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42 漆黒の意思

 ダンジョンちゃんは岩清水の体内がダンジョンになっていると言う。

 ワケが分からないがやばそうだ。最低限の情報? は手に入った。詳しい考察や話は後にしてここは離脱一択。おろおろしている間にワケも分からず死にかねない。

 俺は一度電話を切って岩清水に愛想笑いをした。


「あの、すみません人違いだったみたいで。お騒がせして本当申し訳ない。それじゃ失礼」

「まあ待て、行く前に話を聞かせて欲しい。失礼されたんだ、事情ぐらいは聞く権利あるだろう? とりあえずさっきから隙間風が寒い、そこのドア閉めろ」


 ひえっ……

 ドアを閉めて外からの視界を遮って俺に何する気? 酷い事するつもりなんでしょ、スプラッタ映画みたいに。スプラッタ映画みたいに!


 命令しながら岩清水はさりげなく手袋を外し、威圧的に近づいてきた。

 俺はまた驚いた。手袋の下から現れたのは見間違えもしない、俺と同じ『迷宮の(ダンジョン)同盟者(アライズ)』の刻印だった。


 やばい。


 これはやばい。

 体内にダンジョンがいて、しかも『迷宮の(ダンジョン)同盟者(アライズ)』?

 チートにチートの重ねがけじゃねぇかそんなもん!


 愛想笑いが崩れ蒼褪める。

 岩清水が舌打ちして右手を俺の首に伸ばしてくる。

 俺は寸でのところで首を掴もうとする手をかわし、出口から飛び出しそのままダッシュで逃げ出した。通りすがりの人がびっくりして俺を振り返るが気にする余裕はない。

 数十メートル走ってから後ろを確かめると、岩清水はドアの陰からねっとりした目で俺を見つめていた。

 こっわ! ある意味追いかけて来られるより怖い。


 尾行を気にしながら家に帰り、口から飛び出しそうな心臓を呑み込んで改めてダンジョンちゃんに電話をかける。


 ダンジョンちゃんと俺の情報をすり合わせた結果、概ね何が起きているのか分かった。

 結論だけ言えば岩清水は『迷宮の(ダンジョン)同盟者(アライズ)』になってダンジョンを体内に格納し、地上でも刻印の力を使えるようになっている。冒険者を狩って回っているのは殺害による生命力(ライフ)吸収のためだろう。死体が見つからないのはダンジョンによる死亡だからだ。


 人間に色々な人種や血液型があるように、ダンジョンにも個体差がある。例えばダンジョンちゃんは地下洞窟型ダンジョン。ダンジョン族の中で最もポピュラーなタイプだ。自衛隊に即殺された第二のダンジョンも、北海道のダンジョンくんも地下洞窟型。

 他にも樹木型、水没型、異界型など色々ある。


 岩清水の体内にいるのは特に珍しいタイプの寄生型と予想される。

 本来はドラゴンやリヴァイアサンのような巨大魔法生物の体内を間借りして迷宮化し、巨大生物に丸のみされて胃に送り込まれてきた生物をくすねて生きるダンジョンだ。

 しかしやろうと思えば人間や、それこそネズミ並の小動物にも寄生できる。小型ゆえ小食で寄生しても生存に必要な生命力(ライフ)を確保できないためまず小型・中型動物への寄生は行われない。


 ところがここは地球だ。大型動物なんてなかなかいない。どこにでもいる動物の中で一番大型の動物といえばまあ人間になるだろう。追放刑を喰らって異世界から地球にやってきた寄生型ダンジョンに寄生先の選択の余地は無かったに違いない。なぜよりにもよって岩清水を選んでしまったのかと言いたい所だが……


 とにかく寄生ダンジョンは岩清水に寄生した。

 岩清水は寄生ダンジョンによって刻印を付与され、『迷宮の(ダンジョン)同盟者(アライズ)』になった。

 岩清水は地上で冒険者として・ダンジョンとしての力を振るう事ができるようになり、体内のダンジョンを養うため、そして儲けるために冒険者を殺して生命力(ライフ)を吸って回っている。


 結論としては殺すのが一番簡単な問題解決法だ。

 生け捕りにして警察に突き出せば確実に『迷宮の(ダンジョン)同盟者(アライズ)』について、ダンジョンの生態についてバレる。情報が洩れれば俺とダンジョンちゃん、ダンジョンくんの首を絞める事になる。ぶち殺して口封じが一番確実。


 絶対喋らないように脅したり、顎と手を粉々に砕いて意思疎通が著しく困難になるようにすればなんとかなるかも知れないが、そんな回りくどい真似をしてまで命だけは助けようと思うほど岩清水への好感度は高くない。

 部下を自殺に追い込むほど酷使したり、人生破滅させる濡れ衣を着せたりしたんだからそりゃ当然殺されもするよなという話。


 問題はどうやって命を刈り取るか、という話だ。

 俺と同じ『迷宮の(ダンジョン)同盟者(アライズ)』ならダンジョンからの生命力(ライフ)供給で突然のレベルアップや瀕死からの瞬間回復が有り得る。そもそも素の身体能力も高水準だろう。弾丸すら効かない恐れがある。

 警戒心も割と高い。冒険者は絶対に一人ずつ釣り出し、人目を避けて殺している。俺が逃げきれたのはドアが開いていて殺害現場を見られる恐れがあったからだし、追いかけてこなかったのはたまたま通行人がいたからだろう。

 とはいえ殺した冒険者の遺品をそのへんの茂みやゴミ箱に雑に突っ込んでいるあたり警戒心の塊というわけでもなく、付け入る隙もありそうだ。


 俺は考えた末、出雲に協力を仰いで二人がかりで仕留める事にした。

 協力できればこんなに心強い味方はいない。問題は出雲は協力が一番苦手で嫌いだという事だが……なんとか説き伏せられると信じたい。

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