36 開店、北海道ダンジョン
俺と話をまとめ終わった神代社長は四方八方に連絡をして交渉して回り、たった半日でネット&テレビ同時生中継重大発表会見の場が整えられた。
あれよあれよという間に放送局控室に連れていかれ、本番三分前。さっきから頭が痺れたように回らない。ド緊張だ。有名になりたくて仕方なかったのにいざテレビデビューするとなるとさっさと済ませて帰りたくて仕方ない。
「ギドーさん、胃薬もう一包飲みますか?」
「うん……」
神代さんの気遣いに自分でもびっくりするほど弱々しい声が出た。
「大丈夫ですよ。原稿読み上げるだけでいいんですから。30秒で終わります。なんなら噛んだって平気ですよ、どうせ字幕つくんですから」
「無理……」
「最初だけ喋ったら質疑応答は私がやりますから。頑張りましょ、ね? リラック~ス」
「は……」
手をぎゅっと握ってほにゃほにゃ微笑まれむしろ内臓という内臓が引き攣った。
本番では記憶が飛ぶような事こそなかったが、想像していた軽快なトークと笑顔で全視聴者女性の心を鷲掴みにする姿とは正反対のものを晒したのは間違いない。ガッチガチで全然口が回らなかったし愛想笑いすら凍り付いてしまった。噛まなかったのが奇跡だ。
そんな地蔵を晒したせいか、放送終了後の反響は俺より神代社長の方が断然大きかった。
冒険者・堀内義道による発見というより、神代社長の配下の冒険者が発見した、という受け取られ方をしたのだ。
ダンジョン攻略委託企業の中で最大の冒険者人数を抱え、冒険者参入障壁が最も低い新進気鋭の企業の若い女社長が、今度は新しいダンジョンまで見つけてみせた。話題性抜群だ。落ちこぼれサラリーマン上がりの男のサクセスストーリーも話題性があるはずだが、神代社長のキャラクターが強すぎて霞んだ。
しかしメディア露出は一回で終わりではない。めげずに討論番組やバラエティ番組にも出演した。一発目でコケてもじわじわ知名度を上げていければ良いのだ。
ところが、俺が番組に呼ばれる時は決まって神代さんとセットだった。
というか、神代さんの添え物だった。
俺が呼ばれず神代さんだけ呼ばれる事はあっても、神代さんが呼ばれず俺だけ呼ばれる事はない。
完全にそういう感じの認識のされ方をされてしまっている。
そして最悪な事に、録画した自分が出演した番組をダンジョンちゃんと一緒に見直していて気付いたのだが、発表会見の次に出た番組で「趣味は婚活、5億円ぐらい貯金があって可愛くて性格良くておっぱい大きくて俺の事が大好きで他の男にフラフラしない女性を募集してます」と言ったら真剣に言ったのに笑いが起き、それ以来面白芸人枠にカテゴライズされた感がある。
ブチギレそう。
なんでや。素直に自分の希望を言っただけだろうが。言わないと分からないだろ? 結婚なんて興味ありませんって顔してたら「あの人は結婚に興味無いんだ」と思われて女性離れてっちゃうだろ? 最高の理想を掲げて何で笑い者になるんだよ。人の夢笑ってんじゃねーぞ!
冷静に考えるなら番組視聴率の問題もあるのだろう。
神代さんは美人だ。画面映えする。トークも上手い。
俺は清潔感には気を使っているが、イケメンではない。画面映えしない。トークは並。
そういう事だ。
何度かのメディア露出を経て、俺の知名度は確かに上がった。人気も出た。相応にアンチも湧いた。
が、思ったよりショボいしなんか違う。メディアに出る時は神代さんとセットで出演するからむしろ嫉妬の方が激しい。
肝心の求婚も全然来ない。名前も聞いた事ないヤツからの露骨な金の無心は来るが。
神代さんに聞いてみると彼女の方には縁談が掃いて捨てるほど毎日山のように来ているらしい。俺にもその十分の一でいいから分けてくれよ……男との縁談お裾わけしてもらっても困るけど……
有名になるだけなってガッカリな結果に終わったダンジョン発見発表と反対に、ダンジョンくんの北海道ダンジョンは想定以上に上手く進んだ。
ダンジョンくんはダンジョンちゃんからの支援で地下洞窟環境で五層までを実装している。ただし、ダンジョンちゃんのようなモンスター主体ではなくトラップ主体で設計されている。
雄ダンジョンは雌ダンジョンとは逆に、モンスターよりも罠を安く召喚できる。
古典的な落とし穴、神経麻痺系の毒ガス、飛来する矢、落石。金塊に擬態して噛みついたり自爆したりするミミック系モンスターを取りそろえ、東京ダンジョンとは一風変わった仕上がりになった。
実際モンスターやトラップの配置にかけたコストはダンジョンちゃんよりずっと少ない。規模も小さい。
しかし重要なのは冒険者にとっては目新しい未知のダンジョン、トラップ、モンスターである、という事だ。
見慣れた強いモンスターを相手にするより、見慣れないチャチなトラップを相手にする方が難しい。トラップとモンスターを組み合わせたテクニカルなダンジョンはそう易々とは突破できまい。最低でも時間稼ぎはできるし、ある程度時間稼ぎをすればダンジョンくんも生命力を貯めて自力で自転車操業ができるようになれる。
それでも東京ダンジョン最前線で暴れているような一線級冒険者が大挙してダンジョンくんに押し寄せでもしたらまたナゾのモンスター人喰いの出番になるところだ。が、東京から北海道への遠征をするヤツは思ったより少なかった。
未知のダンジョンへ安くない交通費・宿泊費を出して遠征するより、既に稼げる事が分かっている東京ダンジョンに残留する方を選んだらしい。もちろん、未知のダンジョンでハイリスクハイリターンに挑む冒険者もいたが、数は少ない。
そんな東京から遠征する冒険者と、道民の新規冒険者を受け入れるために、北海道ダンジョン入口は急ピッチで整備を進めた。
神代さんのツテで人員を出してもらい、耕作放棄地の荒れ放題な草を徹底的に刈り取り、整地して、コンテナハウスと仮設トイレ、水タンク車を運び込む。
交通の便を良くするため荒れ果てている上に狭い周辺の道路の拡張整備計画も開始。最寄り駅との間に臨時往復バスも手配。至れり尽くせりだ。
俺は何もしなくてもガーディアンズから土地使用料として北海道ダンジョンから得た収益の二割を得られる。少ないようだが、人件費も必要資材購入費も工事費用もランニングコストも全てガーディアンズ持ちなので妥当どころか貰い過ぎ疑惑まである。
まあそういう感じで北海道ダンジョンは新装開店。
交通の便が悪すぎて東京ダンジョンのように人が一気に押し寄せては来ないが、逆に迎撃態勢が整い切っていないダンジョンくんにとってはありがたい。
まずもって順調な滑り出しと言えるだろう。
失敗した有名婚活作戦。成功したダンジョンくん運営。
その二つの作戦の違いを考えた俺は天啓を得た。
原因は評価ボタンとブックマークだ。
俺は評価ボタンを押していなかったし、ブックマークもしていなかった。ダンジョンくんは評価ボタンを押していたし、ブックマークをしていた。原因はそこ以外に考えられない。
俺は今までの過ちを深く悔い改め、評価ボタンとブックマークを押した。
すると天から女神が降りて来て、俺に求婚してきた。もちろん俺は快諾し、結婚した。
~ハッピーエンド~




