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#11 新世界

▼新世界



 次に目を醒ました時、オレはベッドの中であった。

 空虚に目つめる視線の先には、ただの真っ白な天井が広がっていた。オレは、ここが何処なのか知りたくて、上半身を起き上がらせる。

「先生!患者が目を醒ましました!」

 近くにいたのであろうか?看護士らしき人物が、背を向けている白衣の男に声をかけている。

 その様子を何と無し気に見ているオレはまだ覚醒し切れてはいなかった。

「君!名前は?何処から来たの?」

 先生と呼ばれたその男は、オレに心配げに話し掛けて来る。

「オレは……晃」

 そう、オレは晃だ。

「何処からって?……えーと……」

 考えるが全然記憶がない。

「分かったよ。今暫く安静にしてて良いよ」

 そう言うと、近くにある椅子に腰をかけるその男。

「二日前に、この『ソリル』に不時着した宇宙船に二人の乗客が乗っていた。それが、君。晃君と、もう一人の女の子だったんだ」

 と、オレの横に眠っている子をさしてそう言った。

「……夕貴……」

 オレは、おぼろげな口調でそうこぼした。

「夕貴さんって言うのかい?あの子は、妊娠しているようだけど、何処の感星から来たのかまでは思い出せないのかな?」

 その男は興味津々に聞いて来る。

「……夕貴……」

 ただひたすら、何かが頭の中を駆け巡ってる。

「ここは何処?」

 オレは、取りあえず、今いる場所を知りたかった。

「『ソリル』という惑星の、『ネオ・ロマンサ』という病院だよ」

「……『ネオ・ロマンサ』……」

 オレの頭はどうにかなってしまったのか?

 聞いた事が有る名前なのに一切思い出せないのである。

「あの子……夕貴さんのお腹の子供は、晃君の子かな?あの子、この感星に入ってからまだ目覚めないんだ……やはサ、『ソリル』では、女という種族は生存できないのかも知れない。君が目覚めてくれて良かったよ。早く君たちの惑星に戻りなさい」

 そう言うと、隣の夕貴の方に身体を捻るその男。

「脈は正常だよ。ただし、夕貴さんの子供はかなりのスピードで成長しているようだ。遇去の『地球』でのデータを洗いざらい調べては見たものの、異例な現象だ。晃君は別にして、夕貴さんは、私達『地球移民の民』とはまったく別の生態をしている。君たちは何が目的でこの『ソリル』にやって来たのか、私には分からないが、子供の事を思うのなら早めに立ち去った方が良い……」

 背中を向けたままその男はそう言った。

「……その必要はないよ。夕貴は死んだりはしない……オレの子供を身ごもってるのだから……『ソリル』にやってきたのは、もうオレ達の住む場所が此処しかないからだ」

 自然と動く口が、思考とは裏腹で、自分でも驚く。

「オレと夕貴をこの『ソリル』に置いて欲しい。そう言ったら困るのか?」

 男は直ぐさま背を向け、席を立つ。そして、この部屋の扉を抜けて、どこかに行ってしまった。それがどう言う事なのか、今のオレにはどう言う訳か分かる。何故?

『夕貴』、『ネオ・ロマンサ』、『地球』この三つの言葉に何かを感じ取ったからだ。

 オレは再び、ベッドに横になり、そして目蓋を閉じる。

 まだ、何かが足りない……重要な言葉が。

 オレは自然と、思考回路だけに集中する。

 そう、以前にもこんな風に、取り組んだことが有る。深く。そしてじっくりと時間をかけてオレは思い描こうとした。

 オレの失われた過去。

 そんな時、フラッシュバックがオレの頭を支配した。


 ……そうか……


 バタバタと廊下が騒がしくなって来た時、オレは強い信念を持って、これから始まるであろう事に立ち向かおうとした。

 シュンッと扉が開かれると、背広を着た男が入ってきた。

「気がつかれたそうで何よりです。えーと、晃君?」

 背広を着たその男は真剣な眼差しでオレの顔を立ったまま眺めている。

「ええ、オレの能力が、今までの事を思い出してくれましたよ。お話しましょうか?『ネオ・ロマンサ』ソリル内総指揮官殿?」

 そう、オレのESPの一つであろう、過去見。

 きっと、舞はこの事を知らなかったはずだ。


 残念だったな……


 オレは、舞の顔に泥を塗ってしまったのかも知れないが、敢えて、この能力に感謝している。

「話して頂けますね?」

 男は、二人にして欲しいと周りの者達に告げる。速やかに立ち去る人達。その様子を見送りそして、オレとその男のみになった時話を始めた。

「オレは、的場晃。いや、地球では、西国晃。あんたたち『ネオ・ロマンサ』が極秘事項で行って来た、子供を授かる方法を、二日前まで見て来た一人だ」

 男は、微動だにせず、オレの話に耳を傾けている。

「夕貴は『ミトラボス』の異邦人。オレ達『地球人』とは違った、この世界唯一の新たなる生命体。オレの子を今、宿している」

「『地球』の水上会長から、私にのみ報告が入っている。今後一切の干渉はしないとの事。つまり、擬似宇宙自体、『地球』への侵入を封鎖するとのことだ。その理由は、アダムとイヴを、この『ソリル』に委ねるからと言うものだった」

 物静かな、深みの有る声でそう言う。

「上層部のみのトップシークレットってやつか?まだ、何処にも秘密は漏れてはいないんだな?ならば、オレはどう対処したら良い?」


 これからの事。


「水上会長は、二人を束縛する事だけはしないで欲しいと言い残された。つまり、君たちは自由の身である。もう、『ネ才・ロマンサ』は、必要のない組織だ。これからは、君達の保護と『ソリル』繁栄の道を最優先に考えて行くことになりそうだ」

 じっとオレを見据えてそう答える。

「オレは、『ソリル』では身寄りの無い者となった。父、母そして、友人さえいない世界に突然放り込まれたと言っても過言ではない。保護を受けられるのであれば、それは気持ちよく受け入れることにしましょう」

 まるで、一皮剥けた感じだった。そう、晴れ晴れとした気分である。過去を思い出したからか?それとも、もう戻れない過去の産物に頼ることは必要無くなったからか?

「もちろんです。こんな記念すべき日がくるなんて、想像もしていなかった。こうやって話が出来て良かったですよ。水上会長は、記憶を消した。と言ってらっしゃいましたからね」

 そういうと、初めて笑顔を見せる。

「オレと夕貴の子供。何時頃生まれそうですか?」

 ふと、隣を見る。タ貴は静かに寝息を立てていた。

「そうですね。あと二ヶ月半は掛かるでしょう……切めて、この『ソリル』で生まれる子供です……楽しみな事ですよ」

 オレとその男は静かに夕貴を見守っている。

「それでは、身体の方が落ち着いたら、『新ネオ・ロマンサ』にお越し下さい。是非とも本格的なお話をしたいと思っておりますから」

  それだけ言い残すと、男は席を立った。

 暫くオレはボーッとしていたが、ベッドから腰を上げタ貴の元に行く。そして床に膝をつき、タ貴の手を握りしめた。夕貴が目覚めたら、オレの事なんか忘れてしまってるんだろうか?それとも、覚えていてくれるんであろうか?

 夕貴のお膜は少し膨らんでいて、布団の上からもその様子が伺える。この中に、オレの子供がいる。直に生まれて来る子供。どんな子に成長するんだろうか?名前はなんて付けよう?『ソリル』で初めて生まれて来る子供。

 歴史は生まれ変わる。

 そう思うと、以前感じていたドキドキする感覚が蘇る。

 早く目を醒ませよな。そう念じた時、

「……晃?」

 ボソリと確かに夕貴のロからオレの名前が溢れた。

「タ貴?」

 オレは驚きの余り、近くの椅子の足を蹴飛ばしてしまった。

「気がついたか?タ貴!」

「此処は何処?ボクは何をしているの?何だか長い夢を見ていた気がするよ……それにお腰が重たいや……」

 オレの名前しか覚えていないようで、夕貴は不安そうであった。

「ここは、病院だよ。お前のお腹には、オレの子供がいるんだよ。あと、二ヶ月半程で生まれてくるそうだ」

「そう……晃と、ボクの子供……」

 別段何も驚かない夕貴。何を思っているのであろうか?

 静かにオレの方を見る夕貴。

 そして、オレの頬にそっと手を伸ばす。温かい手の感触がオレの頼に感じる。夕貴がちゃんと生きている証。

「安心しろ。きっと元気な子供が生まれるよ。名前考えないとな……」

 その言葉ににっこりと微笑むタ貴の笑顔が眩しくて……オレは、涙が出そうだ。

 ふと、窓の外の景色がオレの目に入ってきた。

 地球で見たのと別段何の変哲もない空の青。雲一つないこの空の下、綺麗な日差しが入り込んでくる。

 季節はもう、秋になろうという頃だろう。

 しかし、オレの中の熟い気持ちはあの夏の日と変わらない。

「これからも一緒にやって行こうな?」


 オレは、この日を境に、夕貴の伴侶となったのである。



▼エピローグ



 この記録を見た我が子孫達に、オレが送る事ができる事はただ一つだ。

 大切なモノを守る力を身につけて欲しい。

 それが、男であろうと女であろうと自然であろうと動物であろうと何であろうと構わない。

 そして、何時の日かその力を生かして欲しいとそう思っている。

 大切なのは、真実を見極め、大切なモノを守ること。

 オレの子孫が、この『ソリル』で生きている以上、そのことを念頭において、これから先の人生を生きて行って欲しい。

 我妻、夕貴に、言い残している事は山ほどあり語る事も出来ない事も有り、残念ではあるが、お前達の胸の内にしまっていて欲しい。

 オレのいなくなった後、この先、何世紀も生きて行く夕貴を残して逝くことは不本慮では有るが、決して彼女にこの真相は知れてはならない。いつか気付くことが有るかも知れないが、それが彼女への愛だと信じてやまないから。

 きっと、『ソリル』は生まれ変わる。

 そう信じてこの記録を子孫に送る。

 希望と平和に満ちた世界を。

 そして、愛を……

もう十年前の作品です。

書き直したいところもあったのですが、これはこれで残しておくのもまた良いかなと。

人口増加とかありえないんですが、この話の中では、少子化を逆の眼で見て書いた作品でした。

主人公晃は、最後の最後まで、客観的にこの出来事を見守る。と言う設定にしてます。でも、話の中で思った事はそのまま垂れ流してますが。

夕貴に関しては、異邦人であると言う設定なので、このまま生き続けます。

晃と言う愛するものをなくした後も。

それに関して道考えるのかは省きました。

が、きっと、自分でも悟ってる事でしょう。

そして、子供達は、新ネオ・ロマンサから解き放たれ、子孫を残していきます。

それが、『ソリル』というこの惑星ミクロの繁栄になります。

まだまだ未熟だったときに書いた作品でしたが、思い入れはあって・・・まあ、初めて取り組んだSF作品として何か心に残っていただければ幸いです。

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