#6 地球
▼『地球』
エレベーターで三階のブリッジに侵入したオレ達は、急いでMOを見るためのPCを探し始めた。
妙な機械類ばかりで、どれがそのPCに当るのか分別をつけるのに苦労したが十分後ぐらいに、サイドに位置しているモニター前にそのPCを探し求める事に成功した。
「夕貴!こっちにこいよ!MO用のPCを見付けたぜ!」
夕貴は、中央のレーダーの下に置いておいたアタッシュケースごとMOを持ってオレの所までやって来た。
「これだけの量となると、案外重いもんだね。ところで、PC立ち上げた?」
まず、周辺機器のスイッチを確認しその電源を立ち上げると、そのPC本体を立ち上げる。
辺りの暗い視界に眩い光が走った。
「最新式とか言ってたけど、何とか操作することができそうだな」
まず、ナンバー1のMOをセッティングするオレは、そのウィンドゥにあらわれる、パスワード入力の項目が飛び出した際にキーボードに手をおいたまま固まった。
「シールドが掛かってる。どう言う事だ?機密事項だとしても、これから訪れる先の人間にこのパスワードが分かるって言うのか?」
夕貴とオレは、またしても奇怪な現象にお互いの顔を見合わせた。
「考えてみようよ……何か共通点があるはずだよ……」
『ソリル」まずそう打ち込んでみた。しかしエラーの文宇が出て来る。『ディアノ』これでもない。
その後、いろいろな惑星の名を打ち込んでみる。しかしどれをとっても、パスワードエラーの表示しかあらわれない。
「仕方ない……惑星の名前じゃないのかも知れないな……ならば!」
オレは、最終手段、一か八か、『ネオ・ロマンサ』という会社名を打ち込んだ。すると、確認OKの表示が出て来て、次のセクションに移ることができた。
「やった!凄いよ、晃〜!」
夕貴は、オレの背後から半身を乗り出して、感嘆の声をあげる。
「しかし、厳重に二つ目のパスワード入力が待ち構えている」
よほどの機密がここに隠されているらしい。
思わずハッカーとしての能力があったなら、こんなに苦労をする事なんてないのになと心の中で苦虫をかんだが、現実は現実。またもや片っ端から、思い付く単語を考えていた。
しかし、夕貴がここで、
「『地球』」
と、こぼしたのが聴こえた。
「え?」
オレは耳を疑った。
「え?ボク何か言った?」
本人には何の意識も持ち合わせてなかったようだ。でもオレはその単語に従ってその項目に『地球』という言葉を入力することにした。
すると、たちまち、画面にズラズラと、何やら不思議な文字がスクロールし始めたのである。いわゆる化け文字と言うものであろう。
「これって……何語?」
オレ達には読む事が不可能な文字の羅列が次々と画面に流れて行く。その後その羅列が流れ終わったとき、一枚の画像がオレ達の眼の前に飛び込んで来たのである。
「ネオ・ロマンサの建物?」
オレは次のページをめくろうと、マウスでクリックしようとした時。夕貴がその動作を阻止した。
「なんだよ、夕貴?」
「ちょっと待って。ここ、この日付けを見てよ!」
『ネオ・ロマンサ』の写真の下にある日付けを指差しながら夕貴はオレにのしかかって来た。
「西暦2230年?」
「変だよ……何故西暦なの?移民暦の日付けじゃなくて?」
オレほその言葉に、それとなく今の『ネオ・ロマンサ』とは何か遣う建物の配置に気付く。
「これ、今の『ネオ・ロマンサ』とは違う建物だ!それに、西暦2230年は、地球が減んだ年だ!」
そう、色も、ドームも一見しただけではまったく今ある『ネオ・ロマンサ』と同じだと言っても誰も疑うことは出来ないだろう。しかし、あり得ないものが一つ有った。それは、湖のような、水の貯水地。
オレ達の知っている『ネオ・ロマンサ』の周りにはそんなものはいっさいなかった。周りは山ばかりである。
「これは何処なんだ?」
次のページへとマウスを動かす。
「これは……」
あの、ビーナス像のような人達が写っている画像が目に飛び込んで来る。胸部は丸く膨らみ、肩や口も丸みがあって、まるっきりオレ達とは異種の者。その周りには、オレ達種族と同じ男達が行き交っている工場内。
「これは女だ。女と言う種族だ!」
オレ達は狐に摘まれたかのような表情で、ただ唖然と画像を見ていた。
次……次……オレは、ページをめくった。しかし、そこに写っている者達は、確かにオレ達男とは違う女と言う種族が共存しているのである。
「……」
オレも夕貴も言葉を無くしていた。
ただただ、次々現れて来る画像に集中していた。日付けもどんどんと進められて行く。
一枚目のMOも見終わり、次のMOを挿入する。同じパスワードを打ち込んで、再び化け文宇のスクロール。
その後、画像がパッと画面に映った。しかし今度の画像は、確かにオレ達の知っている『ネオ・ロマンサ』の物であるらしい。
「移民暦元年?……こんな頃からこの建物が存在するなんて……?」
「変だよ。開拓するのに百年はかかったはず……それなのにこんな設備が有ったなんて、まるで、この場所にボク達が移民して来る事を予知しているかのような……」
その時何処からか声が響いて来た。
『舞知ってるよ!そこに有る全ての情報のこと!』
背後からその声が聴こえて来る事が分かり、オレと夕貴は振り返った。
青白く光っているレーダーの上に鎮座している舞がフワリと飛び下りた。
「これはどういう事なんだ?地球は、やはリ滅んだ訳じゃないんだな?まどろっこしい遠回りなこと言ってないで、率直に真実を言えよ!」
オレは椅子から立ち上がり拳を振り上げて叫んでいた。
『恐いな……舞は道しるべとしてしか存在しないの。遣伝子的記憶を辿ってみてよ!的場晃?君だって、純粋な地球人なんだから!』
舞の長い髪が、まるで風に煽られているかのように舞い上がる。
「は?そんな事分かる訳ないじゃないか!勝手気侭に現れて、助言だけ言っているお前にオレ達の気持ちなんてただの遊び道具なんだろうけどな、真剣に考えなきゃいけない状態なんだぞ。これは!」
「ちょっと落ち着いて。晃!……ボク達にこのMOを見るようにしむけたのは、君だね?」
静かに言葉に出す夕貴。しかし、その声には怒気が篭っている。
『舞にはわかんないや。だって舞は舞であって舞ではないものだから……プログラムにない事を話す事は出来ないよ……』
舞は片手に握っている野球帽を大事に両手で握りしめた。
「プログラム?」
オレは面喰らった。
「君は、何のためのプログラムなんだい?」
冷静になっている夕貴は問いただす。
『的場晃を、『地球』に導くためのプログラム……この宇宙船は、『ディアノ』には行かない手はずになってるんだ。舞は舞のためのプログラムに従ってこの宇宙船を動かしている……それしか答えられない』
そう言い残すと、再びスーッと周りの空気に溶け込むかのように消えた。
オレは、近くに有る壁に拳を打ち付けた。
「オレ遅の『ソリル』での記憶を抹消されて、あまつさえ訳のわからない事に……『地球』に運ばされてるだなんて……」
オレは悔やんだ。全てを投げ出してまで知らなければならないことだったのか?しかも、夕貴を巻き込んでまで……肩から指先にかけて震えが止まらなかった。
「晃?後悔はダメだよ……あの舞って子。プログラムって言ってたけど……高度な一種のホログラムでしかありえない……どこかで本体の舞があの子を動かしている……きっと『地球』のどこかで」
夕貴は、オレの腕を掴んでオレの震えを受け止めてくれた。
「済まない……タ貴。オレなんて言ったら良いか……お前まで巻き添えくわせてしまって……」
ギュッと手の平を握りしめて怒りのやり場をそこに集中した。
「晃は悪くないよ。ちょっと好奇心に引かれて、こんなことになったけど、ボクは晃がいてくれる事で、全てが癒されているんだから」
今のオレの心に安らぎを与えてくれる優しい言葉だった。
「ねえ、もう休もう……ボク疲れちゃったよ。MOはこのままここに置いておいて、また明日調べよう。あの子はこれ以上のことは何も語ってくれないと思うから……ボク達で調べなきゃ……」
オレの肩を掴んで寝室のある地下一階へと歩き始める。
途中のエレベーターの中、オレは誓いを立てた。けっして、夕貴には危険な目に合わす訳にはいかない。全て、このオレが何とかするんだと……