26 不遇職はすっこんでな!!!
国にダンジョン攻略を委託された三社の民間警備会社のうち、新興でゆるゆるなガーディアンズは偵察できたが、OIS社と江戸警はガードが固くて無理だった。公式HPには当たり障りのない事しか書いていないし、探りを入れれば怪しまれ、容赦なく拘束や裁判に持ち込まれる。特にOIS社はそのあたりが厳しく、東京支社に潜入取材をしようとしたレポーターが普通に拘束され、裁判沙汰になっている。こわい。
三社によるダンジョン攻略開始を期に冒険者一揆で手に入れた生命力で食いつないでいたダンジョンちゃんの経営事情は好転した。
一層前半にはゴブリンを。
一層後半にはルーンウルフを。
二層にはロックゴーレムを。
三層にはファイアバットを。
四層にはファイアバットとルーンウルフを。
五層にはリビングアーマーをそれぞれ配置し、死なない程度に冒険者をボコって稼いでいる。
ここで問題になるのは俺とダンジョンちゃんの連絡手段だ。
一層しか無かった頃は階層が浅かったので地上とダンジョンコアの間でスマホの電波が通じていたが、五層ほどの深さになると完全に電波が通じない。
ダンジョンちゃんはこれを生命力を消費する力技で解決した。
スマホを通信モンスターと融合させてしまったのだ。
見た目や基本機能は融合前と変わらないが、ダンジョンちゃんアプリが追加されていて、いつでもどこでもダンジョンちゃんと魔法的な通話ができる。ダンジョンちゃん側からスマホを遠隔操作する事も可能だ。
ダンジョン族が同族間の通信に使うという通信モンスターは魔法を扱えるそこそこ上等なモンスターで、綿毛のような見た目をしている。戦闘力は皆無だ。
召喚コストは200,000生命力とお高い。そこにスマホとの融合処理が加算され、合計250,000生命力もの出費を強いられた。家計に大打撃だ。
しかしダンジョンちゃんと自由に連絡がとれないと不便だし、地味に充電の必要もなくなっている。一生モノと考えればむしろ安いぐらいだろう。
民間三社が攻略を開始して一週間が経った現時点での攻略状況は、OIS社が四層前半、江戸警が三層。ガーディアンズも三層。
ただしガーディアンズとインターン契約を交わしていない出雲もガーディアンズ所有のダンジョン入口を使っている。出雲をガーディアンズにカウントするなら、ガーディアンズは四層だ。
ちなみに自衛隊が設置した橋頭保は冒険者一揆で破壊されているし、その後ダンジョンちゃんがモンスターを使ってせっせと撤去したため残っていない。各社共に足がかりゼロで攻略を行っている。
四層は群れで連携して襲い掛かるルーンウルフに宙から不規則にちょっかいをかけてくるファイアバットが加わり、単独での対応力を飽和させている。これに対し、冒険者は徒党を組む事で対応し始めていた。
OIS社や江戸警は最初から数人グループを作って攻略していたが、基本的に数だけ多い烏合の衆なガーディアンズの中でもグループができてきている。ただし拾った黄金の配分でモメて殴り合いに発展したり、怪我で一時離脱するメンバーが出るせいでせっかく結成したパーティが解散してしまったり、軋轢イザコザは多い。
そんな衝突の中で、刻印優遇がはじまっていた。優れた刻印を持つ者同士でグループを作って先に進み、役に立たない刻印を持つ者が攻略最前線についていけなくなり取り残されている。
ダンジョンちゃんが侵入者に刻む刻印は、本人の素質や経験、嗜好を総合して自動決定される。そして刻印に対応した恩恵を受ける事ができる。
例えば剣の刻印は剣士の適正を示し、刃物を扱う時に威力や技術にプラス補正がかかる。これがあるかないかでは全然違う。レベル3剣士なら一度も剣術の訓練をしていなくても有段者の動きができる。
冒険者の間で「使える」とされている刻印は、
剣技に補正がかかる「剣士」。
投擲・射出に補正がかかる「弓使い」。
武器を使わない近接格闘に補正がかかる「格闘家」。
無音歩行、物探しなど探索系の行動に補正がかかる「斥候」。
この四つだ。
逆に言えばこの四大刻印以外の刻印は「使えない」「ハズレ」とされている。
刻印は現在151種類が確認されていて(ネット上の情報+ガーディアンズ情報)、多種多様な刻印をリストアップし分析しようという試みは以前から行われていた。それが最近モノになり、ダンジョン攻略に活用されているわけだ。
ところが四大刻印の所有者は冒険者全体の数パーセントに過ぎず、大多数の冒険者は刻印の恩恵無しでダンジョン攻略をしている。そういった俗に言う使えない冒険者は一層か二層で詰まる。
例えば、世界総合格闘技大会2位の経歴を持つ本物の格闘家がガーディアン所属で冒険者をやっているのだが、彼の刻印は『狂戦士』。負傷したり状態異常にかかったりすると攻撃力が飛躍的に上がっていく。
ところがそもそもモンスターの攻撃を卓越した身体能力と技術で全回避するか逸らすかしてしまうためカスリ傷すら負わず、刻印の力を一度も発揮できていない。そのせいで攻撃力が不足しロックゴーレムを突破できず、二層で止まっている。
杖の刻印や薬瓶の刻印など、魔法や回復を暗示する刻印もある。特に回復能力は負傷による攻略一時休止が頻発するダンジョン内で切望されている。
ダンジョン内で怪我は日常茶飯事なのに、怪我をすると何日・何十日もダンジョンに潜れなくなる。そこに回復能力を使える冒険者が現れれば問題解決だ。
が、どうすれば刻印の力が発揮されるのかやはり分かっていない。
そこに着目し、最近は冒険者の一部がダンジョン攻略そっちのけで刻印の力を引き出す方法をあれこれ試している。検証勢というやつだ。
ダンジョンちゃんやダンジョンちゃんから話を聞いている俺はどうすればそういった一見して無能な刻印の力を発揮できるか知っているが、わざわざ冒険者の脅威度を跳ね上げる意味はないので黙っている。
放っておいてもそのうち判明するだろうから黙っていても時間稼ぎにしかならないのだが、時間稼ぎの大切さは語るまでも無い。
いずれ今は不遇扱いのハズレ刻印が日の目を見て、ダンジョン攻略は加速する。それまでにどれだけ生命力を稼いで備える事ができるかが重要だ。自衛隊を退けてもまだまだ油断はできない。
俺の警戒は良くも悪くも当たった。冒険者の中から「評価ボタン」と「ブックマーク」の二大刻印を持つ者が現れたのだ。
「評価ボタン」の刻印を持つ者は「評価ボタン」を押す事で部活でレギュラーになって成績が上がってかわいい恋人ができる能力を持つ。
一方「ブックマーク」の刻印を持つものは、各話の一番上か一番下らへんにある「ブックマークに追加」ボタンを押す事で悩み事が解決して無くした物が見つかり金運が上昇する能力を持つ。
二大刻印を使いこなす偉大な冒険者という名の読者達はダンジョンと人類の間に均衡と平和をもたらし、かくして俺とダンジョンちゃんは最高の結婚相手と幸せ結婚生活を掴み取る事になった。
~ハッピーエンド~




