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27 To Be Continued

 二階堂(にかいどう)拓真(たくま)は大学一年生である。いわゆるゲーマーで、RPGを主食として毎月二本以上ゲームをクリアしている。ストーリーを楽しむのではなく、攻略サイトを見まくって効率プレイをしたり隠し要素を制覇していく事に喜びを感じるタイプだ。

 そんな性格の二階堂がダンジョンに興味を持つのは当然の成り行きだった。ダンジョン探索系のRPGは十数作品やり込んでいたし、それが現実になれば好奇心は青天井だ。


 しかし二階堂がその存在を知った時、既にダンジョンは警察が立ち入り禁止にしていたので探索できなかった。二階堂には警察の抑止を振り切ってダンジョンに飛び込むほどの度胸はない。立ち入り禁止になっているのは立ち入り禁止になるだけの理由があるからで、それを無視するのは悪い事だ。

 警察による封鎖はやがて自衛隊による制圧作戦に切り替わった。二階堂はダンジョンVS自衛隊のシチュエーションに興奮し、毎日情報まとめサイトに張り付き事態の推移を見守った。


 そして自衛隊は事実上の敗北を喫し、紆余曲折を経てダンジョン攻略が民営化。

 一般人が大手を振るって冒険者になれる時代がきた。

 母にはダンジョンに近づかないようにと念押しされているが、父は少し理解を示してくれていて、身の安全を第一に行動するようにと念押しされただけでダンジョンに入る事そのものは止められていない。


 こうして二階堂はガーディアンズ所属の冒険者になった。


 拓真の刻印は口の悪い四大刻印冒険者が見下して言うところのハズレ刻印で、一層前半のゴブリンは突破できたが、一層後半のルーンウルフを超えられなかった。

 剣道や武道を修めていたり、トレーニングジムに通っていたりしている冒険者や、装備をガチガチに整えてきている冒険者はハズレ刻印でも二層に行ける。しかし彼らですら二層は超えられない。二層を突破し、三層に行けるのは刻印の力を引き出せる剣士・弓使い・斥候・格闘家の四大刻印を持つ冒険者だけだ。


 ハズレ刻印の冒険者は彼らを羨望と嫉妬の目で見るしかない。

 しかも二階堂のような新参のハズレ刻印持ちは二重で劣等感に苛まされる。

 民営化後に冒険者になった新参は古参勢――――民営化前からダンジョンに潜っていた生粋のアウトロー達とは空気感が違う。古参勢は誰も彼もが浮世離れしていたり殺気立っていたり話が通じなかったりして独特の雰囲気があり、名乗らなくてもすぐにそうと分かる。

 結局古参勢であってもハズレ刻印なら二層で止まっていて攻略状況は新参と変わらないのだが、気圧されるし何か敗北感を覚えてしまう。


 二階堂はすぐに自分が冒険者の花形、四大冒険者と並び立つのは無理だと悟った。

 そこで思考を切り替え、自分にできるダンジョンの楽しみ方を考える。

 注目したのはハズレ刻印だった。


 ハズレだハズレだと言われているが、本当に全く無価値で使い物にならない刻印だと思っているのは冒険者の半数ほどだ。残り半数は条件を満たしていないだけでハズレ刻印にもちゃんとした恩恵があると考えている。二階堂も同意見だった。


 二階堂は自分の刻印の隠された力を発揮させるための検証を始めた。必ずできるはずだという確信があった。


 二階堂の刻印は開いた本と杖が組み合わさった形をしている。魔法系の印象を受ける形だ。

 四大刻印は刻印の形状がそのまま刻印の恩恵の特徴を示している。剣の刻印なら剣技に、弓の刻印なら射出投擲に補正がかかる。それならば他の刻印も同じように刻印の形状になぞらえた恩恵を発揮するはず。


 二階堂がダンジョン民営化直後にガーディアンズの冒険者になり、予測に基づいて刻印の検証を初めてから二週間が経過していた。


 現在、二階堂はダンジョン一層の一角で呪文を試している。

 刻印の形状を参考に、左手に大学ノートを、右手にはホームセンターで買ったヒノキの棒を削って作った杖を持っている。


「Esmin! Esmio! Esmip! Esmiq! Esmir! Esmis! Esmit! Esmiu! Esmiv! Esmiw!」


 叫びまくっている二階堂には誰も近づかない。全員が全員ヤバい奴を見つけてしまったように見ないフリをして通り過ぎていく。


 二階堂は総当たりで呪文を試していた。

 日本語のあいうえおから始め、世界中の言語を調べ文字を組み合わせ抽出し発音記号を学び、人間が発音できるあらゆる音を網羅し組み合わせて試している。英語五文字詠唱の検証中だ。

 もし刻印によって魔法を習得していて、その魔法発動の鍵が杖・本・詠唱であるなら、総当たり式で試していればいつか必ず発動する。

 詠唱の他に動作が必要だったり、魔法陣を描く必要があったり特定のイメージが必要であったりしたら無駄に終わるが、検証勢は二階堂一人ではない。二階堂はガーディアンズの検証勢と情報交換をしていて、中には魔法陣の検証を試していたり、血文字や動作での魔法発動をしようと試みている冒険者もいる。

 いずれ誰かが魔法の発動に辿り着くだろう。検証勢は誰もがその「誰か」になるために今日も根気強く地道に検証を重ねている。


「Esmja! Esmjb! Esmjc! Esmjd! Esmje! Esmjf! Esmj――――」

「あの、何やってるんです……?」


 検証を進めていると不意に話しかけられた。軽く引いた様子で話しかけてきたのは二階堂でも知っている有名人、通称「婚活男」だった。


 彼はダンジョン内の女性冒険者に第一声で「可愛い女の子紹介してくれない?」と話しかけたり会話していると頻繁に「結婚してぇ~」というボヤきを挟み込んで来るため「婚活男」と呼ばれている。本人はギドーと名乗っているが本名ではないらしい。

 ダンジョンで婚活している頭のおかしい古参勢の一人だが、ダンジョンの奥の方から現れる事が多く、四層で活動している冒険者だと噂されている。

 刻印は謎。いつも指ぬきグローブで隠してしまっていて形状も効果も分かっていない。「一匹オオカミ」と同じく単独で深層を冒険できる冒険者であり、強力な刻印を持っている高レベル冒険者に違いない。もしかしたらレベル5、高めに見積もって6に到達している可能性もある。


 繋ぎを作っておいて悪くない相手だ。

 二階堂は愛想よく答えた。


「詠唱の検証をしています。僕はこういう刻印なんですけど、見た感じ魔法っぽいでしょう? 発音を組み合わせていけば正しい詠唱を当てて魔法を使える可能性があるんじゃないかと思いまして」

「……へぇ」


 婚活男は二階堂の刻印を見ながら低い声で頷き、特に話を掘り下げず出口の方へ歩いて行った。

 婚活男も魔法の検証に興味があるのだろうか? 二階堂はそんな事を考えながらまた総当たり式検証作業に戻った。







 ダンジョンの中で奇行に走りがちな検証勢に会うのは初めてではなかったが、さっき会った詠唱検証マンは完全に目が逝っちゃってた。そして検証の方法が合っている。アイツはやる奴だ。

 俺もダンジョンちゃんの話を全て覚えているわけではないが、確かあの刻印は割とポピュラーな「魔術師」の刻印で、杖を持って詠唱すると魔法を行使できたはずだ。総当たりで呪文の検証をしていればそのうち正解を引き当てるだろう。たしか初歩的な魔法は詠唱も短かった。

 ついにダンジョンにも魔法導入か……ワクワクするけど冒険者の脅威度が高くなるのは嬉しくない。またダンジョンちゃんと相談が必要だ。


 考えつつ地上に戻ると、ぞろぞろ列を作ってダンジョンに入っていったり出てきたりする冒険者達の他に、屋台が目に付いた。

 ここ数日、冒険者向けの商売をする屋台が増えてきた。人が来るところに金が来て、金が来る所には商売人が来るものだ。


 ガーディアンズが政府から委託されている多摩川入口は河川敷に面していて、ざっと見ただけで十軒は並んでいる。特に人気で人が並んでいるのは軽食屋と研ぎ屋だ。

 冒険者のメインウェポンは包丁、ナイフ、バット、フライパンあたりが多い。入手が容易なのが大きいようだ。刃物を使う冒険者をターゲットにした研ぎ屋は目論見通り盛況らしい。

 ちなみに冒険者一揆に参加していた古参冒険者は自衛隊からパチッたコンバットナイフを愛用している奴が多く、出雲などはわざわざ収納ベルトを作って十本ほど携帯している。


 俺は武器が無くても戦えるタイプの刻印だが、見せ札として何か武器を持っておくのも悪くないかも知れない。

 出張スポーツ用品店の屋台(なぜか金属バットやアーチェリー用の弓、竹刀などばかりが並んでいる)に足を向けると、屋台の店主と何やら話している神代社長を見つけた。


 休日の女子高生が自宅で着ているようなラフなジーンズとTシャツ姿で、プリントされた猫さんが大きな胸に押し上げられて歪んでしまっている。

 はわわわわ! 魅力通り越して暴力だぞこんなの!


 フラフラ吸い寄せられていくと、神代社長は俺に目を留め、ほんわかした笑顔で声をかけてくれた。


「あら、あなたは……お久しぶりですね。調子はどうですか?」

「調子? 調子はー、絶好調ですね。ちょっと言いたい事あるんですけど大丈夫ですか」


 神代社長と話すのはこれで二度目だ。

 もう初対面ではない。知らない仲ではない。割と仲良くなっているといっても過言ではない。

 言うタイミングはここしかないだろ。ここがベストタイミング……!

 俺が確認を取ると、神代社長は可愛らしく首を傾げた。


「なんでしょう?」

「好きです! 結婚して下さい!!!」

「ええ、喜んで」

 神代社長は頬を染め二つ返事で告白を受け入れてくれた。

「良かった、良かったなぁ……!」

「ああ、お前は本当によく頑張った!」

 ずっと俺を見守っていてくれた評価ボタンさんとブックマークさんも号泣しながら祝福してくれる。

 ここまでやってこれたのは全て評価ボタンさんとブックマークさんのお陰だ。病める時も健やかなる時も、いつでも二人は助けてくれた。

 俺は無限の感謝を込めて評価ボタンとブックマークを押し、神代社長と手を取り合い、満ち足りた気持ちで結婚式場へ向かった。


~ハッピーエンド~

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― 新着の感想 ―
ギドー、あんた検証勢よりよっぽどイッてるよ(笑)
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