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#2 図書館

▼図書館


 昨日のドンチャン騒ぎは、夜の12時過ぎまで続いた。流石にそのせいで、翌日となった今日は朝起きるのに苦労する。

 そうは言ってもいつもの朝のように、恵に叩き起こされたオレは、どうにかこうにかベッドから這い出し机の前に立っていた。そう、昨日送られて来た謎のカセットテープの曲を探し出すために。


 夕貴との待ち合わせ時間、オレは久し振りに隣の一色家に足を伸ばしていた。

 ピンポーンとチャイムを鳴らす。

 こんな大きな家で、このチャイムの音がちゃんと聴こえるんだろうか?と、小さい頃から疑問であった。それにどういう訳かこのオレは、夕貴の部屋を見た事がなかった。普通だったら友人を部屋に招く事を拒むなどないはずなのだが、夕貴の家は違うらしい。

 あれだけ人の家には身勝手に上がり込むくせにと思いつつ、最近ではそれも一色家に重要機密があって、人をみだりに入れさせないためであるからなのかも知れないと思い始めていた。

「どちらさまですか?」

 その声が、よく庭を手入れしている敬三の声だと気付くのに時間は掛からない。

「すみません。隣の的場ですけど、夕貴君いらっしゃいますか?」

 オレはいつもながら緊張するこの対応に敬語を思い出していた。

「ぼっちゃまですか?少々……」

 一瞬途切れた声の奥で、

「晃?ちょっと待ってて。今行くから!」

 かん高い声が大きな声を張り上げてるんだと分かるくらいに、マイクがぶれた。

 一分と経たない内に玄関から夕貴が元気よく飛び出してくる。

「ごめん。お待たせ〜」

 一瞬視線をはずしたくなるほどの軽装で夕貴が現れた。

「お前。半ズボンなんかはくなよ。目のやり場に困るだろ!」

 オレは、ガラにもなく顔から火が出そうな気持ちに陥った。

「だってデートだろ?良いじゃんこのくらい。あ〜!何真っ赤になってるんだよお〜」

 オレの顔を下から覗き込むようにして顔を近付けて来る夕貴に、なぜか心臓がバクバクし始める。

「莫迦言ってないで、早く行くぞ。そうしないと、探し出すのに時間が掛かるからな!」

 オレは、意味ありげな夕貴の視線を上手く交わして、香之淵にある、オレ達の地区で一番大きな図書館へ出かける事にした。

 

 自動自転車を、最寄りの駅の自転車置き場に止め、地下鉄に乗り込む。

 香之淵は隣街、南田中から二駅目に有る街であった。

 オレ達が乗り込んだ地下鉄の中は、冷たい空気で、思わず引いて行く汗を身体に直に感じ、風邪をひくかと思う程冷房がガンガンに効いていた。しかし程なく、オレ達を乗せた電車は、目的地に辿り着いた。

 地下鉄をおりると、アスファルトの焼けた臭いが、ムワッとした熱気と共にオレ違にふり掛かる。オレは思わず、顔をしかめた。

 周りは建ち並ぶ高層ビルで、思わず見上げる。そうして歩いていると、肩がこってしまう。 高校受験前よくこの道を歩いたものだが、建物の外装がかなり変わっていた。移り変わりの激しさと言うものが感じられて、何だか取り残された気がして、オレはちょっと寂しい気持ちに陥る。

 今、警察署の通りを右に曲がる、その先には香之淵図書館が聳え建っていた。その建物を眼前に、オレ達は行き交う人々にまぎれて、足早にその図書館へと急いだ。


 中は、寒くならない程度の冷房が程よく掛かっている。

「夕貴、二階のCD検索室に行こう」

 オレは、夕貴の肩をぽんっと叩いて階段を上るように進める。

「何?もしかして、昨日のカセットテーブに入ってた曲を検索するつもり?」

「まあな。民族音楽っぽかったから、そんなに大変な作業じゃないとは思うけど、夕貴も手伝ってくれるかな?」

 今すれ違った人が、オレ達を眺めて行く。

「そんなに気になる訳?」

「まあな、だって、送り主の名前が『M・A・I』だけじゃ、何の事だかさっぱりだぜ…きっとこの裏には何か隠されているんだとオレは思うんだ」

 いきなり探偵じみ事を考えるオレを、夕貴はヤレヤレという表情でオレの顔を見上げている。

「わかったよ、付き合うよ……」

 最後にはお手上げと、両手を上げてタ貴は、オレの横に並んで歩き始めたのである。


 CD検索室は夏休み後半にもかかわらず、大盛況であった。部屋に入ると、クーラーが効いてるのか効いていないのか分からないくらいに、人で埋め尽くされていた。

「どうするの?これじゃ、検索機使えないよ。使えたとしても、閉館する頃じゃないかな……」

夕貴は、人に押しつぶされないように、必死に自分の身を肘で守っている。

「しょうがないな……」

「何?諦めるの?」

 ちょっと嬉しそうな夕貴の顔に、ムッとしたオレは、

「CD図書館に移るぞ。こうなったら、意地でも探し出してやる!」

 半ばヤケになって隣のCDを保管している部屋へと足を伸ばそうとした。

「ちょっと待ってよ!ボクも行く〜!」

 夕貴は慌ててオレの後に続こうと人混みをかき分けていた。

 隣の部屋はいたって静かであった。オレと、タ貴は民族音楽と配されているコーナーへと足を運んだ。

「げっ!こんなに有るの?」

 ズラーッと並んでいるCDが目に飛び込んだ時、オレ自身思ってもいない程の量に目眩がした。こんなことなら、やっぱりCD検索室で待ってれば良かったかも知れない。昨日の夜、カセットテープから曲をRに焼きつけた努力も水の泡であるのだから。

「あきらめた方が良いよ。晃?」

 夕貴はもう疲れたと言わんばかりに、その場にしゃがみ込む。確かに諦めるより仕方ない。と、思いに到っていた時、

「やあ、的場に、一色じゃないか。お前達、民族音楽に興味でもあるのか?」

 聴き慣れた声がオレ名を呼んだ。

「あっ。南キャプテン……それに、岩泉さん!」

 オレと、夕貴は驚いた表情で二人を振り返っていた。こんな所で会うなんて、なんとも奇遇である。

「なんてCD、探してるんだい?」

 小柄な南キャプテンが問いかける。

「ええ。一応探している曲のコピーは録って来たんですが、何しろ曲名が分からなくて、困ってるんです」

 オレは正直に答えた。

「真迦だな。だったらCD検索機でCDをシンクロさせて来たら良いじゃないか」

「ええ、そうしたいんですが、余りの混みようで時間が掛かりそうなんですよ!」

 夕貴はちょっとムッとした表情で、岩泉副キャプテンに言い放っっていた。タ貴はこの岩泉副キャプテンのことが余り好きではないらしい。普段から、夕貴にしては愛想をもって接しない所から判断する所だが。

「へえ。じゃあちょっと聴かせてくれないかな?俺、実は民族音楽オタクなんだ。もしかしたら聴いた事有るかも知れないから」

 朗らかに言ってくれる南キャプテンは、いつもながらなんて温厚なんだろうと俺は思った。

「これなんですが……」

 オレは、背負っているリュックを下ろし、中から一枚のRを取り出した。

「へえーどれどれ……」

 ウォークマンのヘッドホンを耳に掛け、南キャプテンはオレのRを聴き始めた。暫くすると、

「これは……」

 と、目を見開く南キャプテン。

「どうしたんです?何か分かりましたか?」

オレと、夕貴。そして岩泉副キャプテンは、そんな南キャプテンの顔を覗き込んだ。

「分かったよ、確かこの辺りに……」

 南キャプテンはまるで生き字引のようにCDを探し始めた。その行動を見守っているオレ達三人、

「有った。これだ!」

 南キャプテンの手が止まった先を覗き込む。

 そこには,『時間よ永久に……西園静』というラベルのCDが目に入った。

「透き通った綺麗な曲だろ?実は、俺のお気に入りとして、家にあるんだ。なんでも、輸入盤で、この作曲者はオレ達がいる惑星ソリルの住人ではないらしい。まったく貴重なCDだよ。それにしても艮かったな、借りられてなくて」

「へえ……」

 そのCDを棚から抜き出して、南キャプテンがオレに差し出してくれた。オレはそれを受け取り、まじまじと眺めていたのである。

「それじゃ、明日部活で会おう。くれぐれも体調は崩すなよ!」

 そう言い残し、南キャプテンと岩泉副キャプテンは、この場を立ち去って行った。

 オレと、夕賃もこのCDを借り終わると、速やかにこの図書館を後にしたのである。


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