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#4 ネオ・ロマンサ

▼『ネオ・ロマンサ』

 


 それから一週間、オレはモヤモヤの訳が解らず日々を過ごしていた。夏休みの後半は、思ったより早く過ぎて行く。

 まるで、この時を急いでいるかのように……

 部活ではそのモヤモヤのせいもあるのか、オレの記録はやはり伸び悩んでいた。

 その事に気付いているのかいないのか、夕貴はオレに合わせて会話をして来る。オレは、そんな夕貴に感謝していた。

「悪いな、夕貴。気を遣わせて……」

 水飲み場で、タオルを浸しながら礼を言う。

「いいよ、何か考えごとがあるんでしょ?それくらい判ってるんだよ。一体何年ボクと付き合ってると思う?お見通しだって!」

 夕貴は、顔を洗い終わり、水飲み場の壁に寄り掛かりながらそう答える。

「そうだな。夕貴がオレの家の隣に引っ越して来てから十年経つか……」

 オレはその時の事を思い出していた。


 小学一年生の時、よく一人で遊んでいた隣の広い空き地に前触れもなく、大きな家が建てられる事になった。オレは、その愛着の有る空き地に入る事が出来なくなり、大いに悲しんでいた。

 そんなある日、その家に住むであろう家族が、その空き地の外から作業の様子を見ていることに気付き、自分の部屋の窓から眺めていたのである。

 その家族の中の一人の少年は、作業の様子を見ている中、ふと、視線を泳がせた。そしてその視線の先にオレの姿を見付け徽笑んできた。

 オレは、その笑顔にどう応えたら良いのかすぐには判断できず、目を見開いていた。

 しかし、少年は何を思ったのかオレに手を振って来たのである。戸惑ったオレだったが、その少年の笑頗に吊られて手を振り返した。

 その少年こそが、夕貴であった。

 そんな夕貴は、引っ越し早々オレの家にやって采て、オレに挨拶を交わして来た。

 その次の日も、次の日も、毎日のようにやって来る。オレはどう対処すれば良いのか悩んでいた。今まで友達というものがいなかったからだ。

 そんな時、

「晃くん。友達になってください!」

 と惜し気も無くハッキリ言ったのである。

 一週間も通わせて、嫌だ。とは言い切れなかったオレは、流されるまま夕貴と友違になった。

 夕貴は、利発な子供で、いろいろな事を知っていた。そんなタ貴を見て来たオレは、すぐに夕貴に魅かれて行き、何でも話し合える本当の友達になれたのである。


「実は……」

 オレは、色々と生じて来た疑問を夕貴に打ち明けた。しかし、こんな誰も不思議と心に止めないような事を考えているオレの事を、夕貴は笑ったり呆れたりしない。

「悩みごとはそう言う事だったんだ。だったら明日の『ネオ・ロマンサ』を見学する時にでも訊いてみたら良いんじゃないかな?きっと教えてもらえる事が有ると思うよ」

 夕貴は、コロコロと微笑みながら、オレにそう言った。

「でも、質問しても平気かな?」

「大丈夫だよ。見学に行くんだよ?ちゃんと答えてくれるって!」

 夕貴がそう言ってくれると、なんだか無理な事も可能になって来る気がしてならない。

 オレは、明日に気持ちが飛ぶ。そう、どんな質問をしようか。オレの心の中は、夕貴に感謝する事と、その質問の事で一杯になっていったのであった。

「ところで、明日の事なんだけど……」

 こうしたタ貴の言葉で、部活の終わったこの時間、体育館横の水飲み場の階段に座り、オレ達は明日の段取りを相談する事に夢中になったのであった。


 次の朝、恵に起こされることもなく早く起きたオレは、下の洗面所で顔を洗い、歯を磨き終えてキッチンにいる恵に挨拶を交わす。

「あら、早いのね。雪でも隆るのかしら?」

 恵はキッチンの奥に有る出窓から外を眺めるようにしてそう答えた。

「昨日も言ったじゃないか。今日は、念願の『ネオ・ロマンサ』に見学しに行くって!」

オレは、恵の行動にちょっと頭にきて声にドスをきかせた。

「あら、そんなことは知っているわよ。やあね、ちょっとしたジョークなのよ。私が起こさなくったって、ちゃんと起きられるって事。これで証明できたじゃない?これからも、私の手を煩わせないようにしてくれたら有り難いんだけどなあ?」

 恵は、味噌汁を、おたまでかき混ぜながら、オレを背にして答える。

「そうそう、今日、望ちゃんが帰ってくるから夕飯までには戻って来てね。久し振りに三人で外食するわよ〜」

 恵は何かしら楽し気である。

「あっ。今日だったっけ?望帰って来るの……何だかんだ言って、一週間延びてるんだから、しょうがないよな……」

 二、三日が、今まで延びているのは、君っと望むが、望が我が侭を言ったせいであろう。今に始まった事ではないが……

「そうよ〜だから早く帰って来てね。久しぶりの親子水入らずなんだから!」

 力を込めて発言する恵に同情して、

「分かった。早く帰ってくるよ。あっ、味噌汁煮立ってる〜」

 その言葉に、慌てて火をとめる恵。その様子に、何だか微笑ましい気持ちが溢れ出す。そんな気持ちをそのままに、オレは十時まで今まで溜まりに溜まっていた夏休みの課題を一部片付けて、待ち合わせの時間になると、オレは早々に切り上げて玄関を後にした。


 門前に、夕貴が歩いて来るのが見えて、オレは声を掛けた。夕貴は目をパッと輝かせ、そしてほころんだ顔でオレを見た。

「昨日打ち合わせしたように、秋野山まで、電車を乗り継いで行くよ」

 自動自転車で、オレ達が利用する駅、南田中駅まで、足を伸ばしている時であった。タ貴は昨日の事を振り返りながらオレに話し掛けている。

「それは分かってるって!所でさ、本当に時間までに着くのかな?」

 オレは自信なく問いかける。

 今、額から頬に掛けて一筋の汗が流れ落ちるのが感じられた。何とも言いがたい、夏の晴れ渡った青空がオレ達の上に覆い尽くしている。

「うん。昨日も言ったように、ここから一時間半もあれば到着出来る所だよ。三十分もの時間を余分に見込んでるんだから、心配しないで大丈夫!」

 風で揺れている夕貴の前髪の下に覗いている額にも、汗が光っている。

「夕貴が自信持ってるようだから、大丈夫だよな。ワリい。心配する事でもないか」

オレは、話題を摩り替えようと、

「ところでさ、夕貴?」

「ん?」

「夏休みの課題は、出来てるか?」

 当然やってくるであろう夏休みの終わり。まだオレは、半分以上もの分量が残っていた。

「うん。あと研究課題が残ってるだけで、他は済んだよ……まさか、晃。今年もボクのをあてにしてるとかって言うんじゃ……」

 オレの方を疑いの眼で見ている夕負。そんな夕貴をしり目に、

「そのまさか。なんだな……ヘヘへ」

 オレは実際の所を唱えた。呆れた夕貴の顔には、もう仕方ないな……という色が見え隠れはしているものの、怒りもあるようで、トゲトゲしい口調が耳にたこができるかとも思える程だった。

「しょうがないな。帰ったら、ノート持って行ってあげるよ……でも、丸写しは許さないからね!」

 オレは今年も、タ貴の世話になることができるようである。


 南田中駅に着き、自転車を近くの駐輪所に止めると、オレ達は急いで駅のプラットホームへと急いだ。

「南田中。南田中〜この電車は、桑折灘終点です」

 駅のプラットホームでのアナウンスが周りに響き渡る。

「御薗神前で、一旦電車を下りるよ」

 夕貴は、オレの腕を掴んでそう言うと、今到着した電車に乗り込む。オレは、言われるがまま夕貴に従った。

 その時、誰かに見られている視線を感じ、オレは電車の中を見回した。しかし、誰一人として、オレを見ている者はいなかった。

「どうしたの?ここ空いてるよ、晃。座ろうよ」

 タ貴は、長旅になるであろう事を考えて、席を確保しようとしていた。

「……ああ」

 オレは、言われるがままその席に着く。しかし、何だか気持ちが落ち着かない。確かに視線を感じる。

「でさ……」

 オレの隣に座っている夕貴の言葉も耳に入らない。伺だろうこの感じは……悪意とは違う何だか、オレの事を観察しているような視線。

「ちょっと聴いてる?晃〜!」

 オレの顔を両手の平で挟み、夕貴は自分の方を向かせるようにぐいっとカを込めた時、オレへの視線はフッと消えた。

「あっごめん……何?」

 大きく膨らんだ頬を突き出した夕貴の顔に驚いたオレは、

「夕貴、ごめん!何!?」

 慌てて、謝り直した。その後、何度も頭を下げたオレは、視線の事も忘れ、ただ御薗神前まで夕貴の顔色だけを伺っていた。


 御薗神前に到着した電車は、オレ達が降りた後速やかに走り去って行った。その様子を見送る事なく、次に乗り換える電車が来るホームへと急いだ。

 その時、オレに注がれる視線の主が誰であったのかを探る為、キョロキョロと辺りを見回してみた。しかし、誰一人見知った者はいないようで、オレは居心地の悪い感じを受けつつも、夕貴について行った。

「七番ホームだから、この階段を上がった所だね」

 説明を加えながら、夕貴は先導してくれている。そしてオレ達は、七番ホームの梓川行きの電車に乗り込んだ。

 その電車は、サラリーマンが、会社間を行き来しているらしく、スーツ姿の人達が多く乗っていた。

「夏休みだって言うのに、社会はこんなに仕事をしている人がいるんだな」

 オレは、ボソリと呟いた。

 その言葉に、夕貴は、

「まあね、この地帯で仕事している人は、もっばら工場と会社を行き来してる人が多いんだよ。何たって、工業地帯だからね」

 流石に、夕貴はよく知っている。

 そんな時、何処からか、あの曲が流れて来たのである。オレは耳を疑った。

 何故こんな所で?

 再びキョロキョロと、狭い電車内を見回す。しかし、大人達の誰一人として、ウォークマンなど聴いている様子はなかったのだ。それでも、オレは必死に捜そうと目をこらした。

「さっきから、一体誰を捜しているの?」

 そんなオレの様子に、夕貴は不審げに問いかけて来た。

「何だか視線を感じるんだ……それに、あの曲が……」

 心ここにあらずのオレに問いかけた夕貴は辺りを見渡した。

「曲なんて聴こえないよ……幻聴じゃない?」

 そう。幻聴だったら良い。しかしこんなにはっきりと、オレの耳には届いている。

「いや、確かに聴こえるんだ……何でオレだけに聴こえる?」

 そんな時、ドアの近くに立っている一人の少年が、ヘッドホンを身に付けているのに気が付いた。

「あいつだ!」

 オレは、混雑している中その少年を見付けたのである。まだ、中学生ぐらいの小柄な少年が顔を隠すように深く野球帽を彼っている。ラフなフードつきTシャツに半ズボン。何処から見てもあやしい、そう言えば、御薗神前の駅でもこの少年を見かけたような気がする。

 オレは何かを訊き出さなければならないような気がして、いてもたってもいられなくなっていた。しかし、人が多すぎてこの場から動く事は適わない。

 そんな時、一瞬少年はオレの方を見て、何か言いたげな表情をしていたが、直ぐさまそのドアの前から、オレの視界から外れるように身を引いた。オレの見えない所に身を隠した少年は、オレ達が次に降りる駅、梓川駅までこの状惣は続いたのである。

「やっと、梓川に着いたね。って、ねえ〜晃!どうしたの?」

 オレは、駅に着くや否や、今まで我慢していた気持ちを押さえ切れず、少年の姿を捜していた。しかし、プラットホームに降りている人の中に、少年の姿は見受けられなかった。

「変だな……」

「変なのは、晃だよ!」

 オレの不審な行勤を、夕貴は腕組みをしながら見守っていたのである。

「こんくらいの背格好をした少年が、オレの事を見てたんだよ……絶対あいつだ!」

 それでもオレは引かなかった。

「晃!『ネオ・ロマンサ』と、その少年と、どっちが大切なの!」

 そう、オレの痛い所を突かれて曖昧な気持ちが揺らぐ。

「今は、そんな少年の事より、目的地に着くことの方が優先だよね?だったら早く、秋野山に向かおうよ!これが最期の乗り換えなんだから!」

夕貴はオレの手を取り、引っ張るようにして秋野山終点の電車に乗り込もうと五番線のホームへと夕貴はオレを導いた。

 その後、あの少年の姿は見当たらなくなった。 

 何のつもりで、オレの前に現れたのか?結局この時は分からずじまいだったのである。


 秋野山終点まで、何事もなくゆったりと、電車に揺られながらオレ達は旅を続けた。

 小一時間もすると、アナウンスが流れる。

「次の駅が終点、秋野山だよ。忘れ物はない?」

「ああ、大丈夫だよ」

 オレは、手荷物のリュックをしっかりと抱えて夕貴に答える。電車は、ゆっくりと目的の駅に到着した。

「この駅を出ると、駅の指示に従って、北口から五分の所に『ネオ・ロマンサ』の研究所があるんだ。まだ、三十分程の余裕が有るけど、このまま研究所に向かう?それとも腹ごしらえでもして行く?」

 オレは、お腹の調子を伺ってみる。

 すると、昼飯を食べてないお腹がキューっと鳴るのが分かり、後者を選ぶ事にした。

「実は、ボクもお腹が空いてたんだ。駅近くに喫茶店くらい有るだろうから、寄って行こう!」

 タ貴の言葉でオレ連は、駅向いのハンバンガーショップへと駆け込んだのである。


 腹ごしらえをしたあと、話も盛り上がりオレ達は、『ネ才・ロマンサ』へと足早に向かった。時計の時間は、約束の時間15分前をさしている。十分余裕の有る時刻がオレ達には有った。

『ネオ・ロマンサ』の研究所は、遠目からもハッキリと分かる判るに程に大きな敷地にある。

 白を貴重とした、モダンな建物。それに、宇宙空間にでも来たような、薄黄縁色の透明なドームがあちこちに立ち並んでいる。この時のオレには、なんとも言いがたい程未知の領域であった。幅広い門の所で検問をしているらしく、一時足止めを食らうこととなる。

「今日、1時に見学をする事になっている、一色夕貴と、的場晃ですが……」

 タ貴が、身分証明書。つまり学生証を胸ポケットから取り出して、証明している。

「晃も、学生証出して!」

 夕貴の指示通り、オレはリュックから学生証を取り出し、守衛のおじさんに見せた。

「連絡が入っております。分かりました。中にお入り下さい」

 そう勧められて、オレ達は、門を潜る事が出来た。

 ガーッと、横に開いて行く門。なんとも厳重な構造であるのか、重たそうな門は高さも兼ね備えている。いや、後で知る事となったが、その門に仕掛けられている有刺鉄線には人が感電死するほどの、高圧電流が流れているらしかった。

 そんな門を潜り抜けると、道に沿って真直ぐ進むオレと夕貴。次第に建物の中に入るための入りロが見えて来た。自動ドアの前で、オレ達は名乗りを上げると、すんなりと開かれたドアの前には、受け付けのカウンターがある。

 すると一人の男が、

「一色様、的場様、よくお越し下さいました」

 と、深く一礼する。その男の様子で、タ貴の存在を改めて知らしめられたような気がした。

「ボク達は何処に行けば良いのかな?」

 さっそく問いかける夕貴。オレはなすすべも知らずに、夕貴の行動を見守っていた。

「これから御案内致しますので、わたくしに着いて来て頂けませんでしょうか?わたくしはこの通り、松永と申します……おいっ、オレはこの方々を案内するから後の受付は任せたぞ!」

 胸に付けている、名札を誇張してその男は、名乗りを上げ、その後奥にいる人に一声かけると、

「どうぞこちらです」

 オレ達の道案内を始めた。


 廊下もやはり白を貴重とした色彩で、天井が高く、所々監視カメラが設置されていた。

 オレは緊張しながらタ貴の隣を歩いている。

「かなり厳重な設備なんですね……」

 オレは、思ったままの事を口走ってしまう。

「『ネオ・ロマンサ』の機密を他に流す事は出来ませんからね。十分な配慮がなされております。外の検問近くにあった壁には高庄電流を欠かさず流していたりもしますので、くれぐれもお気をつけ下さいね。そう、今日見学して頂く所は、そう機密に開わるような所ではありませんが、良い勉強になって頂ければ幸いです」

 そんなことを話しながら歩く。暫くすると、灰色の透明な自動ドアが立ちはだかった。

「登録ナンパー209です。見学のお客さまをお連れ致しました」

 ドアに向かって言ってるのかと思いきや、ドアの上にあるスピーカーに向かって言っているらしかった。どうやら、音声入力で、開くドアらしい。

 ドアの向こうには、ドーム状の建物があるらしかった。

「音声確認。209お入り下さい」

 抑掲のない、機械音が流れ、オレ達は中に入って行く。

「この先は、わたくし達が、まだ地球に住んでいた頃に生息していた動物がいる地区です。もちろん、今わたくし達が住んでいる『ソリル』には生息していない種も居ますので、じっくり見学して下さって結構ですよ。それと、『メス』と君う種族もいます。これは、『ソリル』にはいない種ですので、できれば後学の為見ていただければと思います。30分の間は自由時間ですので、30分後ここに戻って来て下さい。それでは失礼します」

 そう告げられると、オレ達二人は、覆い茂った草むらへと入っていったのである。


「『アフリカ』って、『地球』のどこなんだろうね?」

 近くに有る透明ボードにそう記されている。しかし、それがどう言った所なのか分からないオレ達は、きっとこんな風景の所があったんだとしか理解に苦しむ他なかった。

 足下は、少し水で湿っていて、歩きづらい。しかも、異様に暑い。

「あっ、あそこに何かいる!」

 夕貴は、フェンスの奥に潜む、首?の長い黄色い物体を指差した。

「『きりん』だってさ。こんな首の長い生き物見た事ないよな」

 オレは、近くに浮遵している透明ボードの解説を読み上げながら答える。

「あっちには、鼻?の長い生き物がいるぞ!」

 大きな牙に、その上にのっかるように長く垂れている鼻。

「『アフリカ象』だってさ。でっかいな〜」

 鼻を自由に動かして、高い所にある植物を採ってロにほおリ込んでいる。初めて見る生き物達は、オレ達の未知なる想像力を掻き立てて行く。

 どんどんと、道に従って進んで行くオレ達は、いろんな動物を見た。ライオンに、かばに、マウンテンゴリラ。それに、ラクダに、コブラに、ハイエナに……思わずカメラを持って来たら良かったと思わずには居られないほど程たくさんの動物を見て回った。

 そんな中、興奮が冷めないまま時間が来たので見学途中では有るが、引き返す事になったのである。

「どうでしたか?この『ソリル』にはいない動物達がひしめいていたでしよう?」

「はい。もっと時間が有ったら、ゆっくり見学していたい気分です!」

 オレは、心からそう思っていた。

「でも、どうして、『ネオ・ロマンサ』でしか生息していないんですか?」

 次に見学する場所に導かれている途中、夕貴は疑問を持ちかけた。

「それは、ここでしか、生きられないからです。わたくし達の住んでいる『ソリル』では、ネコ、犬、鳥などのベットしか生息することは適いませんでした。しかも、なぜか、『オス』という種しか生皐できません。それに、虫すらも生息が出来ませんでした」

「虫?」

 オレ達には分からないものがいるのだと知り、オレは問いかける。

「そう、蚊、ゴキブリ、蟻、蝿、蜘蛛などをさします。さっきの動物たちが生息するところで飛んでいたり、木に生息していたのですが、気付きませんでしたか?」

「あっ、そういえば、小さな物体が飛んでいたような……」

 タ貴は思い出したかのように頷いた。

「あれが、虫?」

「正確に言えば、蝿ですが、他にもいろんな種類の虫がいます。図書館に行けば、もしかすると古い図艦などから調べる事が出来るかもしれませんが……近代的な図書館で残っているのは、数少ないかも知れませんね」

 そういうと、またもや、第2のドアが目の前に立ちふさがった。

 松永は、再び音声を入力する。

「ここには、『地球』のジオラマが有ります。減多に見られる代物ではございませんので、これを機会に、よく見て来て下さい。同じく、30分後にこの場所に集合して下さいね」

 中に入ったオレ達は、暗い部屋の中、ボーッと浮かび上がる、青い感星を象どった大きなジオラマを見た。

 その惑星の下には『地球』と書かれた透明ボードがライトニングされてあった。

「西層2230年。この惑星は核戦争の為、生息不可能となるだってさ……」

 タ貴がそのボードの文字を読み上げた。

 変だ……核戦争が起こったなら滅んだはず。あのCDは何故存在するんだ?オレの中でフツリとあの疑問が蘇った。

「ちょっと先に進んでみようよ!」

 オレ達は、地球のジオラマを後にして次のセクションに進む。そこには、光る地図が、大きく貼り出されていた。

「これって『地球』の地図だよ。あ、この『アフリカ』てのは、さっき見た動物達が居た所じゃないかな?」

 夕貴は、直ぐさま地図に飛びついた。

 オレはというと、肩に引っ掛けているリュックから持って来たCDを取り出し、インデックスを見つめる。そして、日本と言う地名を探そうと思い立ったのである。

 すると、地図のまん中あたりに、その地名を見つけ出した。

「あった……東京ってのは何処だ?」

 オレは、小さなその日本という地名の中から東京と言う地名を擦そうと目を見張った。

「ここだよ」

 背後から突き出された指が指し示した。

「ありがとう、夕貴」

 オレは、背後にいるであろう夕貴に礼を言おうとしたのだが、何だか違和感を覚えて、振り返った。するとそこには、電車の中で見た少年が肩ごしにオレの後ろから手を差し出していたのである。

「お前……一体誰だ……?」

 オレは、身を引く形で、地図に寄り添った。

まい西園にしぞのまい。やっと会話ができるね」

 その甲高い声は、まだ少年の物であり、色白い肌は、不思議とこの暗い部屋に浮かび上がるようで、まるで幽霊を見ているかのようだった。

「何か用かよ?お前ずっとつけてたんだろう?というより、何でここに入れたんだ?」

 オレは、何を話しているのか自分でも判っていない。ただたくさんの疑問が溢れだして来る一方だったから。

「君に会うのが目的だったから、今ここにいる。君は、何故ここにいるの?」

その問いかけに、

「オレは、何故地球が減んでもないのに、滅んでるなんて言う事になってるのか知りたいからここにいる……後は『ネオ・ロマンサ』に興味があったからかな……」

 素直に答えた。というか、とっさにそうとしか答えることが出来なかった。

「ところで、夕貴は?」

 オレは、タ貴のことを捜した。つい先ほどまで、『アフリカ』を探し出して、喜んでいたのにこの場にいる様子がない。

「夕貴って?」

「オレと一緒にいたやつだよ。お前!夕貴をどうしたんだ!」

 オレは、その舞と言う少年の胸ぐらを掴んで揺すった。

 すると、その少年の帽子が床に落ち、束ねられていた長い髪がバサリと舞い落ちた。そして、今初めて顔がハッキリと露になった。

「!」

 オレは、その顔を見て驚いた。

「お前……一体誰なんだ……?」

 そう、オレは驚愕してしまったのだ。

 その顔は、学園の守り神とも言うべき、憧れのビーナス像と瓜二つであったからである。それに、よく考えると、『西園』という名前に覚えがあることに気付く。

 オレの手は、その少年から離れ、空を彷徨っていた。その隙に少年は、床に落ちた帽子を拾い上げて被り直す。

「ねえ。舞と言う名前に覚えがないかな?」

 途方に暮れていたオレの意識は、その言葉に気付き、

「舞?……えっと……」

 と、考え直していた。

「じゃあ、この曲の事は?」

 ヘッドホンを取り出し、オレの耳に掛けて来る。

「この曲は、オレの所に送られて来た曲……もしかして『M・A・I』って、舞と読むのか?」

 驚きの余り、声が上ずった。

「御名答〜!」

「じゃあ、君が、あの小包を送って来た張本人ってこと…?」

 オレにはさっぱり分からなかった。

 何故、舞と言うこの少年はこんな回りくどい事をしたのか?

「君には知っていて欲しかったから……この世界が作り物であるって事を……」

 舞と言う少年はぼそりとそう言った。

 しかし、オレには何の事だか、さっぱり分からなかった。

「じゃあ、この先の見学を楽しんでよ。その先に見る物は、決して、嘘じゃない。そんな世界を君は体験出来る事になってるから……舞が、導いてあげるよ?その真実を君がどう受け止めるかは、君自身にかかってるけどね?」

 少年の姿が暗闇にかき消されるかのように、消えて行く。オレが手を伸ばした時には、すでに消え去った後であった。

 まるで、夢を見ているかのようであった。そんな立ち尽くすオレに、

「どうしたの?晃。こんなところで、ボーッと突っ立ったりしてさ?」

 横から肩を叩く夕貴がいる事に気付き、オレは我に返った。

「お前何処にいたんだ?」

「何言ってるの?老人じゃないんだから、ボケないでよね…ずっとここに居たよ。それより時間だよ。早く戻らないと!」

 オレの背を叩きながら夕貴は行こうと足を踏み出している。

 それに気付きオレも足を動かした。幻を見ていたのか?とオレの中で混乱が生じる。

 しかし、幻にしたら余りにもリアルすぎて気持ち良い物ではない。それにあの意味ありげな言葉……この先のオレの行動を予知しているかのような……

 オレの心は揺れていた。この先一体何が起こると言うのか?果たして、どんな真実が分かると言うのか?

 その事を踏まえると、今の疑問なんて吹き飛んでしまいそうだ。しかし、『地球』は滅んではいない。その事をオレは問いただしたかったのである。


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