#3 西園 静
▼西園静
オレは家に帰宅すると早速借りてきたCDを聴き始める。カセットテープより音質の良いこの曲は、すんなりオレの心を満たした。そして、何度聴いてもこの曲は、懐かしい気持ちをオレにもたらしてくれた。
CDに入っている他の曲も何故だか聴き覚えが有る。それを何処で聴いたのかさっぱり分からないオレは、ケースに入ってあるインデックスを手に取り眺めていた。
そこには、この曲を作曲した人について簡単に記されてあったのである。
『西園静。地球。日本。東京都出身の民族音楽研究大学出身。数多くの民族音楽を研究し、自らも民族音楽を手掛ける。西暦2590年今に到るまでに58曲もの曲を発表。多数の支持者に受け入れられている』
この紹介文を読む限り、結構有名な作曲家らしいが、オレはその人を知らない。しかし『地球』という文字がオレを引き付けて止まなかった。
『地球』それは、オレ達種族がここ『ソリル』に移民する前の惑星。もう滅んでいるもの。ならば、移民する時にこのCDは一縮に運ばれたのであろうか?
オレは歴史の教科書を取り上げる。オレ達が、この『ソリル』に移民した年と見比べてみようと思い立ったからだ。
すると分かったこと。地球の歴史で言う所の西層2230年が、オレ達種族の移民した年に当る。つまり、このCDが発表された年は、移民後の『地球』の年に当るということになる。
これは、地球が滅んではいないと言う事の証ではないのか?
じゃあ何故オレ達は、地球を離れなければならなかったのか?その辺りは全く歴史の教科書には記されていない。肝心な所が抜けているのである。オレは歯がみしていた。何とも言いがたい自分の知識のなさに……
しかし、送り主である『M・A・I』はこの曲で一体オレに何を伝えたかったのであろうか?全く分からない。差し詰め、このように地球という惑星に関して疑問を持った事ぐらいしか収穫は無かった。
いや、このことが問題であるのかもしれない。オレは階下にいる恵に訊いてみようとこの部屋からから足を踏み出したのである。
「地球の事が知りたい?」
恵 は突然何を?という表情でオレを見ていた。恵はというと、出版社から帰ってきて急いで夕飯の準備をしていた。
「そう、地球。一体何でオレ達はこのソリルに移民して来たんだ?」
カレーを煮込んでいるらしく、匂いがキッチン中に立ち篭めていた。
「さあ、何故かしらね……授業じゃ習わなかったから、気にも止めなかったわ。地球が滅ぶ危機だったからじゃないの?」
当然と言えば当然の事である。
「それが滅んだ訳じゃなさそうなんだ。昨日のカセットテープの曲名を探しに、今日図書館で擦して来たこのインデックスに、地球の年が書いてあったんだけど……」
オレは恵にそのインデックスを見せた。
「ふーん。なるほど…確かに変だわね。地球が滅ぶ危機でない以上、わざわざ危険を覚悟に、このソリルに移民する必要なんてないわよね」
恵は、お玉を持ち直して考え込んでいる。
「でも、実際移民している。何かの試みがあったのかな?そう書えば、『ネオ・ロマンサ』って一体どうやってオレ達子供を生み出してるんだろう?女性と言う種がいないのに」
オレの中に次々と疑問が生じて来る。しかしこの疑問は、今に始まったことではなかった。
「それに関しては、生物で習ってるんでしょう?両親の精子を、『ネオ・ロマンサ』にあらかじめ登録して、ある方法……つまり、科学的な方法を用いて子供を作る。確かにこの方法を私達には公表してはくれてないけど」
グツグツ音を立て始めたカレーが気になるのか、恵は視線を鍋に戻す。
「そりゃあ習ってはいるけど、やっぱり不思議じゃないか……実際そんな事ができるのか?」
「その結果、晃はここにいるじゃない?」
終には呆れ果てたように、カレー鍋に身体を向ける恵。
「ほらほら、いつまでも下らない事考えてないで、夕飯出来たわよ。手を洗って来なさい。夕飯にするから」
恵は再び忙しそうに動き始めた。
仕方なくオレはこれ以上恵に話し掛ける訳にもいかず、言われた通り、手を洗いに洗面所に足を向けた。
何かやっぱり腑に落ちない。何かが間違っている気がして来た。それがなんなのか分からず、モヤモヤした気持ちでオレはタ食を頬張っている。それは生きるために必要なことだ。分かってる。だが、何か肝心な事が欠けているような気がして来る。一体なんだろう?
そして俺は、その、『ネオ・ロマンサ』を見学できるその日まで、もやもやする事となるのであった。