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23 イカれた冒険者ギルドを紹介するぜ!

 日本政府にダンジョン攻略を委託された民間警備会社は三社だ。


 一社目は日本にも支社を持つ多国籍企業、オズワルド・インターナショナル・セキュリティ社(OIS社)。

 OIS社はアメリカのリッチモンドに本社を置く世界第二位の警備会社だ。40ヵ国で活動し、年商は80億ドル(≒8500億円)。家庭用警報システム、企業向け監視モニターの取り付けなどから、現金輸送車や武装ガードマンの貸し出し、番犬の販売、安全保障コンサルティングなど手広く活動している。過去に多国政府からの仕事の委託を何度も受け完遂した実績があり、今回もそこが評価され抜擢された。


 日本に出現したダンジョンには外国も注目している。日本はダンジョンから生まれる利益を独占して各国から突き上げを喰らうより、外国の参入を許し利益を分け合う方が外交上良いと判断したようだ。政経新聞に書いてあった。

 OIS社のダンジョン侵入経路には東京都心陥没孔十九番、通称「イチョウ並木入口」が割り当てられている。


 二社目は日本最大手の古参民間警備会社、大江戸総合警備(江戸警)。

 江戸警は日本人なら誰でも名前ぐらいは聞いた事のある有名企業で、テレビCMや電車内の広告などでよく見る。機械警備を主体として活動し、ホームセキュリティやビルの総合警備で同業他社の先を行く。しかしもちろん警備員の派遣も行っているし、護身術の指導講習なども請け負う。


 日本では銃刀法、警備業法により警備員の装備品は警戒棒、盾など非殺傷性の護身用具に限定されている。日本国内に武力を持つ民間軍事会社は合法的に存在しない。

 途中で妨害を受けたとはいえ自衛隊ですら攻略できなかったダンジョンを装備でも練度でも規模でも劣る警備会社が攻略できるわけがない。

 しかし自衛隊でなければ誰がダンジョン攻略をするのだ? と問われたら、警備会社ぐらいしか無かった。まさか自衛隊ですら大騒ぎになった都心でのダンジョン制圧作戦を在日米軍や国際傭兵部隊に任せるわけにもいかない。

 そして日本の警備会社と言ったら規模も信頼度も知名度も最高の江戸警。ダンジョン攻略の委託先に江戸警が選ばれないわけがない。誰もが納得の順当な抜擢だった。

 江戸警のダンジョン侵入経路には東京都心陥没孔二十二番、通称「篠崎公園入口」が割り当てられている。自衛隊も突入に使った侵入経路だ。


 三社目は競売枠で参入した埼玉に本社を持つ新興企業、ガーディアンズ・オブ・ユニバース(ガーディアンズ)。

 設立四年目、社員二十人の警備会社なのだが、SNSでバズり、有志の融資が殺到し大量の資金を確保。競売枠の落札に成功した。映画・アニメなどサブカルチャーに傾倒している二十六歳の若社長は「宇宙を守る警備会社」を掲げ、社員からの人望は厚い。


 ガーディアンズは未経験歓迎・年齢・資格不問・サブカルチャー好き、という条件で五十人の社員募集をしている他、長期的な大規模インターンシップを行う事を大々的に公表している。仄かにブラック企業臭がするためガーディアンズ公式SNSアカウント広報で確認したところ(アクセス過多によるサーバーダウンで公式HPは機能不全になっている)、そう悪い条件でもなかった。


 ガーディアンズのインターンシップではダンジョンに自由に潜る事ができる。身の安全どころか命も保証されないが、集めた財宝は全て自分の物にできる。何の保証もされない代わりに、何の制限も受けないのだ。

 ダンジョンの出入り口のすぐ外には買い取り所があり、ダンジョン内で手に入れた物はそこですぐに現金に換える事ができる。売らずに持ち帰る事もできる。

 事実上のダンジョン一般開放だ。中々思い切った事をする。


 OIS社と江戸警は基本的に自社内でダンジョン攻略を回すつもりらしく、若干名の新社員募集はしているもののガーディアンズほど開けっ広げに門戸を開いていない。

 門戸を大きく開けばそれだけヤベー奴、足を引っ張る奴、無能な奴を抱え込んでしまうリスクが上がる。既に優秀な人材を多数抱えているならばわざわざする必要もない。

 しかし一方で大量の人材の中から型破りで優秀な人間が現れ、育つ事も有り得る。


 俺はなんとなく戦国時代の楽市楽座を思い出した。

 経済政策の一種である楽市楽座では、税の免除を行ったり既得権益の介入を排除したりする事で新興商工業者を育成し、商人を集め、経済の活性化が図られた。ガーディアンズがやろうとしている事はそれと似たようなもので、決して前代未聞の無茶ではない。成功の見込みはある。


 もちろん、制御不能の混乱状態に陥りガーディアンズの経営が傾き潰れる可能性も高いだろう。

 ガーディアンズが今後成長していくか潰れるかは運と経営陣の腕前にかかっている。

 なお、ガーディアンズのダンジョン侵入経路には東京都心陥没孔七番、通称「多摩川入口」が割り当てられている。

 

 OIS社、江戸警、ガーディアンズ以外の政府の委託先として選ばれなかった民間警備会社の状況だが、そちらも求人をかけていて、株価を軒並み上げている。

 事態の推移を確かめ慎重に検討した上で今後委託企業を増やす可能性も考慮している、という防衛大臣の発言もあり、初陣の三社に選ばれなかった会社も第二陣として参入するのではと考えられているのだ。


 ダンジョンと冒険者が織りなす新時代の潮流を感じる……!

 一攫千金、成り上がり、結婚、幸せ不労所得生活!

 夢が膨らむぜ。


 婚活戦線の夢のためにも三社への対応は慎重に行っていかなければならない。

 自分達の強化発展と同じぐらい、敵を知る事が大切だ。

 そこで俺は一番探りやすいガーディアンズのインターシップに参加する事にした。

ガーディアンズのインターンシップでは、真っ白な部屋にボタンが二つ置かれていた。

部屋には俺一人しかいない。そして「押せ」という看板だけが立っていた。

片方は「評価ボタン」。もう片方は「ブックマークに追加」。

一体どちらを押せばいいのか? 答えを間違えたらインターンシップから蹴り出されるだろう。

迷った末、俺は両方を押した。選ぶ必要などないのだ。欲張ればいい。両方押せるなら両方押してしまえばいいのだ。

すると部屋の扉を突き破ってガーディアンズの社員が一斉に入ってきて、俺を胴上げした。

「なんという知性と決断力だ! 評価ボタンとブックマーク、両方を押してしまうなんて! あなたこそ我が社を任せるにふさわしい!」

「俺達を導いてくれ!」

こうして俺はガーディアンズの社長になった。


~ハッピーエンド~

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[一言] ガーディアンズは評価ボタンからの刺客だったのだ……
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