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34 逆光源氏計画

 元気が戻ったダンジョンくんの証言によると、彼の家は家計が苦しく、年齢を偽り零細企業で働いていたという。右も左も分からず言われた通りに働いていたら、いつの間にか何かよく分からない犯罪の首謀者という事になっていて、追放刑を喰らったそうだ。

 ダンジョン社会に少年法などない。ヤベー事したら赤ん坊だろうが有罪。未成年の罪に対する罰は親が肩代わりできるのだが、ダンジョンくんは追放されて地球に来ている……という事はまあ要するにそういう事だ。悲しい。


 ダンジョンちゃんといいこの子といい、異世界のダンジョン会社はこんなんばっかりか。つっら。世間は冷てぇよなあ。

 ダンジョンくんは不安そうなショタ声ですがりつくようにダンジョンちゃんに言った。


『どうすればいいのか分からなくてすごく怖いんだ。お姉さん、ぼくどうしたらいいのかな』

『お姉さんに任せなさい。百階層以上あって罠とモンスターで華麗に冒険者をハメ殺せる立派なダンジョンにしてあげるからね』

『え、ほんと? ぼくにできるかな、死んじゃったりしない……?』

『大丈夫! おねーさんとギドーがついてるから! えへへ……!』


 ダンジョンちゃんが危ない笑い声を漏らしている。大丈夫か。絆されてない? いや絆されてもいいんだけどさ。異性に心地よく絆されるために婚活してるようなもんだし。何かあっても冷静さだけは保ってくれよ、せめて俺と同じぐらいには。


『そのギドーっていうのはこの人間ですよね』

『そうだよ! ギドーはねぇ、私の迷宮の(ダンジョン)同盟者(アライズ)。昔話で聞いた事ない?』


 話題が俺の事になった。本人いるんだから直接話しかけてくれればいいのにと思うのだが、何やらダンジョンくんの言葉から若干の距離を感じる。やっぱり異種族には心開いてくれないんですかね。


『おばあちゃんが話してくれたような……すごい昔の大迷宮を支えた変な人間の話ですよね?』

『それそれ、ギドーはその人間と同じだからさ、仲間だと思っていいよ!』

『人間がなかま……? うーん、いいのかな? ……まあいっか! よろしくギドー!』

「おお、よろしく」


 ショタダンジョンの元気いっぱいなちょっと生意気ご挨拶である。これで少しは打ち解けたんすかね。

 ダンジョンという種族にとって人間は餌であり敵だ。人間の感覚で言えば狂暴な家畜のようなものだろうか。ほとんどの場合家畜の気持ちを考えて肉なんて食べない。しかし身近に接して深く付き合い触れあえば家畜に感情移入してペットや友達になる例もある。子供は特にそうなりやすい。

 恐らくダンジョンくんにとって俺はそういうポジションに落ち着いたものと思われる。しかしわざわざ「ダンジョンくん! 君にとって俺は友達になった家畜かな!?」なんて聞くのも馬鹿馬鹿しいので推測は推測のままにして俺の胸の中にしまっておく。


 これからいつでも連絡を取れるように通信モンスターをダンジョンくんの最奥部の部屋に置いていき、外に出る。

 空は日が傾いていて、早く藪から出て道に入らないと暗くなって迷いそうだ。日が沈む前には宿に着きたい。


 藪をかきわけ転ばないように慎重に進んでいると、スマホのダンジョンちゃんアプリが勝手に起動してダンジョンちゃんが話しかけてきた。


『ギドー、ダンジョンくんがいるあたりの土地買っちゃいなよ。第一発見者になって地主になっちゃえば名声滝登りじゃない?』

「ああ、それはそうするつもりなんだけどさ、ダンジョンちゃんはダンジョンくんをどうするつもりなんだ?」

『え? どうって、育てるつもりだけど』

「そりゃ良い感じに手組めそうだし冒険者相手にできるぐらいまでは支援した方がいい。でもどこまで? ビジネスライクに採算取れるように支援するとか、異郷に放り出された同族のよしみでもうちょっと深入りしてくとか」

『えーと……あの、何年かかけてさ、私好みの、カッコイイイケメンダンジョンにぃー、育てちゃおっかなー、なーんて思ってます、えへへ……』


 ダンジョンちゃんは可愛らしい声で可愛らしくモジモジと言った。内容はゲスめだがかわいい。

 でもいいんすかねそういう、逆玉の輿? 違うな、なんて言うんだっけ? ……ああそうだ、逆光源氏か。幼い女の子を自分好みの女性に育てた平安時代の変態プレイボーイ光源氏が元になった言葉だ。


「大丈夫なのか? 子供は育てるだけで大変って聞くのに自分好みに育てるってめちゃ大変そうだけど」

『大丈夫! 将来のイケメンダンジョンのためなら頑張っちゃうよ! ダンジョンくんと話しながら考えたんだけどねぇ、まず甘やかしてお世話してあげて好感度稼ぐでしょ、で、たぶんあの歳の雄ダンジョンだと本当にお姉さんみたいに思われるようになると思うのよ。家族のお姉さんね。そこでね? あえてね? 一度距離を置く。寂しい、ずっと一緒にいてくれない、でも冷たくなったわけじゃない。それぐらいの加減で優しい家族みたいなお姉さんを異性として意識させる。ここバランス大事よ。同時に自立した雄ダンジョンとして経験を積んでもらう。私がいなきゃ何にもできない雄ダンジョンなんて嫌だからね。それで最後は百階層突破してぇ、ダンジョンの壁に冒険者の血の跡が染みついてて、冒険者の遺品コレクションみたいなオシャレな趣味に目覚めちゃったりして、みたいな。みたいな!! きゃーっ! ギドーどう思う?』


 お、おう。めっちゃ早口で喋るやんけ。


「モテない婚活女子の妄想っぽい」

『ウ゛ッ……! で、でも、私本気だから!』

「大丈夫意気込みは伝わった。これもまた婚活。頑張ろうな」


 理想の結婚相手は今はまだ絵に描いた餅だが、絶対にこの手で掴んでみせる。俺も、ダンジョンちゃんも。

 さしあたっては宿に戻ってダンジョンくんの土地の所有者の連絡先を調べるところから始めよう。

土地の所有者の評価ボタンさんにお話しさせて頂いたところ、土地を売るのはいいが条件があるとの事だった。俺は慎重に尋ねた。

「その条件とは?」

「評価ボタンとブックマークボタンを押す事だ」

「ひょ、評価ボタンとブックマークボタンを!?」

「あなたに押せますかね?」

「い いいですとも! 一生かかってもどんな事をしても押します! きっと押しますとも!」

「それを聞きたかった」


~ハッピーエンド~

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[一言] あとがきがブラックジャックだ
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