28 クオリティ オブ ダンジョンライフ
俺が一世一代の渾身の告白をぶつけると、神代社長は困り顔で答えた。
「うーん、お断りします」
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」
フラれたァあああああああああああ!
いやぁあああああああああああああ!!
なぜぇえええええええええええええ!!!
おかしい! こんなの絶対おかしい! 世界が俺が結婚するのを妨害してやがる!
なんで? 分からない! 俺無職じゃないぞ? 冒険者って職業じゃん? 毎日風呂入って身だしなみ気を付けてるし見た目も絶対良くなっている。金もある! 郵便貯金に六万円も入ってる! なのになんで今の告白断られた!?
クソッ! ワケがわからない!!!
俺がこの世の理不尽を噛み締め四つん這いになって泣き叫んでいると、神代社長はしゃがみ込んで俺の背中をさすりながら優しく言ってくれた。
「結婚はダメですけど、友達というのはどうでしょう?」
「友達、友達かあ……」
友達はちょっとヤだな。
やつらはすぐ金欠で困ってるって言うんだ。で、飯奢るとお前と友達で良かったって調子の良い事言うんだ。なのに俺が会社クビにされる時は助けてくれないんだ。
友達ってのはそういうヤツらなんだ。信じられる友達はダンジョンちゃんだけ。
…………。
でも神代社長めっちゃ美人なんだよな。お近づきになりたい。
「じゃ、友達で。よろしく、神代社長」
「神代でいいですよー」
神代社長……神代さんは朗らかに笑って俺の手を取り握手した。
仄かに甘い香水の匂いと手の柔らかさが俺の脳を激しく揺さぶる。
ううっ、やっぱり好きだ。神代さんは友達じゃなくて嫁になって欲しかった。
神代さんの結婚報告聞きでもしたら歯ぎしりで全部の歯粉々になりそう。
「そういえば名前まだ聞いてませんでしたね」
「名前? ギドー」
「……ギドーさんですか。仲良くしてくださいね?」
「仲良くってどれぐらい? どれぐらい仲良くしていいんだ? 恋人は? 結婚ダメでも恋人までならいける?」
「うーん、難しい問題ですね。ちょっと仕事があるので、次会う時までに考えておきますね。ばいばい!」
「え、かわいっ! ばいばい」
こんな愛くるしい二十代がいていいのか。
俺は神代さんがコンテナハウスに入って行って見えなくなるまで手を振っていた。
告白は失敗したが、友達にはなれた。俺はゴキゲンで一度アパートに帰った。
玄関の大穴に渡してある板を軽く踏んで強度を確かめて渡り、靴をキッチリ揃えて脱ぎ、冷蔵庫から発泡酒を出して飲みながらダンジョンちゃんに電話した。
検証勢の頑張りで近々冒険者が強化されそうだ。こちらも迅速に対応していかないといけない。
「もしもしダンジョンちゃん? ダンジョン工事の話なんだけど」
『あっ、私もちょうどそれ話そうと思ってたんだよね。結構生命力貯まってるし余裕あるからそろそろやっちゃっていいよね?』
話が早い。ダンジョンちゃんも分かっていたらしい。
昨日出雲とOIS社が五層に到達した。今のところリビングアーマーに叩き返されているが、そろそろ六層を拡張してモンスターを配置しておいた方がいい。
「いいんじゃないか? だから――――」
『うん。じゃ、壁綺麗にするね。えいっ!』
「ああ。……ああ?」
なんて?
壁綺麗にする?
「ちょい待て今何した?」
何かとんでもない事が起きた気がする。急いで玄関直通入口からダンジョンに入る。水の無いウォータースライダーのような急斜面の穴を滑り降りて最深部に到着すると、最深部の部屋もそこから見える通路の壁も全て磨かれた大理石のように白く美しく変貌していた。
「?????」
ダンジョン……ちゃん……?
三十分前よりめっちゃ美肌になってない……?
『ふーっ! やっぱり壁は白くなくちゃね! スッキリした!』
「スッキリしたじゃないが。何やってんの? これナンボ使ったん? 言ってみ?」
『500万生命力! 五層全部白壁にして500万なら安いよねえ』
ごひゃく!!!!????
「それ貯蓄全部使っ……いや待てよ。そう、何か意味あるんだよな? 壁から矢が飛び出して冒険者を撃退できるとか、そういう実用的な。まさか壁綺麗にしただけじゃないよな?」
『何その言い方。だって綺麗にしなきゃダメでしょ? 汚壁女子なんてモテないもん』
衝撃的だった。
まさか美容目的で六層拡張のためにコツコツ貯めてきた生命力貯蓄すっからかんにするとは。
信じられない。
一瞬エラい事しでかしてくれたなと思ったがこれはむしろ見習うべきところだろう。
俺の婚活に対する姿勢は甘すぎたのかも知れない。
そう、俺達はダンドー婚活戦線。理想の相手と結婚にこぎ着けるため、積極的に自分を磨き、高めていかなければならない。
生き残る事が目的ではない。
ダンジョンを拡張し、より大きく強くなる事が目的でもない。
全ては婚活のための手段でしかないのだ。
出雲も言っていた。いくら結婚願望が強くても魅力の無い人間はモテない。
ダンジョンちゃんは命の危険が無くなった途端、後先考えず全力で自分を高めている。
それは無謀、無計画かも知れない。しかし自分磨きができる時に惜しみなく磨いていくその姿勢は尊敬に値する。
それにダンジョンちゃんも年頃の女の子だもんな。婚活云々抜きでも薄汚れたまま生きていくなんて嫌だよな。可愛くなりたいよな。自分の気持ちに正直であれ!
しかしそれはそれとして500万生命力のロスは痛すぎる。六層の実装、モンスター配置が冒険者の侵攻に間に合わなくなった。なんとかしなければ。
俺はすぐに妙案を思いついた。
そう、評価ボタンだ。
モンスターの代わりに評価ボタンを配置すれば、冒険者や読者は本能的に吸い寄せられ押してしまう。
読者が評価ボタンを押すと世界の犯罪発生件数一兆件減り、地球温暖化が止まり、作者も喜ぶ。
名案だ。今まで何故思いつかなかったのか分からない。
こうして評価ボタンを設置した途端、ダンジョンちゃんと俺は天下無敵の快進撃がはじまった。
~ハッピーエンド~




