る。


「っ?!」


「続けるというなら、遠慮なく今此所で斬り捨てる。」


「まっ・・・参った・・・」


ポカンと口を開けケイとラディの試合を見ていた召し使いの男が、はっとした様子で声を上げる。


「・・・しょっ勝者!ラディ選手リタイアにより「無能」ギルド ノイザー・ケイ!!」

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