24 冒険者ギルドのインターンシップ
民間警備会社ガーディアンズ・オブ・ユニバースのインターン説明会はガーディアンズに割り当てられたダンジョン侵入経路、多摩川入口のすぐ隣で行われた。
多摩川入口は多摩川の堤防の横っ腹に空いた洞窟だ。それを隠すようにコンクリートブロックの壁が作られ、コンテナハウスが併設されている。
インターン説明会は午前八時から開かれるというので七時半に行ったのだが、既に長蛇の列ができていた。多摩川河川敷にカラーコーンを置き、ロープを張って作られた通路に沿って列が作られている。何度も折り返して続く列は通路をはみ出し、河川敷の彼方に続いて最後尾が見えなくなっている。
仮設トイレにまで長蛇の列ができていて、見ているだけで既に面白い。人ってこんなに集まるもんなんやなって。
今回俺は敵情偵察に来ただけであって、列に並ぶつもりはない。
俺と同じように堤防の上に集まって野次馬をしている人々に混ざり、インターン生を眺める。
インターン生はやはり男性が多かった。女性もいるにはいるが、全体の一割もいない。その少ない女性も窮屈そうに男性に取り囲まれ、説明会の開始を待たずして列を抜けてしまう人が多かった。
まあね。俺だって女性参加者九割強のイベントに紛れ込んだら死ぬほど居心地悪い。逃げたくもなるだろう。
こうやって冒険者稼業から華が消えていくのか……つら……
群衆の中でつま先立ちをして見ていると、社員の腕章をつけた制服の人がせっせと列に並ぶ人に紙を配っていた。スマホのズーム機能で確認すると文字がずらずら書いてあるのが分かる。説明書とか案内書とかそういう感じのアレらしい。
しばらく行列を眺めていると、定刻になった。
用意されていた檀上にTシャツ短パンのえっらいラフな格好をした美人さんが上がり、軽くハウリングさせながらマイクに向かって話しはじめる。司会進行役だろうか。
「おはようございます。ガーディアンズ・オブ・ユニバース社長の神代です。本日は弊社インターン説明会に参加して頂きありがとうございます」
エッッッッッ!?
社長!?
社長の服装じゃねぇだろ! 威厳も緊張感も欠片もない!
いやそれより女社長だって事は知ってたけどなに? めっちゃ美人やんけ!
ショートカットの黒髪で身長は低め。整った可愛い系の顔に朗らかな表情を浮かべていて、良い意味で無邪気な少女がそのまま大人になったような印象を受ける。ただし胸のサイズは少女じゃない。
えっ?
これ運命の出会いでは?
社長だし5憶円ぐらい貯金がありそう。
可愛い。
おっぱい大きい。
あとは性格良くて俺の事が大好きで他の男にフラフラしない女性だったら完璧やんけ。
はわわわわわわわ……!
「みなさん、長話聞きたくないですよね? 私もしたくないです。短くまとめます。一分で終わります。履歴書を持参して下さった方は赤い旗の入り口へ進んで下さい。履歴書とお配りした同意書にサインした物をあわせて提出すればインターン開始。ダンジョンに入れます。ネットで履歴書データを送って下さった方も赤い旗の入り口へ進んで下さい。返送した登録番号を同意書右上に書き込み提出すればインターン開始。ダンジョンに入れます。履歴書を持っていない方は青い旗の入り口に進んで下さい。履歴書とボールペン、デジタルカメラが置いてあります。その場で書いて顔が分かるように自撮りして、印刷して貼って、同意書とあわせて提出すればインターン開始。ダンジョンに入れます。やっぱインターンやめとこと思った方は自由に列を抜けてOKです。詳しくはお配りした説明用紙をご覧ください。全部書いてあります。読んでもわからないよー。という方は黄色い腕章をつけた社員にお尋ねください。以上で説明を終わります。ではみなさん、人生を楽しみましょう!」
一気に言った神代社長はにっこにこでバイバイして降壇した。
マジか。これは性格良い。性格の良さが滲み出てる。既に棒立ちで長々待ち続けているインターン生が心から望んでいるモノを分かってる。
話を短く済ませる人はいい人だ。前の会社でもダラダラ長々説明する奴ほど無能で性格悪かった。
是非お近づきになりたい。結婚したい。
野次馬の群に体をねじ込ませ、列待ちするインターン生で埋め尽くされた河川敷におりていく。別にインターンをやりたいわけではないので、列を無視して降壇した社長が入って行ったコンテナハウスに向かった。
落ち着け俺。出会って即告白するとフラれるんだ。好きって気持ちをぶつけると引かれるんだ。出雲の過ちは繰り返すまい。
今回はちょっとだけでもお話して顔を覚えて貰えばOK……と思ったら社長が入って行ったコンテナハウスの前にゴリゴリに鍛え上げられた厳ついマッチョおじさんが警棒で肩を叩きながら目を光らせていた。
アッ……そう、そうっすね。警備会社ですもんね。社員の方はやっぱもちろん筋骨隆々でいらっしゃる……
このおじさんに社長とお近づきになりたいですと話しかけるのはちょっと無理だ。
ダンジョン内ならなー。体格差なんて関係ないんだけどなー。地上だからなー。どれだけレベルアップしてダンジョンで超人変態機動ができるようになっても地上ではただの人。やっぱ筋肉つけた方がいいのかな。俺の腹筋、割れてるどころかちょっとムニムニしてるし……
戦わずして敗北し肩を落として帰ろうとすると、コンテナハウスの一角で何やら騒ぎが起きていた。
「だーから同意書は書かないって言ってんでしょ! 要る? それ本当に要る? 自己責任って分かってるんだからさあ!」
「いえ、これはお互いの自由と不干渉を守るためのものでして、」
「うるせー! 狼は縛られない! こんな紙切れで人を拘束しようなんて図々しいぞ!」
う わ あ 。
見覚えのある奴だった。見覚えがあるというか出雲だ。
やべぇよやべぇよ。何やってんだアイツ。
インターンにいつものもっさりジャージで来てるのはいいとして、完全に厄介クレーマーになってる。しかも超美人が色気の欠片も無い服装で大騒ぎをしているからめっちゃ目立っている。
こっわ。悪目立ちにもほどがある。関わらんどこ……
「あっギドー! ギドーだろお前! おいそこの右手にスマホ持ってしましま帽子被ってるお前だよ! こっち向け! ギドーからもなんか言ってやれ! こいつら冒険者の自由ってやつを全然分かってない!」
「クソがキレそう」
思いっきり叫ばれ強制的にフィールドに引きずり込まれた。
出雲お前さあ……せっかく知らんぷりオーラ出してたのに。
まあいいか。窮地の仲間を見捨てる奴はゴミクズだ。出雲は俺と仲間じゃないし友達でも無いと言い張っているが、さりとて無関係という訳でもない。
仕方ねーな。どれ、おにーさんに話を聞かせてみなさい。大体内容は想像つくけどな。
「聞けよ、こいつ評価ボタンで10点満点中2点評価をつけやがった! 許せねぇよなあ!?」
「あ、なんか思ってたのと違った」
話の流れも違う気がするがまあいい。俺は怒り狂う出雲の頭を撫で、顎をコショコショしてやりながら返す。
「よーしよし、良い子だ。落ち着け出雲~。2点でもいいんだよ、評価ボタンを押してくれたっていうのが大切なんだ。評価ボタンを押してもらえなくて0点より、押してもらって2点の方がずっといい。そりゃ10点満点もらえたら一番嬉しいけどな。そうだろ?」
「そうだな。わかりみ」
分かってくれた。
評価ボタンの解釈違いは悲しい事だ。しかし話し合えば必ず分かるし、こんなめんどくさい論争なんて起きないから読者は普通に気楽に評価ボタンを押せばいい。
それが世界から争いを無くし、理想の結婚相手を見つける事に繋がるのだ。俺はそう確信している。
~ハッピーエンド~




