04 ダンジョンちゃんの基本性能
婚活戦線を結成すると、ダンジョンちゃんが最高にワクワクした声音で何やら言い出した。
『ねー、これ名前つけようよ』
「え? 婚活戦線だろ」
『そうじゃなくてグループ名みたいな。名前から取るなら【ダンジョンちゃん】と【堀内義道】だから……【ほりうちダンジョンよしみち】とか?』
「草」
ミドルネーム付きの芸能人みたいになってるぞ。
「俺のあだ名義道だから、どっちかっていうとそっちで上手い事もじりたいな」
『じゃあダンドー婚活戦線! 違うねダサいね。無い。ギドージョン婚活戦線? 長い? 言い難いかな。うーん』
「いや話乗っといてなんだけどこんな事話してる場合でも無くないか? もうダンドー婚活戦線でいいからさ、これからの話しようぜ」
最終目標は理想の相手との結婚だが、まずはダンジョンちゃんの生存が最重要課題だ。
そのためには生命力が必要である。
ダンジョンちゃんは侵入者から生命力を吸い取る事ができる。そのエネルギーで生存・成長し、罠やモンスター、侵入者向けの釣り餌となる宝物を生産する。階層や部屋、通路の拡張にも生命力が必要だ。
生命力とは生き物が持つ体力やスタミナの事で、これを吸いつくされると衰弱死する。が、時間経過で回復する。
ダンジョンちゃんの生命力吸収手段は二つある。
まず、ダンジョンに侵入した者に刻印し、その刻印を通じて吸い上げる方法。
ダンジョンちゃんは自分の体内に侵入してきた者に問答無用で刻印する事ができる。一度された刻印は解除できない。刻印された奴はダンジョン内にいる限り自動的にじわじわ生命力を吸い上げられ、弱っていく事になる。ダンジョンの外に出れば吸われないため、侵入者は刻印越しの自動吸収で死ぬ前に脱出を強いられる。
もう一つはダンジョン内で侵入者をいたぶる方法。
ダンジョン内で侵入者を負傷させたり殺害したりすると、それによって失われた生命力をマルっと吸収できる。刻印吸収は確実だがじわじわゆっくりとしか吸収できないので、手っ取り早く稼ぎたければ罠やモンスターで侵入者をボッコボコにするのが必須になる。
コツはできるだけ殺さない事だ。
殺さずに痛めつけて追い返せば、回復してからもう一度侵入してきてくれる。
殺せば一時的にごっそり生命力が手に入るが、二度目が無い。
キャッチ&リリースで顧客を増やしていくのが賢い営業法なのだ。
だがダンジョンちゃんは最深部の部屋の赤い球――――ダンジョンコアを部屋の外に持ち出されると死んでしまう。心臓と脳を同時に抉り取られるようなものだから、そりゃ死ぬ。
最深部まで踏破され、ダンジョンコアを奪われ殺されるぐらいなら殺害も仕方ない。慈善事業や観光じゃないからね、仕方ないね。
ダンジョンコアは優れたエネルギー源であり、最小サイズですら人口五千人の城塞都市を一ヵ月運営できるとか。規模はよくわからんが、値段をつけるなら一個一千万円は超えていそうだ。
また、ダンジョンコアは完全な球体で、傷一つなく、よく見てみると中に小さな銀河が渦巻いているようでとても綺麗だ。素人目にも宝石として素晴らしい価値を持っている事が分かる。
トドメにダンジョンコアは万能の元素変換機能を持つ。石から黄金を作れるし、水を油に変えられる。21世紀の科学力を超越したオーバーテクノロジーアイテムだ。
変換効率は物質によって違うし、使用回数に制限がついているが、大国が血眼になって手に入れようとするだけの価値がある事に疑いはない。
俺だってダンジョンちゃんがダンジョンちゃんではなかったら喜んでダンジョンコアを奪い取っていた。当然だ。ちゃんとした所で売れば無職から一転、死ぬまで遊んで暮らせる大富豪に早変わり! こんなに美味しい一攫千金アイテムは人類史を遡ってもなかなか無い。
やっぱ世の中金なんだよな。この世で信じられるのは金と、ダンジョンちゃんと、いつか俺と結婚する事になる理想の女性の幻影だけだ。
そう……それだけ……
……よし!
簡単にまとめよう。
まず侵入者を呼び込んで、ボコって、吸い上げて、追い払う。
そうしてゲットした生命力を使ってモンスターや罠、財宝を充実させて、もっとたくさんの侵入者を呼び込む。
このループの成立を目指せばいい。
ダンジョンちゃんを踏破され、ダンジョンコアを奪われたら人生終了。
「何もしなくても基礎代謝で生命力減るんだから、早く対策しないと死ぬよな。ダンジョンちゃんの計画は?」
『無い!!!』
「おい無策か」
『しょうがないじゃん、考えようと思ったらギドー降ってきてあっ死んだこれってなったんだから』
「あー」
それは悪い事をしてしまった。
……いや俺は悪くないよな?
むしろ俺の方が死を覚悟したぞ。玄関が落とし穴になっていて虚空に踏み出した瞬間のやべぇ死んだ感は尋常じゃなかった。
『というかもうギドー考えてよ、生命力どうやって稼ぐかさ。東京で獲物になる侵入者って人間ぐらいなんでしょ? 私この世界の人間の事全然わかんないからさ。もう任せる』
「え、重い重い重い! それミスったらダンジョンちゃん死ぬやつだろ」
『私がやったらもっと死ぬし。ギドー以外の人間にこんな事頼まないよ』
「マジかー……」
責任クソ重じゃないですか。俺の肩にダンジョンちゃんの命がかかっている
会社辞めて責任から解放されたと思ったらまた責任背負いそうになってるのなんで?
まあ背負うんですけどね、今度ばかりは喜んで。
ダンジョンちゃんからダンジョンにできる事は一通り聞いているから、そこから戦法を考える。
生命力が少なすぎてできる事が限られ過ぎているのが問題だが、すぐにこれだという稼ぎ方を思いついた。というかこれぐらいしか取れる戦法がない。
「ゴブリンを二匹召喚して、あとは入口を一個増やしてくれ。それでいける。一週間ぐらいはしのげるはずだ」
『ゴブリン? ゴブリンでいいの? 最弱雑魚モンスターだけど? ゴブリンなんてなーんにも訓練してない大人の人間でも、なんならギドーでも一発思いっきり殴れば殺せるよ?』
「どっこい、俺達は人型生物をいきなり殴り殺せるようにはできてないんだなあ」
こちとら血みどろの闘争と切り離されて生きてきた日本人ぞ?
モンスターとカッコよく戦う妄想をする奴は山ほどいるが、実際に戦えと言われて戦える奴なんてまずいない。近所の飼い犬が急に襲ってきたら殴り殺せるか? 無理だろう。飼いならされた犬すら無理なのにモンスターを相手にできる訳が無い。
しかも相手はゴブリンだ。実在しない系のモンスターだ。クソ雑魚モンスターだと分かっていれば恐怖も薄れるが、何も知らない一般人は得体の知れない底知れない怪物に襲われる無限の恐怖を味わう事になる。
まず間違いなく遭遇したら逃げるだろう。ゾンビや幽霊に遭遇して逃げるようなものだ。この推測には自信がある。
もちろん例外的に初遭遇のゴブリンをノータイムで殺りにくるようなぶっとんだ人間もいるだろうから用心は必要だ。
俺は考えた計画をざっとダンジョンちゃんに説明し、座りっぱなしで痛くなってきた尻をさすりながら立ち上がった。
「そういう感じで進めるって事で。じゃ、一度帰るわ」
『なんで? 計画もっと練ろうよー、帰らないでよー。寂しいよー!』
「さっきからずっとトイレ我慢してんだよ。ここで立ちションしていいならそうするけど」
『それはぶち殺すわ。はよ帰って』
ダンジョンちゃんのドン引きした声を背に受け、俺は落ちてきた急勾配のトンネルを這い上ってアパートに戻った。
アパートに戻ると、夜遅くまで起きて俺の帰りを待っていた評価ボタンに出迎えられた。
評価ボタンは新妻のように恥ずかしそうに言った。
「おかえりなさい。評価ボタンを押す? お気に入り登録する? それともか・ん・そ・う?」
「結婚しよう」
健気な評価ボタンに心打たれ、俺はついに結婚を決意した。幸せはこんなにすぐそばにあったのだ。
~ハッピーエンド~