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22 冒険者の ちょっといいとこ 見てみたい!

 出雲曰く、自衛隊は冒険者の反乱を喰らって撤退していったらしい。


 そもそも国が侵入を禁じていて更に危険を伴うダンジョンに潜り財宝を探す冒険者は全員がアウトローだ。加えて社会的に裕福でない場合が多い。ニート、無職、日雇い労働者など。

 危険地帯に行っても家族や友人が止めなかったり、そもそも家族も友人もいなかったり。仕事が見つからない中高年がやむにやまれずダンジョンに潜りその日の食事代と宿泊費を稼いでいる場合も少なくない。


 困窮していないのにロマンや冒険を求めてダンジョンに潜る者もいるが、大半は国の立ち入り禁止で思いとどまる。定職についていれば潜る時間は限られるし、一度怪我すれば懲りる。家族や友人に止められてやめるパターンもある。


 自衛隊はそういった冒険者をひとまとめに締め出した。

 家族に見捨てられ友人も無く、会社に居場所が無かったり働こうとしても雇ってもらえなかったり。色々な理由でダンジョンに生きる希望、生き甲斐を見出した冒険者達をダンジョンから引き剥がした。

 そうしておいて、何のサポートもしなかった。

 就職先を斡旋したり補償金を支払ったり丁寧に事情を説明したり、そういう事をしなかった。危険だから、国がそう決めたから、それしか言わなかった。

 

 鬱屈した日々を送っていた人々が一度希望を見て、それを奪われた。

 ケアもされなかった。

 だからブチ切れて、結託して反乱を起こした。

 そういう経緯だ。自衛隊は、国は、軽く扱って甘く見た弱者達に足元をすくわれたのだ。


『冒険者一揆』と名付けられたこの反乱では、冒険者達が全員顔を隠し東京各地に散らばる入口から時間を決め一斉に侵入。ダンジョン内に設置された中継地点・物資集積所から武器弾薬食料医薬品などを略奪、あるいは火をつけ焼き払った。ダンジョン内での連絡用に埋設されていた電線も寸断し、通信機も破壊。歩哨を襲い、集団で叩きのめした。

 自衛隊は市民を撃てない。となると取り押さえるしかないのだが、冒険者の大部分は自衛隊よりレベルが上で、手に負えない。

 背後を突かれ、物資を奪われ、補給線を断たれ、情報網を切断された自衛隊はやむを得ず撤退する事になった。

 出雲も顔を隠して暴れ回り、略奪の限りを尽くしているようだ。最初は俺も一揆に参加していち早く最深部で自衛隊とバチバチやったのだと思い込んでいたらしい。


 話を聞き終わる頃にダンジョンちゃんが意識を取り戻し、一揆で得たのだろう生命力(ライフ)を黙って俺に流し込んでくれた。負傷が一瞬にして完治し、ついでにボロ切れになっていた服が修復され血のりも消える。

 出雲は目を丸くして驚いた。


「は? 何? つっっよ! 回復系ジョブだったんだ?」

「違う。そういう事もできるってだけで」

「は~……」


 感心する出雲に俺は咳払いを一つして、さっきからずっと気になっていた事を聞いた。


「なあ、さっきキスしただろ」

「何照れてんだおめー。薬飲ませただけじゃん」

「いやあれはキスだった。俺の事好きなんだろ。結婚する? 出雲なら悪くない」


 出雲はなんとも言えない顔をして、俺が今まで聞いた中で一番深く重いため息を吐いた。


「…………あんな、私も恋愛エキスパートじゃないけど分かる。ギドー絶対モテないだろ。結婚しない」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!!」


 またフラれたァあああああああああああ!

 いやぁあああああああああああああああ!!

 なぜぇえええええええええええええええ!!!


 強大な力を持つ敵を倒し、いい雰囲気で幸せなキスをして結婚!

 そういう流れだったじゃん!

 なんで!!??


 出雲は泣き喚く俺を可哀そうな子供を見るような目で見て、自衛隊のレーションをそっと置いて帰っていった。

 畜生、悲しくねーぞ。

 出雲は可愛くておっぱい大きくて他の男にフラフラしない女性だが、貯金無いし性格良く無いし俺の事が大好きでもない。俺の理想の結婚相手ではない。うっかりプロポーズをしてしまったが断わられてむしろ良かった。


 だから悲しくない。

 悲しくないけど泣く。


『もう喋っていいよね? 泣かないでギドー、カッコよかったよ』

「泣いてねーし! ……いや泣いてたわ。慰めてくれガッツリ」

『えっと、ギドーはすごい! えらい! がんばった! つよい! 最高! 好き!』


 ダンジョンちゃんは一生懸命慰めてくれたが、語彙が貧困過ぎて笑った。でも逆に全部本音だと分かって心が温かくなる。


「ありがとう、ちょっと元気出た。まあなんだ、俺達は頑張ったよな」


 結果だけ見れば冒険者の横槍で引き分けに持って行った事になるが、俺が体を張らなければ、ダンジョンちゃんが俺を信じてくれなければ引き分けにもならなかった。

 だからこれは事実上のダンジョンちゃんと俺の、ダンドー婚活戦線の勝利だ。








 その後の話をしよう。


 冒険者一揆に参加した冒険者は三百名を超え、そのうちダンジョン侵入前に地上で拘束されたのが三十名、ダンジョンから出る時に拘束されたのが二名(大多数は自衛隊が封鎖していない私有地の出入り口から脱出した)、ダンジョン内で拘束された者はいない。


 自衛隊が市民の暴動を抑えきれず、面子が潰された形になるが、市民からは自衛隊への非難が噴出した。

 地上からダンジョンに侵入しようとする冒険者を抑えるために自衛官が行った威嚇射撃の現場を捉えた動画がネットに流出し、「自衛隊が市民に発砲した」という事実だけが切り抜かれたのだ。

 これがもう死ぬほど叩かれた。自衛隊を潰せ、ぐらいの勢いで世論は加熱した。マスコミもそれを煽った。デモが日本中で起き、自衛隊と政府の広報部機能が麻痺するほどのクレームの嵐が吹き荒れた。


 しかし数日もすると今度は冒険者の事情がクローズアップされる。

 冒険者を締めだした結果起きた事態だったのだ、それが間違っていたのだ、という論調にすり替わっていく。


 そもそも自衛隊が都心部で作戦行動を行うという事実そのものが国民の不安を煽っていた。そこに発砲沙汰と冒険者への無体が重なった。

 国はダンジョンの脅威を強調したが、国民の非難は収まらない。市民を守るためと言いながら市民に発砲した自衛隊は危険で、解体すべきとの声まで上がった。


 たぶん、色々な団体の利権と主張が絡み、複雑な協議が裏で行われたのだと思う。

 しかし最終的に自衛隊のダンジョンからの撤退が決められ、代わりに民間の警備会社にダンジョン攻略を委託するとの公式声明を出した。


 つまり、ダンジョン攻略の民営化だ。


 政府は委託先の警備会社に監督官を派遣する事で表向きの指揮権を維持し、面目を保つ。市民の暴動に屈したのではなく、民意を受けて対応を変えただけなのだという体裁を取る。

 冒険者は警備会社に入れば堂々と冒険を再開できる。警備会社各社は政府の発表直後から、経歴不問の大規模社員募集をかけている。明言はしていないが、ダンジョン攻略ノウハウを持っている冒険者をいち早く取り込むための募集と見て間違いない。


 そして自衛隊がダンジョンちゃんを完全攻略しかかった日からちょうど一ヵ月。

 自衛隊が封鎖を続けていたダンジョン入口がついに民間警備会社に解放された。


 冒険者時代の始まりだ。

 冒険者時代は評価ボタンの隆盛と切っても切れない関係にある。

 小学生や中学生の時、バスの緊急停止ボタンや火災警報器のボタンを押したくてたまらなかった、しかし押せなかった。そういった過去を持つ冒険者の心を評価ボタンは鷲掴みにしたのだ。

 評価ボタンは誰でも押す事ができる。押してはダメと誰も言わないし、押すと作者が喜びすらする。

 評価ボタンはまだガンに効かないが、そのうち効くようになるだろう――――有識者はそう語っている。

 冒険者をやっていれば辛い事もあるだろう。しかし評価ボタンを押せば必ず苦難は乗り越えられるのだ。


~ハッピーエンド~

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