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第一章 part9 試合開始

第一章 part9 試合開始


召使いらしき男の試合開始の合図とともに、アキはリングの地を思い切り蹴り、エディに詰め寄る。

無能とは思えないスピードで此方に向かって来るアキを見て、驚愕の表情がエディと「無能」ギルドのメンバーには、張り付いていた。

アキは、エディの直前で体勢を変え、右下からの振り上げ攻撃を仕掛ける。

エディは、アキが試合開始直前で突き攻撃の構え

していた為、てっきり突き攻撃を仕掛けてくると踏んでいたが、エディの予想を裏切り右下からの振り上げ攻撃が飛んでくる。

それをうまく大刀の刃でガードし、刃と刃のぶつかり合う衝撃音とともに火花が散る。

アキは、隙を入れずに右上からの振り払い斬り、中段を狙った横払い斬り、さらに右、左と連続切りをエディに叩き込むが、全て受け流されてしまう。

しかし、エディにしても防御に徹しなければ致命傷を負う可能性がある為、攻撃に転じる事が出来なかった。

エディは、八連撃目の右斜め上からの振り払い斬りを、大刀で弾き体勢を崩したアキに、大刀を突き出すがアキは瞬時に後退していた為、かすりもしなかった。

アキは、息を整え再度攻撃を仕掛ける為、エディとの間合いを詰める。

軽く飛翔し、空中で二回転をした後、エディの首下をめがけ回転力を乗せた斬り払い攻撃を大刀で受け止められてしまう。

間髪を入れずにアキは、右、左に斬りかかるが四連撃目の左下振り上げ攻撃を止められた後、すぐに体勢を変え右手に持っている長剣を体側に引き付け突き攻撃の構えに入る。

突然、突き攻撃にシフトしたアキに、エディは驚愕の表情を浮かべる。

アキはそのまま長剣を突き出し、三連突きを浴びせる。

動揺により少し反応が遅れたエディはチッ!っと呟き、右脇腹、右肩、左頬に浅い傷を負ってしまう。

後退していなかったら、さらに傷は深いものになっていただろう。

エディは、体を傷つけられた憤怒の顔でうぉぉぉぉっ!と絶叫しながら怒り任せに縦に大刀を構えて振りかぶる。

それを、アキは簡単に受け止め弾き、反動で動けないでいるエディの無防備の腹部にアキは、体を回転させ捻転力を乗せた強く重いキックを蹴り込む。

エディは、大きく蹴り飛ばされる。大刀をリングに突き転倒を防ぐ。

着地に成功し、大刀を構え直す。


「チッ!!認めたくわねぇーけど、お前の方が少し上手なのかもしれないな。」


「あらっ随分と素直なのね。」


「け~ど、それは無能の時だけの話な?今から見せてやるよ、異能の素晴らしさと異能と無能の圧倒的な力の差を。」


「最初から使ってほしかったのだけれど、無能状態のあなたでは、お話にならなかったわ。」


「悪かったなぁ~後々後悔してもしらねぇーからな?」


「『アーム 強化 極』!!」


エディは大きく叫ぶように「能力者」特有の詠唱を唱える。

すると、エディの腕周りの大気と「能力者」の証である星がほんの一瞬光を帯びる。

見た目では、能力を使用したかはわからない。

エディは、口角を右に吊り上げると大刀を縦に大きく振り上げた後、勢いよく振り下ろした。

大刀とリングが、ぶつかり合う轟音とともに大きなヒビがリングに、入っていく。

ヒビは、一直線に続いてリングの端にいたアキの足下まで届いた。

リングに、真二つに割れ目を入れるほどの怪力は、能力を使ったという十分すぎる証拠となった。

しかし、アキは動揺した様子を少しも見せず、割れ目を避けながら追撃を開始する。

中段を狙いに長剣を横に薙ぎ払ったのを始めに、高速の連撃斬りをエディに畳み掛ける。

アキの、連続斬り払いは徐々にスピードを上げていくにつれ、攻撃力も増していく。

眼も眩むようなアキの素早い連続斬りを、エディは一歩も引かずに対応する。

ギャラリーにいる「無能」ギルド、『ジェスター」ギルドメンバー全員は、眩く拮抗するアキとエディの剣戟に目を奪われていた。

十二連撃目で白く輝く長剣を振りかざし、勢いよく振り下ろすが、それを大刀で弾かれ刃と刃がぶつかり合う衝撃音とともに、アキは体勢を崩ずしてしまう。

それを透かさず見逃さなかったエディが、左手の大刀を突き出す。

アキは、この状況から体を後方に引いたとしても、突き攻撃のレンジに入ってしまう事に気づく。

エディは、アキの腹部、右肩、右太ももを狙いに三連突きを仕掛けるが、正確に大刀の横腹を弾かれてしまう。

突き攻撃は、剣先が小さい点にしか見えない為、基本は後退しながらの防御だが、アキは後退出来ないと悟り突き攻撃を横腹捌いてみせた。

突き攻撃を、受け流すのは危険であり、困難だ。

アキは、弾いた後間を開けず突き攻撃の体勢から戻っていないエディの右脇腹を狙いに、右斜め下からの振り上げ攻撃を仕掛けようとするが、一瞬チラリとエディの顔を見ると、ニヤリと笑っていた。

正面に対して大きな有効打になる突き攻撃だが、左右に対して隙が大きい、そんな弱点を突かれているのにエディは、笑顔だった。

その笑みに違和感を覚えたアキは、攻撃の手を止め後方に下がるが、エディの右手の拳が鳩尾をめがけて飛んでくる。

アキは、咄嗟の後退が功を奏したのか直撃を免れたが、何かに強く鳩尾を打たれ吐血しながら大きく吹き飛ばされる。

リングの端ギリギリで着地し、何が起こったかわからない様子で、エディを見やる。


「いっ今のは・・・」


「俺の能力は、腕力を極限まで引き上げる事が出来るんだよぉ!空気を思い切り叩きつければ、空気砲となって飛んでいく。お前ら、無能じゃあ出来ない事を平気で出来るんだよぉ!!」


身体能力の階級は、下、中、上、極の順番で威力が上昇していく。

エディの『アーム 強化 極』は、エディ自身が腕力を上げられる限界値である。


「ふんっ確かにそうかもね。けど、あんたみたいな力任せの人間に負ける私じゃないわ。」


「ほほう?じゃあ俺に勝てる魂胆でもあるのかぁ?」


アキは、両手で長剣を強く握りしめ目を閉じる。

プレッシャーの変わったアキを見て、エディは右手に握り拳を作り右肩の高さで構え体側に引き付ける。

アキは、すぅーっと息を吸って吐いた後、カッと目を強く見開く。

そして、体を前屈みにし長剣を右手で持ち、右足を引く。ゆっくりと腰を落として足に力を溜める。


「『狂い刹那』」


そっと呟くとリングを砕くほどの力で蹴り、長剣を逆手に変えエディにものの一瞬で長剣の届く位置まで詰め寄る。

エディには、何が起こったのかわからなかった。

先ほどまで、リングの端にいたアキが瞬きをする間もなく手の届く位置にまで詰めていたからだ。

構えた状態から動いていないエディの腹部を薙ぎ払った後、体を一回転し足を止める。

長剣を鞘にしまうと、アキの背からドサッと何かが倒れるような音が聞こえる。

横たわるエディに、背を向けながら口を開く。


「安心して、傷は浅くしといたから。」


「そこまで!!エディ選手気絶により、勝者「無能」ギルド:ハールド・フォン・アキレミス!!!」


召使いらしき男から、試合終了と勝者の名前を告げられる。

すると、東側のギャラリーから歓声が湧く。

アキはリングを後にし、自身が所属しているギルドが待つギャラリーへ戻ると、サレーネが満面の笑みで抱きついて来る。


「くっ苦しいですよぉ~サレーネさん。」


サレーネはアキから素直に離れ笑みを崩さず、陽気に言う。


「お疲れ様!!アキちゃん!!凄かったよ~~特にあの最後の技!!かっこよすぎだよ~~~。」


「あはは、あれは英剣舞祭までとっておくつもりだったんですけどね、そううまく事は運ばないもんですね。」


エディとの長期の戦闘は良くないと考え、早くそしてほぼ確実に倒せる『狂い刹那』を使う事に至ったのだ。

ガイヤがサレーネの後ろから、尊敬の意を示すかのような口調で言う。


「いや~まさかあそこまで強いとは思わなかったなぁ。こりゃ~実力を認めざるを得ないな。」


カイトは、ガイヤに続いて口を開く。


「エディは、英剣舞祭出場経験があるそこそこ名の知れた凄腕だ。そんな奴を倒すとは、まったくアリスに続いて凄い女が来たもんだ。」


アキは、「アリスに続いて」という部分が気になったが、追々聞くとしてアリスがカイトに並んで口を開く。


「お疲れ様、アキ。いや~あそこまで、速い技は久しぶりに見たよ。」


アリスは一度アキと同じような技を見たかのように、話した。


「みっ皆さん!ありがとうございます!」


アキは、頭を下げ嬉しい講評に謝意を示す。


「あっアキ!おつかれ!見てたぞ、お前の剣技!特に最後の技、女なのにカッコいいと思ってしまったぐらいだ。」


「あっそ、ありがと。」


「なんか、俺にだけ冷たくない?!」


最後に遅れてケイが講評するが、いつも通り冷たく対応される。


「じゃあ、私行くから」


アキはそう言うと、リングに向かって歩き出す。


「ちょっちょっと待てよ、どこに行く気だ?」


ケイがアキを静止するように、声を上げる。


「はぁ?そんなの決まってるじゃない、試合をしに行くのよ。」


「何言ってんだ!アキ、最後のあの技相当体力を削るだろ?!」


ケイに、事実を突きつけられ足を止め肩を震わせる。

実際『狂い刹那』は疾走する直前、足に力を溜める事により数秒の間だけ通常のスピードの数十倍まで引き上げる事が出来る代わりに、体力の消耗が激しい。技の使用後は、足が硬直し数秒間動けなくなるが、相手を仕留め損ねると大きな隙を与える事になる。まさに、諸刃の剣のような技だ。

疲弊している事を、隠し平然を装っていたが、ケイにバレてしまう。

アキは体をケイに向け、怒りを含んだ口調で言う。


「そっそんなわけないでしょ?!あんたに何がわかるって言うのよ?!」


ケイとアキの会話を聞いていたガイヤが、口を挟む。


「ケイの言う通りだ、ここは一旦休んだ方が合理的だ。」


「特に相手は、「ジェスター」ギルドだ。俺達は万全を期して試合に臨んでほしいと、心の底から思っている。」


練習試合とはいえ、死と隣合わせというのには変わりはない。ギルドの先輩としてカイトは、アキに強ばった声音で言った。

アリスがカイトに続くように、腕を組みながら口を開く。


「まったくだ、ラディが来た日にはただじゃすまないぞ。あいつは、三兄弟の中でも格が違う。アキここは、ケイに交代すべきだ。」


英剣舞祭出場経験が多い「ジェスター」ギルドのリーダーラディ。一度戦って負けているから、言えることがある。

サレーネもアキに、心配そうな目を向ける。


「アキちゃん、疲れてたら休んで良いんだよ?」


「皆さん心配をしていただいてありがとうございます。ですが、本当に大丈夫です。私はまだ闘えます。」


そう言うとアキは、ギルドの先輩全員体を向け頭を深々と下げると、あれほど止められたのにも関わらずリングに向かって再び歩き出す。


「おっおい!待てって!」


焦った様子のケイがアキの右肩を掴んで、再度呼び止めるが、アキは手を払いながら憤怒の顔をケイに向ける。


「だから!大丈夫だって言ってるでしょ?!私だけで勝つって決めたの、邪魔しないでくれる?!」


そう叫びながら言うと、アキはリングの方に向かって大きく飛んでギャラリーから降りる。


「あっ!ちょっま!アキ!」


ケイは咄嗟に手を伸ばすが、届くはずもなくゆっくりと腕を下ろす。

ため息混じりに、ガイヤが口を開く。


「ったく、めんどくさい女が入ったもんだ。」


ケイは、ギャラリーにある観客席に腰を下ろし、頭を下げる。


「はぁ~~」


ため息をしていると、アリスがケイの右隣に座ってきた。


「アキの事が心配?」


アリスが頭を下げたケイの顔を覗くように、聞いてくる。

ケイは、下げていた頭を上げる。


「どうですかね、アリスさんも分かっていると思いますが、アキってプライドが高いんですよ。一度決めた事は何があってもやり通すってやつ、俺は苦手です。」


「あっ苦手なのね。」


アリスは、ケイの突然の苦手発言に苦笑する。

ケイは、リングに向かうアキに視線を向ける。


「アキみたいな自尊心の強い人間ってよく周りから嫌われるじゃないですか。周りに流されず自分の意見を貫き通す人は、協調性がないだとか、自分勝手だとか言われるかもしれません。でも、実際は自分の意見に自信持つ事って凄い事なんですよ。周りの空気に合わせたり、自分の意見を言えない奴より、よっぽどカッコいいと俺は思います。」


アリスは、ケイの話を聞き頷きながら、下にいるアキを見る。


「確かに、そうかもね。」


「アキのような人間は、たとえどんなに大きな壁にぶつかったとしても自分が一度決めた目標を達成する為に、乗り越えようとするんですよ。そういう時こそ、プライドが高い人間ってやつは、一際輝いて見えるもんなんです。俺には、到底持つ事の出来ない才能だからこそ苦手なのかもしれませんね・・・。」


ケイは、最後の部分だけ声のトーンを下げて言った。少し間を開け吹っ切れたかのような様子で、再度口を開く。


「確かに、心配ですけど俺はあいつを信じてます、アキが自分の力を信じているように。」


リングに上がる為の階段を昇ると、対戦相手の姿はなかった。

まだ、リングに上がっていない事を確認した、アキは胸に手を当てる。やはり、『狂い刹那』を使った事による弊害か鼓動が通常より速く、体がいつもより少しだるい。

目を閉じ、大きく深呼吸をし目を開ける。

長剣を腰に付いている鞘から右手で引き抜き、右肩上段に構え、右足を下げ前傾姿勢のままリングに上がってくる相手を待つ。

静かな室内に、コツコツとリングの階段を上がる足音が聞こえる。

そして、対戦相手が姿を現す。

その姿を見てアキだけでなく、「無能」ギルドメンバー全員が驚愕する。

そう現れたのは、「ジェスター」ギルドのリーダーにして、真紅の髪に赤い瞳のラディだった。ギルドのリーダーや、実力の高い者を体力温存の為、ギルドの切り札として最後に選出するのが定石だが、それを裏切るかのように堂々と登場してみせた。ラディのニヤついた笑顔は、どこか恐怖を感じさせアキを身震いさせた。

四角錐状の槍頭に、ラディの半身ほどの長く華麗な装飾が施してある柄の直槍を右手に持ち、足を止める。

ラディとアキは、15メートルほどの距離を取り向き合う。

ラディは、不吉な笑顔を崩さないまま口を開く。


「さぁ~~て~~エディの仇討ちといきますかぁ~~」


ラディの異様な雰囲気に押され、緊張しているのか手が震えてそれが長剣に伝わる。ラディに、緊張しているのを悟られないように、グッと長剣の柄を強く握り震えを抑える。


「まっまさか、あんたが出てくるとわ・・・。まぁ良い機会だわ、あんたを倒せば私の実力は英剣舞祭にも十分通用する。」


「夢を見る事は良いことだ。けどなぁ~、叶う事のない夢を聞かされるほど、虫酸が走るものはなねぇー。」


「そうかしら?私は好きよ夢物語を聞くの。でも、私がさっき言ったのは夢ではないわ、必然的に起こる事なのよ。」


「クックック、おもしれぇー事言ってくれるじゃねーか。今に見せてやるよ、俺はエディやラディとは一味も二味も違うからな?」


「それは、色んな味が楽しめそうねぇ。」


「あぁ~存分に味わってくれ。」


アキとラディは、言い合いを止め戦闘の構えに入る。ラディは左手を前に出し、右手で持っている直槍を後ろにし、アキ同様前傾姿勢の構えに入る。

すると、リング外にいる召使いらしき男が声を上げる。


「両者揃った所で、試合を開始させて頂きます。

レディーー・・・ファイト!!!」

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